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第四章 Vartisile Acroheller (理解者)-1

 リドムの経験の中でも、これはかなり妙な事だっただろう。


 森を歩いていたはずが、いつの間にかどこかのベッドに横たわっているとは。しかもその天井は高く、ふかふかの布団と毛布がこれまで味わったことのない深い眠りを与えていたようだ。


 起きてみれば広い部屋。外からは太陽の光が射していて、角度から見る時間はお昼ぐらいだろうか。見回せば手元にリーシャが人形を抱いて座りながら毛布を掛けて眠っている。ここはどこだと頭を摩り、リドムは見知らぬ部屋の内装を覚えるように見回している。


「野盗に……やられて……」


 リドムは旅を再開したのち、なんとあの穴倉から逃げていた野盗に毒を撃たれてしまったのだ。魔力に反応する特殊な毒で、比較的強い魔力を持つリドムはそれによって全身の動きを奪われ、長く気絶していた。そこまではなんとなく覚えているリドムだが、「また、声がする……」リーシャも無事でいる事には戸惑いを隠せなかった。だが目の前にいる……こうして付き添ってくれたのは素直に嬉しかったこともあり、「やっぱりはっきり聞こえてる」自然とまた彼女の頭を撫でていた。何度か撫でるとリーシャも目を覚ました。


「あ、パパ……っ、良かった、ですっ……」


「声がするんだ。またしてる。毒を食らったって……?」


 リーシャは無言でコクコクとうなずいた。こういうときには嬉しくて涙を流す人もいるかもしれないが、リーシャは痛みや苦しさ以外で涙を流す方法を知らなかった。だが心の底から味わったことのない安堵の気持ちというものを確かに芽生えさせている。


「ここは?」


「騎士様が、助けてくれたんです……ここ、その人のおうちで……」


「そうか」


 二日ほど眠っていたリドム「二日も寝てたのか?」は状況の整理に時間をかけている。


 リーシャは「人を呼んできます」と席を立った。一人になったリドムは以前のように上の方をきょろきょろ見回しながらまた何か独り言をつぶやいている。


「声、どうしてあの時は消えたんだ? どうせ答えてくれないんだろうが……波のある病気って事なのか……? いや、この声の話は的確だ。病気で片の付く話じゃない……」


 ぼそぼそと言っているとリーシャが先頭に、あと二人入ってきた。


「これは御仁、目が覚めましたか」


 そう言って声をかけたのは立派な髭を蓄え、細剣を携えた五十代半ばほどに見える男性だ。その後ろをメイド姿の女性がついている。


「ここはレーディン家の屋敷でありまして。吾輩はクロス・レーディン卿。没落はしていますがこれでも元は騎士を務めておりましてな。もう一線を退いてはおりますが、いやはや偶然にも森の中で倒れておられる貴殿を見つけまして、勝手ながら保護させていただきましたぞ」


 クロス氏は騎士、元は上流から少し下の爵位を持つ気位の高い男だ、そのあり様は気持ちの良いもので声から深い優しさだとか思いやりが溢れているような気がした。


 その男が後ろに連れた女性を紹介するように体を傾けて言った。


「こっちのメイドはセリーヌ。貴殿の毒抜きも彼女がやりました、いやぁ料理以外は実に有能なメイドでしてな」


「閣下ぁ~、褒めすぎですよぉ。わたしが抜かなくてもあの毒ならもう数日で動けるまでにはなってますけどねぇ」


 セリーヌと呼ばれた女性は独特な喋り方でニコニコとそう言った。


「それで、お名前を窺ってもよいですかな。ここ二日御仁とお嬢さんとしか呼べなくて困っとりましてな」


 クロスが名前を聞いた……ここにはいくつか意味があるだろう。他人の旅荷物の中身をも確認しない紳士であること。リーシャが喋らなかったこと。そしてリーシャが喋らなかったことを尊重しているということだ。その尋ね方にリドムはすぐに好感を抱いた。


「自分はリドムという旅の者で、こっちはリーシャ。すいませんレーディン卿、こんなにお世話になっても持ち合わせはあまりなくて。宝石程度ならお返し出来るのですが」


 リドムは意図的に金の延べ棒の事は言わなかった。宝石でも十分な価値はあるだろうし、延べ棒は売ってリーシャのここでの生活の足掛かりにさせる考えもあったからだ。


「いやいや、礼など結構。吾輩は勝手に助けた身でありますから、ただ、もし何かで返したいというのであれば……」


 クロスはリドムの身体を少し見やると、やはり言うべきではないかと口ごもらせた。


「なんでも言ってください」


 彼の気遣いを察したリドムが後押しすると、クロスはその要求したい事がリドムも好きかもしれない……と発言することに決めた。


「では是非、その体で返していただきたいですな、実に良いものを持っていらっしゃる」


「きゃっ、閣下ったらっ」


 一瞬話が分からなくて、眉を近めながらリドムは固まってしまう。セリーヌはポッ、と両手を頬に当てるジェスチャーをしながら顔と腰を可愛らしく振った。


「かっ……、体でというと……」


 何かおかしな考えを浮かべているらしいリドムは歯をカタカタしながら聞き返すと、クロスは何かを思い浮かべるようにしんみりした様子で言い始めた。


「いやぁ……リドム殿のモノを見てからずっと考えていたのですが、良ければ吾輩と一戦交えてほしいのです。あれの変わった形……吾輩でもこれまで見た事のない形状でありますから、それを使いこなすとあれば貴殿もかなり出来るとお見受けしました。貴殿が気絶されている時にじっくりと拝見させていただきましたが、あれは実に美しい……吾輩もたまらず滾ってしまいましたぞ。既に一線は退いてはおりますが、手合わせ程度であればまだまだ。そのような楽しみがなければこの鍛えた体が泣いてしまうというもの。リドム殿さえよろしければ、是非とも吾輩と……できれば息子とも手合わせをしていただきたいのです」


 リドムは「俺のはそんなに変わってるのか!?」と自問しながら最後に聞こえた言葉をオウム返しした。


「むむ、息子とも?!」

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― 新着の感想 ―
[一言] これはどちらの意味でも取れますねー。
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