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第三章 Dealake broa Huriam (自由への旅路)-4

 次の日、目が覚めたリドムは手元に置いていた懐中時計を見て少し損した気分になった。場所としては風雨の心配も魔物に襲われる心配もいらない場所ではあったのだがあまり熟睡出来なかった。


 二度寝でもするかと布団に入りなおすのだが、無性にリーシャの事が気になってしまった。よく寝ているだろうか、もし睡眠にも命令が必要だったら、なんて考えて、一応様子を見に行くことにする。


 静かにリーシャの寝ている部屋の戸を開けると、スー、スーという可愛らしい寝息が聞こえてきた。数歩だけ近づいてみると人形を抱くリーシャがスヤスヤ眠っている。


 もともとこういう色なのか、栄養失調やストレスなんかで変色してしまったものなのかはわからないが、グレーにも近い白と黒が混ざって濁ったような色の髪の毛が枕に広がっていた。


 この長い髪は何度引っ張られたかわからない。引っ張られるたびに髪を無くしたくて、一人の時には無謀にも無理やり千切ろうとしたこともある。


「……」


 リドムは同情のような表情でリーシャの髪を見つめていた。まるでその髪の毛を掴んだ人間の数や力の強さを推し量るような表情で。


 それからスッと手を伸ばして、優しく梳くように眠っているリーシャの髪を撫でる。こんなに優しく撫でたのはリドム以外に誰かいたのだろうか。母親は生んだばかりのこの子をどういう経緯で手放したのだろう。一度は頭を撫でてキスをしていたのだろうか。


 それに答えられる人間はこの世にいない。


「あ」


 リドムがぼーっとしながら頭を撫でて五分ほど経った時、リーシャがピクリと目を覚ました。


 実は起きる前の二十秒ほど、温かい手で撫でられる頭にうっとりしながらまどろんでいたのだが、自分の状態を思い出して一気に意識を覚醒させた。


「あ、あの、失礼しました。ご主人様より、遅くまで寝てしまうなんてっ」


 即座にベッドを降り、頭を地につけて謝ろうとするリーシャの腕をリドムはバッと掴んで止めた。


「ご主人様じゃないって。あと眠いならまだ寝ててもいいんだぞ。起こして悪かった。頭の声がうるさくて……無性に撫でたくなってしまって」


「撫でたく……?」


 微睡の中で優しい手が自分の頭を摩っていたことを思い出すようにリーシャは自分の頭に手を当てる。夢の中で抱いている人形がポフポフした手で撫でてくれていたのだが、それがリドムだったことを知っていたたまれない気持ちになった。


 自分のような汚いモノに触らせてしまって、きっと嫌な気持ちだろうなと、謝ろうか思案する。


「はぁ。リーシャは汚くなんかないんだ。一大改革が必要っていうか……」


 そう言ってリドムが腕を上げる。リーシャは挙げられた腕を見た時一瞬殴られるのかと身構えたのだが、挙げられた手はリーシャの頭に優しく向けられ、慈しむように軽く頭に手を置いた。


 特に話すことはなく、なんとなく撫でて、リーシャもなんとなく撫でられている。リーシャにはそれは少し怖い。


 優しさを享受する準備が整っていないうちにそんなことをされても、ただ身構えてしまうだけである。……あるのだが、その手は本当に優しく彼女を撫でていて、そこに生じる怖さの中には気持ちの悪さはなかったし、むしろ安心感を覚えるところだった。本人はそれを認識できていなかったが。


「……目、覚めたなぁ……。リーシャ、眠くないか? もう少し休みたいなら休んでてもいいんだぞ」


 リドムは撫でるのをやめてそう言うと、リーシャは心の奥で慣れ始めて心地よさを感じ始めていたこともあってほんの少しだけ名残惜しさはあったのだが「私の事は大丈夫です」としっとりと言った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 生まれたからずっと過酷な目にあってきた人間に、いきなり信用しろと言っても難しいですしね。
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