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第13話

「きゃあぁぁぁぁっ!」


 自分の左うでを見て、清子は割れんばかりの悲鳴をあげました。ひとみも目を大きく開いて、清子のうでを見ています。


「やだ、なにこれ、手首のところが、木になってる。ひとみちゃん、清子、いったいどうなっちゃったの」

「あたしにもわかんないよ、ねえ、なにがあったの、清子」


 ひとみがこわごわ、清子の左うでにさわりました。そのとたん、清子の左うでが、真っ赤な光につつまれたのです。さわっていたひとみも、同じように光につつまれます。


「きゃっ」


 清子が悲鳴をあげます。しかし、真っ赤な光は、清子の左うでから、だんだんとひとみのからだへと流れこんでいきます。ひとみが頭を押さえました。


「なにこれ、やだ、誰かがあたしの頭の中に――」


 清子の髪が、バチバチと逆立ちました。ひとみがはじかれたようにふきとばされ、ぐしゃぐしゃになった地面に倒れこんでしまったのです。清子があわててひとみにかけよります。


「ひとみちゃん、大丈夫」


 しかしひとみは、清子の手をバンッとはじいて、にらみつけました。


「こっちへこないでよ!」


 ひとみにどなられ、清子はびくっとからだを硬直させました。ひとみのくりくりした黒い目が、なぜか血のように赤く染まっています。まるで別人のようなひとみに、清子はおどおどしながら話しかけます。


「ひとみちゃん、どうしたの。なんでそんな、怖い顔してるの。それに、目が真っ赤になってるよ」


 おそるおそる近づく清子に、ひとみは声をはりあげました。


「こっちへこないでっていってるでしょう、なによそのうで、木になってるじゃない。いったいどういうこと。やっぱりあんた、化け物だったの」


 清子は激しく首をふりました。


「清子は化け物じゃないよ、ひとみちゃん、助けて、友達でしょ」

「友達、あんたが? あたしに化け物の友達なんていないわよ」

「ひとみちゃん……」


 はきすてるような口調に、敵意のこもった視線は、明らかにいつものひとみではありませんでした。清子はぼうぜんとひとみを見ることしかできません。そんな清子をにらみつけたまま、ひとみが鼻をならしました。


「でも、ざまぁみろだわ。あんたが化け物だって裕也(ゆうや)が知ったら、裕也もあんたのこと嫌いになるだろうから」

「裕也って、高倉君のこと? 高倉君が、清子とどう関係あるの?」


 ひとみはずんずんと清子にせまっていきました。あまりの迫力に、清子はよろよろとあとずさります。


「関係大ありよ! だって裕也は、あんたのことが好きなんだから!」


 目に星が飛びこんできたかのように、頭がくらくらしました。ひとみのいった言葉が、頭の中で何度もくりかえされます。まさか自分のことをだれかが好きだったなんて。しかもその相手が、ひとみの好きな相手だったなんて……。おろおろしながらも、清子は首をふりました。


「そんな、そんなの、なにかの間違いだよ。だって清子、なんのとりえもないし、それについさっき、うそつきにもなっちゃったし」

「なにかの間違いだなんて、よくいえたわね! あたし、裕也から相談されたの。あんたのことが好きだから、あんたのことを教えてほしいって。あんたがなにが好きで、どうすればうまくつきあえるかって。あたしだって裕也のこと好きなのに。それなのに、あんたのことばかり聞かれるのよ。あたしのことを話したいのに、あんたのことばかり! あんたにあたしの気持ちが分かるの、自分が好きな人に、恋愛相談されるあたしの気持ちが」


 ひとみは清子の肩を、バンッとつきとばしました。清子はよろめき、その場にどすんっとしりもちをついてしまいました。あまりのことに頭が追いつかず、清子はひとみを見あげることしかできません。いつものいたずらっぽい目が、今は真っ赤に染まって、清子をにらみつけています。


「でもよかった。あんたが化け物だってはっきりしたから。化け物相手なら、裕也だってきっとあきらめるし、嫌いになるはずよ。それだけじゃないわ、あんたのこと、クラスのみんなにいいふらしてやるから。そしたらあんた、もうだれからも相手にされなくなるわね。だって、化け物を好きになる人間なんて、どこにもいないんだから」


 雨にうたれて、清子のからだがびしょぬれになっていきます。寒さで歯がガチガチと鳴りはじめました。


「当然よね。だってあんた、あたしのことも、クラスのみんなのことも、全部だましてたんだから。化け物だってことを隠して、親友づらしてたんだから。幼なじみのあたしをだました罰よ!」


 清子はいまだに信じられませんでした。ひとみが自分のことをこんなふうにいうなんて。それに、高倉君が自分のことを好きだったことも。頭の中がぐるぐる回って、今にも倒れてしまいそうです。それでもなんとかこらえて、清子はひとみにたずねました。


「どうしてそんな、ひどいこというの。清子は、ひとみちゃんのこと、大事なお友達だって思ってるのに。それなのに、どうして」

「なれなれしく友達だなんていわないで、近よらないでよ、この化け物!」


 清子の心の中で、なにかが音をたてて壊れました。長い髪の毛が、バチバチと静電気をおびたように逆立ちます。ぎゅうっとこめかみを押されるような、するどい頭痛もします。痛みに目がくらみながらも、無感情な声で、清子はひとみにいいました。


「清子は化け物なんかじゃない。清子はひとみちゃんのこと、大事なお友達だって思ってた。姫川さんから高倉君とつきあえるようにうそをつけっていわれても、清子はうそをつかなかった。ひとみちゃんのことが大事だったから。それでもひとみちゃんは、清子のこと化け物だなんて思うんだね」


 おぼつかない足取りで、清子はひとみに近づきます。今度はひとみがあとずさりする番でした。


「こっちに来ないでよ、近よらないで!」


 舌がびりびりとしびれて、上手に息ができません。舌だけではありませんでした。心の奥底にあるなにかが、必死に清子を止めようとしています。けれども清子はそれをかみ殺して、祈るように手を組み、目を閉じました。頭が割れるように痛みます。舌のしびれもどんどんひどくなっていきますが、それをこらえて、清子は心をこめてうそをついたのです。


「清子の知っているひとみちゃんは、()()()()()


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