そしてフィナーレへ
魔王を倒した俺たちは最初の町に向かった。俺たちを待っていたのはこれまで立ち寄った町の人たちのあたたかい歓迎だった。わざわざ集まってくれたのだ。一部立ち寄っていない町の住人もいたが。
大勢から感謝の意を伝えられ、はにかむアイとメリル。セゾンも喜びをエルフに伝わる舞で表現する。すると町の人たちもセゾンにつられるように続々と踊り始めた。
食事と舞の華やかな宴の席でメリルが話しかけてくる。
「……帰るの?」
いくぶんか寂しそうな顔をしているようだが。……思い過ごしかな。
「ああ、そうだな。魔王も倒したし」
ゲームのエンディングでは町の人全員が踊り出すと画面がブラックアウトしていって【The End】の文字が出るという終わり方になっている。
「勇者さま、あたしたちもう会えないんスか? そんなのいやっス!」
ガバッと抱きついてくるアイ。胸が当た……とか言ってる場合ではないな。その光景を見たメリルも俺ではなくアイに抱きついた。
二人ともなんとも愛らしい。
思えば変な経験だったな、とこの世界に来てからのことを思い返す。
でも、なんだかんだ楽しかったな。
町の人たちが踊りの輪にどんどん加わっていく。
そして最後の一人が踊り出した。
空を見上げる。昼だったはずなのにあたりが暗くなっていく。
「……終わりか」
「勇者さままだ行かないでほしいっス!」
服がアイの涙と鼻水でぐちょぐちょだ。
メリルがそっと近づいてくる。俺はメリルの頭にポンと手をおいた。するとメリルがはっきりとした声で、
「カイト、ありが――」
突然、目の前が真っ暗になって俺は気を失った。
「…………ん」
目を開けるとカーテンの隙間から日が差し込んできている。
どうやらいつの間にか朝になっていたようだ。
「夢、だったのかな……」
いや、あれは夢なんかじゃない。アイもメリルも確かにいた。この手にこの腕に二人の感触がある。
子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてくる。時計を見る。一限にはまだ間に合うか。
「……よしっ大学行くか!」
俺は無造作に脱ぎ捨てられていたジャケットを掴むと急いで部屋を出た。
バタン!
部屋のパソコンの画面には【The End】の文字があった。




