頑張って王子から嫌われようとしたらなんか好かれてた
努力の方向が違うお話
私、なにか間違えた?
はじめまして。私、ソランジュ・ランスと申します。これでも公爵令嬢ですわ。そして、所謂悪役令嬢ですの。
どういうことかと申しますと、まあ緩い何事も無いオタク人生を歩んでいた私は、ある日突然キュン死してしまいましたの。ええ、乙女ゲームのキャラクターに。ええ、文字通りキュン死ですわ。トキメキ過ぎて心臓がばくばくしてそのまま。我ながら幸せな死を迎えたと思いますわ。
で、ですね。起きたら天蓋付きのベッドの上でしたの。そして、鏡を見たらキュン死した原因である乙女ゲームの登場人物の一人、悪役令嬢ソランジュ・ランスがそこに居ましたわ。もっとも、ゲームで登場したソランジュよりも幼い見た目でしたが…。そしてその瞬間、ソランジュの記憶が頭を駆け抜けましたわ。そうして私は、ソランジュになりましたの。
ということで、私の第二の人生はスタートしました…が、いきなり詰みましたわ。何故ならソランジュは、どのルートでも必ず主人公を虐めて良くて修道院送り、悪くて死罪になりますの。…いえ、もちろん私は主人公ちゃんを虐めようなんて考えておりませんけれど、所謂強制力というものが働く可能性もありますわ。
ですから、私。元の原因を断とうと思いますの。そう、フィリベール・ロワ・ノーヴァ王太子…いえ、今は第一王子。彼との婚約を阻止してみせますわ!そうすれば私が悪役令嬢になんてなる必要はありませんもの!代わりに婚約者になって悪役令嬢になってしまうかもしれない女の子には申し訳ないですが、これしかありませんわ!
…正直、フィリベール様は私のキュン死した原因で、つまりはまあ好みドストライクなのですが、この際仕方がないのです。
ということで嫌われ作戦で生き延びますわ!
ー…
まずは、フィリベール様との初めての出会いのお茶会。この席で王妃様に気に入られて、フィリベール様の婚約者にされますの。フィリベール様は、出会って間もないのに第一王子である自分に媚を売ってくるソランジュが煩わしくて仕方がなかった。それなのに婚約者にされてしまったことでソランジュを毛嫌いするようになりますの。
だから、私はまず、王妃様に気に入られないように大人しく目立たないように隅に座り、決してフィリベール様に近寄りませんでした。
ところが、気に入ったご令嬢がいなかった王妃様が、フィリベール様に気に入ったご令嬢はいないかと聞かれると、フィリベール様は私の前に跪いて言ったのです。
「俺と婚約していただけませんか?」
…私、なにか間違えた?
近くから悲鳴が聞こえる。他のご令嬢方の叫びだ。本来ならここで断るという選択肢はありません。どんなに嫌でも、王族からの求婚。断るとうちの家ごと巻き込んだ大騒動になりかねません。しかもフィリベール様は私の好みドストライクだし。
が、私は。
「お断りいたします!」
私は反射的に、場違いにも元気にそう宣言していました。
やっちゃったー!
「ふ、ふふ…ははははは!そう、それでこそ!君がそういう人だからこそ、俺は君を気に入ったんだ!」
「え?え?…え?」
「ほほほ。妾が気にかける必要もなさそうじゃな」
なんか私が知らないうちに話が進んでる気がするー!
「あ、あの…」
「安心してくれ、俺はなにも無理矢理婚約しようとは思わない」
「は、はい…?」
「ただ、君に思いっきりアプローチして、君を振り向かせてみせる」
「えっ」
「覚悟しておいてくれ」
ちゅっ、と私の頬にキスを落とすフィリベール様。こんなつもりじゃなかったのに、どうしてこうなった!?
ー…
あれから十年。私はあの手この手でフィリベール様に嫌われるよう努力してきました。引いてダメなら押してみろ作戦で、逆に言い寄ってみたり、蛇やネズミ、ミミズなど嫌がらせになりそうな生き物をプレゼントしてみたり、フィリベール様の大嫌いな食べ物をわざと差し入れに持っていったり。
しかしフィリベール様は言い寄られては喜び、プレゼントした生き物を大切に可愛がったり、差し入れも顔色も変えずにパクパクと食べたり。全く動じません。
しかも、婚約者にこそなっていないものの実質婚約者第一候補となっている今!まさに!
乙女ゲームが始まろうとしています!
ほら、今だって転入生である主人公ちゃん、シュゼットちゃんが転びそうになって…あれ?
本来なら抱きとめるはずのフィリベール様が手を貸しません。代わりに側近のポールさんが抱きとめます。
?
?
?
ま、まあいいや。いずれはフィリベール様の興味もシュゼットちゃんに移るでしょう。
ー…
あれからさらに一年。ええ、学園卒業ですわ。結局、シュゼットちゃんは騎士団長令息のヴィクトル様と婚約者になりましたわ。幸いにしてヴィクトル様は攻略対象者の中では唯一の婚約者がいない方。特に何もトラブルはありませんでしたわ。それどころか、シュゼットちゃんはその愛らしいキャラクターで学園の人気者に。いじめも起こりませんでしたわ。
…と、いうことでもうフィリベール様を遠ざける理由もないのです。
「ソランジュ。いい加減俺の婚約者になる決意は固まったか?」
「はい、フィリベール様」
「…え」
フィリベール様は一瞬信じられないものを見たような顔をした後。
「ジュジュ!愛してる!」
公衆の面前だというのに嬉しそうに蕩けるような笑みを浮かべて私を抱きしめましたわ。
「私も、ずっとお慕いしておりました。フィル様」
私が愛称で呼ぶと、さらに笑みは深くなり、優しいキスをされました。
ええ、公衆の面前で。
卒業パーティーの会場は、ついにあの二人がくっついたぞとお祭り騒ぎ。
この一年で仲良くなったシュゼットちゃんも笑顔で祝福してくれます。
「これで、晴れて俺のモノになったわけだが。もう絶対離してやらないから、覚悟しろよ」
「ええ。これまでずっと情をかけてくださったのですもの。心得ておりますわ」
なんだか描いていた未来予想図とは全然違うけれど、幸せにはなれそうです!
結局最後はハッピーエンド