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第一章 Drawlless Kread "Awon Spyras"(旅の始まり)-後半


 出口に向かう道、更なる野盗と鉢合わせになった。三人の野盗が一斉に襲い掛かってくるのを剣でいなしながら応戦するのだが、数秒も立ち回っているうちに更に四人も集まってくる。


 リドムは一体どれだけいるんだと内心で悪態をつきながら撤退のイメージをつくっていると、視界の隅で小柄で太った男がそそくさと出口に向かっていくのが見えた。


 服装は小綺麗で野盗ではないのだろう。やたら整った穴倉と小綺麗な男、それを守るようについていった野盗からして何かの商売事が行われていたのではないかとリドムは思い至った。


「おぅ、てめぇか。せっかくの商談が中断しちまったじゃねぇか。破談になったらどうすんだぁ?」


 今度は別の方向から印象の強い野盗が出てきた。リドムの頭はその身なりと顔つきから成金、ボス、サディスティックのキーワードを思い浮かべた。概ね当たっている。


「やっちまえ!殺さずに捕らえた奴には良い酒やんぞぉ!」


 やはりここのボスなのだろう、そんな号令を出すとリドムを取り囲む七人の野盗が怒号を挙げて襲い掛かってきた。


 剣を構えなおしながら左手に光を溜め、一番近い敵にそれを放つ。今度は爆発ではなく閃光が敵を襲い、ひるんだ敵を斬り伏せた。


 リドムの持つ剣のブレイド部分は広めで緩やかなカーブが描かれており、粗悪品の剣など一撃で叩き切ってしまう。正面からの打ち合いに不利を感じた野盗の一人が背後からリドムにつかみかかる。


「ボス!いまでさぁ!」


 リドムは組み付かれた野盗の腕を熱の魔力を纏った左手で触ると、高温の腕に耐えられず野盗は組み付きを弱めた。


 正面に立つ野盗のボスがリボルバータイプの拳銃を取り出してリドムに構え、部下にお構いなしに三発射撃。


 一撃だけリドムの肩をかすめ、あとは背中に組み付いた野盗を盾にして防いだ。致命的な直撃は無かったのだろう、撃たれた野盗は崩れ落ちた後「くそぉ、酒がぁ」と呻き転がっている。


「強いな。お前、ただの旅人だろう?どうだ、ここで雇われてみる気はないか?そうすればまぁそうだな、利き手の小指と反対の手の指二本でここでの行為はチャラにしてやる。どうだ?」


 野盗のボスはニタリと顔の片側だけ口角を引き上げて提案し、何も動きを見せないリドムに追い打ちをかけるように銃をひけらかしながら言う。気付けば野盗は更に増え、ボスを含めて十三人が囲んでいた。


「断れば死ぬだけだぞ」


 野盗のボスの言葉にリドムは小さく鼻で笑う。


「お前に従うんじゃ死んだ方がましだね」


 自分の人生を誰かに使われるなんてバカげている。リドムの旅の原点はそこだったのだから。


「くくく、じゃあなるべく殺さないでやろうか。なぁお前ら!この新しいおもちゃを箱にしまっとけ!!」


 また一斉に襲い掛かってくる十二人の敵。即座にチャージした魔法剣は再び爆発を起こして大勢をいっぺんに薙ぎ払うも、多人数相手では威力も半端になってしまう。


 それでも一人二人と流れるように切り裂いて、出口へ向かっていく。ただの雑魚なら問題ない。だが先ほど覗いていた部屋があったほうからズンズンと足音らしくない音が迫って来ていた。


「おぉ~ワンボ!起きたか!あいつを捕まえろ!殺すなよ!」


「うーボス。あいつ、さっきおらのことやこうとした。ころしたいぞ」


「だめだ!殺さなかったらごちそうやるから!」


「わかった。なんだろうな。肉かな。たのしみだな」


 先ほど覗いた部屋にいた、眠っていた男だ。立った姿を見ると骨格が歪んで体躯がおかしい事がよく分かった。


 ドタドタ踏み鳴らす走り方は身体を揺らして気味が悪いし、腕も普通の人間より長い。体格もレスラー崩れのようなバランスの悪さをしているが、それがまた見る物に畏怖を与えるだろう。シルエットで見れば完全に怪物だ。


 その怪物男、ワンボはよだれを垂らしながら奇声を挙げてリドムに襲い掛かる。腕には金属のグローブのようなものがはめられている。


 防具の小手のように見えなくもないが、形は全く整っておらず、ただの金属の塊の中をくりぬいただけのような物体で敵を叩き潰すのに使うのだろう。


 だがワンボから繰り出されるただのパンチは凶悪な速さと重さ、そして見えている以上に長いリーチでリドムは顔をゆがめた。今まで戦ったことのないタイプの相手だ。


 服すら纏っていない生身の部分に刃を当て、肉を裂いてもワンボはひるむことなく襲い掛かってくる。痛覚が無いのかもしれない。本当に怪物だ。


 一度距離を取り、相手を見据えるリドムは体のどこかを切断させて動きを止めるしかないと考えた。ワンボはのろのろと歩いたと思ったら、今度は妙な走り方で素早く迫ってくる。


 動きの緩急のせいもあるのかもしれないが、思った以上に動きが速い。だがリドムは冷静に動きを見極め、刃をワンボの中央寄り左胸を切り裂いた。脂肪の重鎧があろうとも心臓へ届くほどの深い斬撃で仕留めた手ごたえもある。


 強敵も倒したことでここから脱出だと考えかけた時、野盗ボスの小さい笑い声が聞えた。


「ざんねん」


 短く言葉を発したワンボは腕をラリアットのように振り回し、左胸の深い裂傷を全く気にする様子もなくリドムの頭にその金属塊をぶち下ろした。


 地面にバウンドするような強さでリドムは叩きつけられ、直ちに気を失った。


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