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第六章 絆という力-2

 アパートの付近まで戻ってくると玄関側ではなく自分のいた部屋の窓側を確認するリドム。そこには壁をよじ登っていく男の姿が見えている。


「どうして、今日、ここに来たんだ……!」


 恨めし気に呟いたリドムは右手を振るい爆発の魔法を発動させると、男の耳元で【バン!】という小爆発を起こす。熱と音で驚いた男は壁から手を放し、リドムの近くへ落ちてきた。


 その男は背中を打ち付け、苦しそうに立ち上がろうとしていたところにリドムは近づいていく。


「なんでだ……何がお前をここに寄越した? どうして俺をここに戻した。……シナリオ通りなのか?」


「な、何言ってんだ……?」


 殺人鬼はリドムの行き場のない怒りを俄かに感じ取り、恐る恐る後ろへ這いずっている。リドムがこのまま放置すればこの男は逃げ仰せ、そしてまた被害者を出すだろう。


 特にリーシャはターゲットから外れない。この殺人鬼にとって、リーシャの薄幸の雰囲気や体型に髪型、全てが好みだったのだ、なんとかして襲いに来る。ここでリドムが止めなければならない。


 もしここでリドムが彼を止められなければこの殺人鬼は更に犯行を重ねるだろう。今後泣くことになる何人もの少女やその周りの人間を助けるかどうかの選択をリドムが今まさに握っていた。


「お前は殺人鬼なんだな?」


 普通ならしないであろう問いかけ。リドムはどうしてそれがわかったのか。どこかで指名手配のビラでも見たのか? もしかしたら前にもギリアムの名前を当てたような直感かもしれない。


「き、騎士かっ?!」


 男は無実らしからぬ反応をしたことでリドムは確信を得ていた。男を見下ろしながら言い放つ。


「……どうしようもない。本当に!!」


 リドムの動きは殺人鬼には見えなかった。ただ腰に携えた剣に手を持って行ったところだけは見えたのだが、そのあとに可視化された風のようなものが動く光景を見て、自分の体に力が入らなくなったと思ったら一瞬月が見えた。


 殺人鬼とはいえ彼にはもう何も出来ないだろう。地面にコロコロと転がったこの男に出来るのは目を動かすか口を動かすのみ。自分の着ていた服と、それを着ている首無しマネキンも見える。しかしそういった認識を出来る時間も既に過ぎていた。


「……俺の意志は……あったか……? 殺さざるを得なかった……教えてくれ……俺は、生きているんだよな……?」


 リドムはまたも不思議な事を呟く。人を殺して混乱した、なんて時期はとっくに卒業できるほど悪人や野盗を殺めてきた彼だが、ここに至って明らかに狼狽えていた。


 だがそれこそ彼自身の疑問の答えにもなるだろう。その感覚こそ、まさに自分が生きている証なのだから。――「……そう思わせられているだけ、じゃないのか……?」


 ひどく疲れた顔をしたリドムは遺体をそのままにして、なんとか部屋に戻り何事も無かったように部屋の中の様子を元に戻すと数分何かを考えたあとで眠りについた。


 疲れ切って暗く深い眠りだったが、明くる日の目覚めは優しかった。


「パパ……? パパ……」


 すごく控えめに体を揺すられたことで目を覚ますと、そこには不安そうな表情なリーシャがいた。リーシャの表情の機微に気が付くようになったのはいつからだったか、なんて思いながらリドムは体を起こした。


 リーシャは嬉しいという感情は表に出すようになってきていたが、それ以外の感情を表すときはまだ無表情に近い。だが声と視線で、リドムにはなんとなくリーシャの心が読めるような気がしてきた。――「最初からだ。最初から……」


「パパ?」


「あぁ……いや、夢の話……おはようリーシャ。どうした、起こしに来るなんて珍しい」


 眠りこけていたリドムを起こした手は優しかったのだが、静かな朝とは言いがたいことに脳が覚醒してくるごとに気づく。外がざわついている。


「えっと、さっき保安部の人がここを訪ねてきたんです。昨日の夜、不審な音は聞こえなかったかって。すぐそこで人が死んでたって言ってて……パパが起きたら話が聞きたいって言ってました」


「そうか」


 用件はリドムが昨夜一刀に伏した男の事で間違いないだろう。


 リドムが着替えて外に出ると記者や保安部騎士、野次馬がアパートの前に人だかりを作っていた。「なにも知らない」で通して今日のうちにここを発とうと考えるリドムがアパートを出ていくと保安部の人間が話しかけてきた。


「ここの人ですね。実は昨日の夜に……」


 リドムは適当に口裏を合わせつつも関わりがない事をアピールしてこの場を乗り切る作戦でいたのだが、話を聞くうちに調べを進めた保安が「被害者の顔に爆発魔法の痕」と「二階の窓付近に残った爆発魔法の跡」を見つけてしまうと、何も聞こえなかったというリドムの証言について疑うような状況になってきてしまった。


 爆発魔法は確かに昨日、リドムの部屋の窓から侵入しようとしていた犯人を落とすためにリドム本人が使ったのだ、魔法痕に残る紋印とリドムの魔法が検証された場合、リドムの事がばれてしまう。


 全てが明らかになった場合、投獄の可能性もありえるだろう。だがそこに救いの手が伸びた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 登場人物が自らの位置づけを問う。 それにしても、救いの手は?
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