笑ってくれていたらいいな
今日はとても疲れていたから
すっかり忘れていたんだ
シャンプーの詰替えをしなきゃいけないこと
最悪だな
シャワーを浴びてしまってから
思い出すなんて
バスマットを濡らすのを
君は極端に嫌うから
濡れたまま出てくるなら
私を呼んで
そう君が言ったから
僕は君を呼ぶ回数が増えたんだっけ
名前を呼ぶ
もう一度
口に出しそうになって気付く
もう君がいないのだと
今日からは
誰からも怒られなくなったのに
ここは自分の
自分だけの城になったのに
どこか後ろめたさを感じながら
僕は風呂場を出て脱衣所へ出る
いつもシャンプーの詰替えが置いてある棚の戸を開くと
ついこの間まで
近くにあって当たり前だった
君の香りが漂って
棚の中の 一番目の付くところに置いてあった
君愛用のボディーバター
なんでこんなの置いてくんだよ
反則だろ ズルいだろ
こんなの
こんな香りがしたら
どうしたって君を思い出してしまうだろ
買ってきたものを雑にしまうって
よく怒られたっけ
頼んだもの買い忘れてばかりって
よく怒られたっけ
君だって人のこと言えないじゃないか
同じ種類の歯ブラシ
こんなに山のように買い込んで
僕は濡れたまま棚の中を漁り続ける
君だって僕のこと言えないじゃないか
今度シャンプー買っておくって言ってたくせに
棚の戸を静かに閉めて
僕は風呂場へと戻る
体はすっかり冷えてしまって
一人でも別に困らないと思っていたのに
こんな出足から
躓くなんて笑えてくるな
君が今
どこにいるのか
僕にはもう分からないけど
どこかで君も僕を思い出して
笑ってくれていたりするのかな
笑ってくれていたらいいな