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第三章 Dealake broa Huriam (自由への旅路)-5

「じゃ、飯食って、いろいろ拝借してずらかるか。行こう、まずは飯だ、腹減った」


 キッチンで何を作るかと食材を探しているうちに米を見つけたので、今度はこれを使うようにしてレシピを考え、鉄板を使って肉や野菜とソースを混ぜて調理をした。


 肉によく合う濃い口のソースを混ぜたご飯が鉄板に焼かれて焦げ目を作りながら非常に香ばしい薫りを漂わせている。


 鉄板で熱い状態にも関わらずリーシャは小さな口で少しずつ、パクパクと食べていった。


 どうにもリドムの作った料理が美味しすぎて、これまでほとんどちゃんとした量を食べられなかった小さな胃すら広げてしまうほどだったらしい。


 食事の後は保存食をいただき、リーシャのぼろ布の服は流石に着たまま外へ行けないので何かないかと探していると、女野盗が使っていた服がいくつか出て来たので、少しサイズは大きいがそれを合わせて着せることにした。


 これでまともな服を着用出来たし、首元まで覆うローブとフードのおかげで体にあった傷のほとんどを隠すことが出来た。


 あとは金目のものをいくつも袋に詰めた。リーシャもリュックサックに食料や水筒などを持って準備が出来ると、穴倉の前にあった焚火を起こし、そこにある粉末が入った小袋を投げ入れると出発した。


 袋は火で燃えると、中から粉が散って火に焙られていく。すると焚火の煙は赤くなっていき、やがて空高く上がって拡散していった。それはリドム達からすれば方向の目印にもなるし、近くの街の衛兵が見つけたら調べに来る煙信号というものだった。


 森へ出てしばらく歩いていると、リドムの少し後ろを歩いていたリーシャがおずおずと寄っていって声をかける。


「あの……それで、えっと」


 リーシャは言葉に詰まったというか、呼び名に詰まった。ご主人様と呼んだら違うと言われてしまうなんてこれまでなかったし、人をご主人様以外に呼んだことがない。


「好きに呼んでいいんだ。んー、昔は友達にリディやドムって呼ばれてたし、おかあはリーって呼ぶ。そうだな、まずは俺を好きに呼んでみるところから始めてみるか?」


 この子が本当に呼びたいならご主人様でも良い。でも他に呼び方を知らないだけだったらそれはダメだと、ヒントだけを与えるような口ぶりでリーシャが自分を呼ぶのを待った。


 それでもリーシャは八百メートルほど歩く間黙りこくって考える。腕には昨日の人形が抱かれていて、その人形の目はリーシャを心配そうに見つめているようにしている。リーシャは考えた末、ようやくリドムに向けて口を開いた。


「ぱ、パパ……」


「ぶっ」


 なんでだ、とリドムは心の中でツッコんだ。まだ親になる予定はないし見た目も精悍というよりはまだまだ若造で通じるリドムにとってまさかの呼ばれ方で思わず吹いてしまう。だがリーシャは特にふざけたわけではなくて、単純に呼んでみたかったのだ。


 これまで奴隷に入った場所の一つには小さな娘がいる偉い政治先生のご主人様がいる家があった。


 そこで飼われている間によく聞いていたのだ。女の子がパパと呼んで、その時に答えるご主人様はとても温かい声をしていたことを。


 自分をいたぶるときの人間とは別人のようだったし、パパ……つまりお父さんという存在に特別な感情を持っていた。


 そのあと紆余曲折あって自分が奴隷市に入れられた際に見かけた、初めて売られる少女はしきりにパパ、パパと助けを求めるように呼んでいたのを覚えている。(その後すぐに売られてしまったので助けに来たのかはわからないが)


 だからこの親を知らない少女にとってパパという呼び名はすごく特別なものだと思ったのだ。


 父として欲したのではなく、単に呼ばれた人は優しく答えてくれて、困った時に助けてくれるような存在なんじゃないかと。


 何も知らない少女にとっての一種のヒーローのような存在として、リーシャはその在り方をリドムに重ね合わせていた。


「声っ……よしわかった。提案したのは俺だ。婚約者もいないのにパパか……わかった、パパでいい」


 渋々了承するリドムだが、呼び名が奴隷のイメージからは大きく離れているのは確かだったから、奴隷としての日々を薄れさせることは出来るんじゃないかなとは思える。


 リーシャは了承されたことでパぁっと雰囲気を変えた。見た目で嬉しそうにしたわけではないのだが。


「パパ」


「ん?」


 呼んで反応を貰う。それだけでリーシャのくりっとした瞳は儚くも輝きを放つようだった。呼んだだけで特に何があるわけではなかったのだが、リーシャの歩く距離がリドムに半歩近づいた。


 自由を求めるリドムは他人の自由意思も出来る限り尊重したいのだ。自分の自由を奪おうとする者の自由を排除することもあるが。


 そんな自由を求めるリドムに、心が囚われたままのリーシャは救われていくことになるだろう。


 だがやがてこの小さな元奴隷の少女によってもたらされる死を、この時の彼は知る由もなかった。


「え……? な、おい」


「今何と言った?」


「声、今なんて言ったんだ? 死―――――

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[一言] 「死」。それは怖い。
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