第三章 Dealake broa Huriam (自由への旅路)-3
リーシャは自由というものについて黙って話を聞いて、暗い顔をしていた。
奴隷という在り方が好きだったなんてことは万に一つもありえないが、これまでに世界を知ってこれなかった少女だ。
汚い大人による汚い行為しか知らない少女にはやりたい事なんて無い。つまり自由の必要性が見いだせない。未来なんて考える事すら出来ないし、光も全く見えなかった。
「安心しろ。次の街までは送るし、放っぽりだして消えたりもしない。なにかできそうなことを探す手伝いもしてやるから。やりたい事を見つけた時にはまた考えればいいし。何も焦ることはないぞ。……こんな声が響いてる以上、中途半端なことして放り出せないしな」
そうしてその日はゆっくり休むことにした。リドムが魔法で沸かしたお湯で、シャワーとまではいかないまでも多少は体の汚れを落としたリーシャ。
彼女は初めてベッドで眠る経験をした。それから怯えないようにとリドムはどこからか人形を見つけてリーシャに手渡した。見た目は十五前後のリーシャには喜ばれるか心配したが、その手触りと抱き心地を確かめると、これまでなかったくらいに落ち着いた表情をしたのでリドムは満足そうに部屋を出ようとした。
「あ、あのご主人様……」
「ん? ご主人様? いや、俺はご主人様じゃないぞ。名前はリドムだけど、まぁ好きに呼べばいい」
ご主人様呼ばわりに少し嫌悪感を覚える。今まで誰かを呼ぶ時はそんな風にしか呼んだことがなかったのだろうかとリドムは考え、ふと見たリーシャがどう呼べばいいか困っている様子だったので頭を軽く撫でると、ハッと気づいたように提案してきた。
「お伽は、お望み、でしょうか……」
自分という道具を使うのか、そんな風に聞くリーシャの心はまだ奴隷のままだ。リドムは撫でるのをやめて言う。
「……もうそんな事しなくていいんだよ。そういうのはしたい奴同士がするもんで。俺は君とそんなことしたくないし、君だってしたいと思わないはずだ。……その人形と一緒にぐっすり眠りな。明日は準備をして街へ向かうから。おやすみ」
「……」
パタンと閉められる扉をリーシャは無言で見つめ送る。おやすみという言葉の意味は知っていたがこれまで全く発したことがなかったせいでちゃんと返すことが出来なかった。
夜伽の相手をさせられるときは最悪気絶か失神させられて捨てられるように放置されていたし、意識が残っていても事が終わった相手が律儀に何かを言って去っていった記憶がない。
片付けておけだとか、とっとと消えろだとか、そういう命令だけを受けて過ごしていた。
リドムの言葉に対応出来なかったことを少しだけ悔やんで人形を抱くと、力加減によって人形の顔が自分の方を向いたのが愛らしく思えて、試しにその人形をリドムだと思うことにしたリーシャは小さく「お、おやすみなさい」と呟いた。
「……あーもうこの声ッ。まじかよ……」
別れの後、隣の部屋でベッドに入ったリドムは何故か頬を少しだけ赤く染めながら――「うるさいな」――やがて眠りにつくのだった。




