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生活

作者: 雨宮吾子

 音、光、匂い。

 家人が台所に立ち、僕のために弁当を作ってくれるのを感じながら、覚めきらぬ朝を起きる。こんな朝には公共放送の淡々としたニュースも良いが、ラジオの響きに耳を傾けるのも良い。君が何を着て出かけようかと考えるのと同じように、僕もまた朝に相応しい風景を考える。今日はどこへ行こうかと考えながら、ベランダに出て朝露に濡れた柵の冷たさを感じつつ、やはり家人の用意してくれた炭酸水を飲む。加減された刺激を飲み干しながら、海沿いの公園にでも行こうかと声をかける。返答はないが、拒絶の沈黙ではない。僕は弁当箱にご飯を詰めながら、揚げ物をしている君の横顔を盗み見る。

 朝早くの商店街はシャッターが閉まっているのが当たり前だから、昼間のように衰退を感じさせられることもない。商店街を過ぎた先の駅から電車に乗る。四人がけの席でわざわざ膝を突き合わせながら今日の弁当の中身を訊くが、教えてはくれない。ほとんど手伝いもしなかった罰だ。君の小さなえくぼに吸い寄せられそうになる。土曜日だというのに部活動に勤しむ高校生たちが乗り込んでくると、君と過ごした若かりし頃を思い出す。

 ラジオで聞いた天気予報通りに、曇り空は夏らしく晴れやかな空へと様変わりしていく。少し暑いくらいになるだろうか、それとも。帰ったらすぐにシャワーを浴びれば良いじゃない、と君の言葉に救われる。この夏のために買ったネイビーのキャップの出番がありそうだ。苦労して持ってきた二人分の水筒の出番も、ついでに。

 車窓から見えた海に君は見惚れている。その横顔を盗み見ながら、今この瞬間の風景を永遠にできれば良いのに、と思う。叶わない夢を抱きながら、僕はといえば君に見惚れている。

 この生活が、いつまでも続けば良いのに。

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