初めての仲間
バーカウンターに座ると――
「仲間を探してるのかい?」
アルテミスさんが聞いてくる。
女主人のアルテミスさんはカウンター越しに煙草をふかす。
ここはアルテミスの酒場。仲間を作成し、冒険に連れていくことができる場所だ。
「はい。えーと……」
ここで決められるのは仲間の名前と性別と職業だ。職種はいろいろあるが回復役は是非ともほしいところだな。それと、ここでゲーム制作者の特権を使わせてもらうとしよう。女性キャラにある名前を入力すると初期装備をグレードアップできるバグだ。卑怯な気もするが誰も文句を言う者はいないからな。
「女性の神官を。名前はアイウエで」
「おーい、アイウエさん! お仲間がお呼びだよー!」
アルテミスさんが後ろを振り返り叫ぶ。すると、奥の部屋から足音が聞こえてくる。扉が開いてアイウエと呼ばれた女性が俺の方に元気よく駆け寄ってきた。金色に光る長い髪をなびかせ、見るからに高そうなローブを羽織っている。
「あなたが勇者さまっスか? あたしはアイウエっス。これからよろしくお願いするっス」
「あ、ああ、俺はカイトだ。よろしく」
ちょっと思ってた感じの娘と違ったなぁ。神官てもっとこう上品で清楚で高潔で……ってあれ?この娘――
「なぁアイウエ、おまえなんで俺と普通に会話できるんだ?」
「??? どういう意味っスか?」
アイウエはぽかんとしている。
「仲間を探してるのかい?」
アルテミスさんが聞いてくる。
俺は仲間にはこんなセリフ設定していないぞ。というよりこのゲームは仲間との会話が出来る仕様にはなっていない。なのにどうして普通の人間のように自由に話せるんだ。
アイウエは下から覗き込んでくる。
「勇者さま、どうしました? 聞いてるっスか?」
「あ、ああ、聞いてるよ。……変なこと言って悪かった。忘れてくれ」
「了解っス!」
アイウエは他のNPCとは違って自分の意志を持っているように感じられる。理由はわからない。考えたって答えなんて出ないさ。そもそもこの状況が異常なのだから。
「勇者さま、仲間はあたし一人っスか? パーティーって三人組っスよね」
「ああ、もう一人仲間に入れるつもりだ」
「だったら戦士か魔法使いがおすすめっスよ。あたし戦闘ではあまり活躍出来そうにないっスから、強力な攻撃タイプがいた方がいいと思うっス。魔法使いはレベルが上がれば、町まで一瞬で移動出来る魔法も覚えるらしいっスよ」
「仲間を探してるのかい?」
アルテミスさんが聞いてくる。
「そうか、ありがとう」
釈迦に説法だがな。あとアルテミスさんちょっと黙っててくれ。
「ならあと一人は魔法使いにするか?」
「するっス!」
アイウエは首をちぎれんばかりに大きく縦に振る。
俺はアルテミスさんに再度話しかけ、女性の魔法使いを作ってもらった。別に他意はない。女性キャラの方が初期パラメータが少し高いってだけだ。
今度は名前はランダムで、と。
「おーい、メリルさん! お仲間がお呼びだよー!」
奥の部屋から出てきたのは、初期装備のぬののふくを身に着けた黒髪の小柄な少女だった。
メリルと呼ばれた少女はすすっと歩を進めると俺を一瞥してから小さく頭を下げる。
「よろしく」
消え入るようなか細い声だったが、同時に芯の強さを感じさせる声でもあった。
「俺はカイト。こちらこそよろしく、メリル」
「あたしはアイウエっス。よろしくお願いするっス、メリルちゃん」
「仲間を探してるのかい?」
アルテミスさんが聞いてくる。
もういいって。