前世の記憶が戻った
チュンチュン
ーキーチ様、起きてください
ガバッ
俺、キーチ アレスガレフは15才となったこの日、小林正人だった記憶を思い出した。
「俺は…いったい」
「お目覚めですか。旦那様がお待ちです。すぐに準備してください。キーチ様の元服とここの領主権が旦那様から譲渡されるセレモニーがあるのですから。」
メイドの話を聞いているうちに、今世の記憶がよみがえり、前世の記憶と上手く共存できるようになった。
身支度を整えたあと、
「あとセレモニーまで3時間くらいあるよね。
ちょっと父と話たいことがあるんだ。すまないがセレモニーが始まるまで自由にさせてくれないか。」
そういうとメイドのメイさんはすぐに父のもとに案内してくれた。
アレスガレフ家では子供が成人した際、領土の一部を治める権利がもらえる習慣になっていた。
本来ならばどこを治めるかは事前に相談して取り決めておくのだが、前世の記憶がよみがえった今、どうしても欲しい場所や条件があった。
コンコン ギイ
「おお、キーチ!どうしたこんな朝早くにお前らしくもない。いつもならメイに起こされてもなかなか起きないというのに。いや、今日からもうお前は大人だという自覚がでてきたのか。父は嬉しいぞ!まだセレモニーまで時間があるが何か用か?」
今世の俺はかなり自堕落な生活をおくっていたようだ。
俗にいうボンクラ息子ってやつだ。
前世だったら士官学校から生きてでられなかったろうな…
「父上、大変申し訳ないのですが、本日いただく領地と家臣を少し変更していただけますでしょうか?」
「ここでか!? まああまり大幅には変更できないが出来る限りお前の要求は聞こうじゃないか。」
父は穏やかな性格で家臣、領民からの信頼も厚くいわゆる名君というやつだと思う。
優しすぎて情に厚いためいつか騙されるんじゃないかと心配になるものの、例え策略に嵌めた所で得られる「何か」がないためスパイとか暗殺とかそういった話は全くない。
ーここで俺の計画について話をしよう。
今回もらえる領地には銀山が含まれており、これがなかなかの収入になる見込みだ。
初めての領地経営だからか父のサポートが透けて見える。
だが、所詮金や銀といったものは装飾品や貨幣に使われるのがメインで実用的な加工品の材料としては鉄の方がはるかに有益だ。
そのため、俺はその銀山の領地と引き換えに鉄山を手にいれ、また「臭い山」と呼ばれる山を引き取る代わりに製鉄所と製鉄、加工技術の優れた職人を家臣として迎え入れる。
そうやって双方のメリットとデメリットを調整した俺の要求はあっさりと認められた。
というより父からは「いいのかい?貴重な銀山を手放した上にあの山を引き取ってくれるなんて。経営が苦しくなったらいつでも相談するんだぞ!」と心配された。
こうして俺はホクホクな状態でセレモニーに出席し、初めての領地経営が始まった。