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第五章 Imertfran Kmalatona ()

「でも、……そうだ、俺は俺だ。誰かが本を閉じたって終わらない……」


「パパ……? どうしたん、ですか……?」


 リドムは顔を上げ、妙な独り言を呟いた。それを横で聞いていたリーシャが首を傾げている。


「なんとなく思いついたんだ。解説って……ふふ、あぁそうか」


「パパ?」


「びくびくと。俺は何を恐れてたんだろうと思ってな。……そうだ、解説と俺の関係は人間の在り方そのものなんだ」


 リドムは自分の手のひらを見つめた。グーとパーを繰り返し、自分の意志で動いている事を確認する。


「え、っと……?」 


「リーシャ。俺は君といると死ぬらしい。解説が言ってた」


 リドムは気持ちの良い声で、少し笑いながら言った。その清々しい表情は死ぬことを信じていないというよりは、受け入れているかのようにも見える。いつか死ぬから、あるいはいつか死ぬけど、そんな単純さを持っている。


「えっ……そんな、そんなの……」


 あたふたとするリーシャ。彼女の中には既に一緒に居たい気持ちを強く感じ始めていた。初めて他人にそんな感情を覚え始めていたのに、もしかして別れなければならないのだろうかと脳に汗をかく思いをしている。


「でも考えてみりゃ……みんな最後には必ず死ぬわけだ。どう死ぬかは解説は言わなかったしな。何を怖がる必要がある? くく」


 何が可笑しいのかリーシャにはわからない。


「パパ、なんだか少し、楽しそう、ですか……?」


「いや、内心はそれなりに怖いよ。でもさ、なんか悟った気分だ。俺は自由を掲げて生きてるつもりだけどさ、人間として生きてりゃ、自由に出来ない事なんてままある。なんたって自由なんて言葉があるくらい不自由なんだよ」


「……」


 リーシャにはよくわからなかったが、リドムの言う自由という言葉の不自由さは確かに感じていたから、わからないなりに頷いている。


「でも、それでも自由は確かにあるんだよな。安っぽいかもしれないけど、人の心は自由で、どうとでも在れるはずなんだ。その心を止めようとするものなんて社会に出りゃ溢れかえってるんだけどな。こうしろと言われたらそうして、こうするべきだと言われたらやっぱりそうする……根本的に人間は無意識に"こうあるべきだ"という姿を決めてしまう。


 自分が知らないことに対しても知ったような口調で『それは違う』と言うのが人間だ。みんな違うモノや知らないコトが怖いから誰かから教えられた"自分の"常識に当てはめようとする。俺に聞こえてる解説はそれと同じで、その解説の言葉に怯える俺自身もそうだ。そうやって誰かの常識の中で生きることは不幸じゃないかもしれない。何が"幸せ"なことかも教えられるから……」


 …………。


「でも……その狭さに気づいた時に人は自由を求める。自分らしく、世に生まれたことを誇るために。それは決意と勇気が必要な事だけど、それが人間の強さで人が決められたシナリオだけに生きていない事……自由という言葉が存在する事の証なんだ。俺に聞こえる声は、その縮図だったんだんだと思う」


「あの……パパのお話は少し、難しいです……」


 そうだ。人の世には変えられるはずの『無理』が溢れている。お前には無理だとか、そんなこと絶対出来ないだとか、夢を見すぎとか。人の持つ自由の心を止めてしまう無責任な言葉で溢れている。


「そうだな……俺もまだ手探りだから。だから一緒に確かめに行こう」


 誰が誰にそんな事を言えるのだ? 出来ないからやるなと、まるで無意味な事のように言う。無意味な事など何もないのに。


 もちろんうまくいかない事もあるだろう、とても辛いけどそれは避けようのない事実だ。


 でも自分の通った道にはきっと何かが残る。


 心砕かれようと、必死に何かに向かっていった自分を誇れないわけがない。


「でも……私と一緒にいると、死ぬって……」


「人はいつか死ぬし、どう死ぬかはわからない。でも生き方は自分で決められる。リーシャ。ひとまず君の面倒を見るよ。義務感からじゃないぞ。そのあとの事はその時考えよう。君が独り立ちしたいなら俺は支援する。君が俺と来たいなら一緒に旅に出ても良い」


 人が変わったように見える。リドム。君は変わった。何を悟ったんだ? 何を考えた? ただ自分らしくあろうと思っただけか? 


 君の言う解説……今は聞こえているか?


「私、だったら……パパ。私、パパと一緒に居たい……パパの行きたいところについていきたいです。いっぱい勉強してパパと一緒の事を出来るようになるのが、今の私の願い……です……」


 リーシャ、君の変化にリドムは自由を見たのだろうか。君からの手紙が届いたのだろうか。


 なんにせよ、リーシャのもたらしたものによってリドムの中の何かが死んだ。そして生まれ変わったのだろう。


「じゃあ……旅を続けようか、二人で。何があるかはわからないけど」


 だから、この物語はここで終わりだ。ここから先は彼らだけのものだから。


「はいっ」


 ここから先の道で、彼らが決められたシナリオを辿ることはない。それが語られることもない。


 宙ぶらりんの、終わらない、締まらない物語。でもこれが彼らの自由。




















というわけで真のあとがきです。


こういうのはあまり書いてもダジャレの説明をするみたいでクールではないので、解説ってなんだったのかなどの要素は読んだ人の解釈に任せたいのですが、とはいえこれまであまりにも読んでもらった人達に理解されなかったので、小ネタ程度に少しだけ。



まずサブタイトルのローマ字並びですが、あれは作中のあとがきであった通り、自由の象徴でした。

「誰にも意味がわからないけど、発音すると自分的になんとなく気持ちがいい」という謎の言葉です。


ドローレス・クリード。

クリーズフォーギス・ルクレイズ。

ディレイク・ブロア・ヒューリアム。

ヴァーティザイル・アクロヘラ―。

イマートフラン・クマラトナ。


英語アルファベットという世界共通語を使っているのは人同士の間で読めるけど、意味は伝わらない、理解はできない、みたいな意図で書いてあります。でも声に出して読んでみるとちょっと舌触りが良い。ちょっとした自由の象徴ですね。


それがいつの間にか日本語の意味に変わります。サブタイを読んだ人が理解出来るようになります。しかもかなりキャッチー。これは「わかりやすい人生に変わった」ような意図です。


それまでのサブタイでは()の中に入っていました。内包はされているけど、メインではなかったんです。それが自由の文字が消えてわかりやすいサブタイに置き換わったのは、リドムが人生を一本道に思って進み始めたから……かな?


これに関して、途中の章で島あきらさんが感想で指摘してくれたのが本当に鋭い意見でした。


2周目の世界があるのかとか、そういうのは解釈任せです。ただ、解説もまた小説という媒体での自由を使ったのかもしれません。



とまぁ、当時はもっと色々考えて書いていたのですが、掘り出して見ていると穴もあって。

でも自分的にはどんなに否定されても嫌いになれない話で、当時ボロクソに言われたのですが引っ張り出してきてしまいました。



一つだけ言えるのは、もしこの話を好きになってくれる人がいたら、その人は根暗で希望に溢れてるけど優しくて寂しい人でしょう。声かけてください、今日から友達です(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは、当たり前の話ですが、物語の登場人物に対して、彼らの気持ちを読み解くことはできても、生きた個人ではなく、物語の構成品としてでしか関係できない以上、その気持ちをありのまま尊重することは…
[一言] なるほど思い入れのある作品なんですね。
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