第十三章 死-1
それからまた半年が過ぎた。ギリアムとリーシャは何通も手紙をやり取りして、一度はセリーヌとクロスも訪ねてくる事があった。
ようやくリドムと再会したクロスは「これもシナリオ通りなのか」などと在りし日のリドムの妄想をいまだに信じているかのような事を言ったが、リドムは((破られている))
結局のところ、ギリアムとリーシャは唇を重ねあった。リーシャにとっては人形以外とする初めての唇同士のキスで、体の芯から宙に浮くほどの感覚を味わう。父親代わりのリドムには感じる事のない痺れるようでいて焼かれるような、でも心地よい感覚がリーシャの身体を駆け巡った。
それ以上の事はリーシャの心の準備が出来るまで待つことになる。なにせ奴隷時代のフラッシュバックに決着をつけなければ進めるモノではないのだ。ギリアムはゆっくりと時間をかけてリーシャの歩みに合わせることにした。
しかしギリアムには活動がある。時間を見てはリーシャを訪ねる予定ではあったのだがやはり会う時間は増やしにくい。そこでもう一度ギリアムは提案した。野菜はここから定期便で買う事にして、リドムさんも連れて家へ来ないか。……それを考える時間はなかった。
リドムの病状が急激に悪化し始めたのだ。夜になれば咳が酷くなり、一度眠り始めると最低でも半日は起きない。
その長い睡眠から起きるなり血を吐いて、そこから苦しみ続けて疲れて眠る。謎の奇病に冒されたリドムは日に日に衰えていった。だからギリアムの誘いなど受けられるはずもなく、リーシャは熱心な看病を余儀なくされた。
だがリーシャは何一つ嫌だと思う事はなかったし、リドムを懸命に支え続ける。
「パパはきっとよくなるよ。今は少しだけ体が疲れているだけだから……私を一人に、しないでね……」
「治ったら、お酒も一緒に飲もうね。パパ、強いのかな……私はどうだろう……」
「ギリアムさん、今度はクリマイアで演説するんだって。……パパの行きたかった国。自由の国……良くなったら連れて行ってあげるからね」
リドムが眠っている時に打たなければならない注射はリーシャが担当していて、その時はこのように何か声をかけながら優しく彼の腕に針を射した。もう慣れたもので素人の看護師よりも上手く打てるほどに上達した。
こうした献身的な看護にも関わらず、リドムの完治は絶望的だった。医者がとうとう匙を投げたのだ。
いつか受けた毒が魔法によってつくられたものだったこと、二回目に受けた毒も同系統の魔毒だったため、体に作られた免疫が過剰に反応し始めた。
普通なら自然と治癒するはずだった魔毒の処理がリドムの体質か何かが原因で強すぎる免疫が作られ、それがリドムの強い魔力に反応してより重い症状をつくり出してしまう。前例のない奇病は確実にリドムを蝕んだ。
そうしてリドムは目を覚ますたびに起きている時間が伸びていった。眠いのに眠れない、なのに五体満足で気力だけが失われていく。
まるで眠らせない拷問を受けているかのようなもので、やがて体力の限界を悟りぽつりと「もう終わるんだな」と口にして、リーシャは一人涙を流した。
ある日リーシャは担当の医者に相談して、事態は加速し始める。医者が処方したのは人間を安楽死させるための薬だった。それを受け取ったリーシャは((塗りつぶされている))




