山を越えて
北西の洞窟の魔物を退治してヌワロの村に戻ると村民全員で宴を開いてくれた。大人も子供も皆嬉しそうでなによりだ。アイは大人たちに混じって、たき火の周りを踊っている。メリルは子供たちに魔法をみせてやっていた。このイベントスルーしなくてよかったかもな。
一夜明けて、村長の家。
「お礼と言ってはなんなんじゃが……」
と村長が大中小三つのつづらを差し出してきた。そう。このイベントで手に入る報酬はこの中から一つを選ぶというものなのだ。俺が作ったゲームである以上、もちろんどれに何が入っているかは知っている。
大きいつづらの中には薬草が一個。中くらいのつづらの中には2000マルクが。そして小さいつづらの中にはたいまのほうぎょくが入っている。たいまのほうぎょくはその名の通り魔物を退ける力がある。持っているだけで敵が出てこなくなるというアイテムだ。三つの中では間違いなくこれが一番だな。
「決まったらそのつづらの前に立って開けてくだされ」
言うが早いかアイが大きいつづらの前に立って今にもそれを開けようとしている。
「わっ! ばか、待て待てアイ!」
俺はアイを羽交い絞めにして止める。アイが暴れ出す。
「ちょっなんスか勇者さまっ、邪魔しないでくださいっス。大きいのが一番いいに決まってるっス!」
「そんな訳ないだろ、いいから落ち着けっ」
「私中くらいのがいい」
メリルがつづらに手を伸ばす。
「おいメリル、どさくさに紛れて開けようとすんな! 小だ、小にしろ!ちっちゃいつづらだ!」
結局しぶしぶメリルが小さいつづらを開けてくれた。何だその目はメリル。
俺たちはたいまのほうぎょくを手に入れた。
その後村民の人たちから一番近くの町への生き方とそのためには山を越える必要があることを聞き出すと俺たちはヌワロの村をあとにし、山へと入っていった。
道中、たいまのほうぎょくの効果で魔物が一切出て来なくなった。
うーん。役に立つアイテムではあるけどこれじゃレベルも上がらないしなぁ。後で預り所に預けるとするか。
「あんなとこに宿屋があるっスよ。休んでいくっス」
「疲れた」
山道にぽつんと宿屋があった。体力も魔力も消費していないので泊まる必要はないのだけれど、まぁ俺も歩き疲れたし二人の機嫌も取っておくか。
俺たちは山中の宿屋に一泊することにした。
夜も更けてあたりが静まり返ったころ、うとうとしていた俺の耳にメリルの声が入ってきた。
「……カイト起きてる?」
「……ん? なんだどうしたメリル?」
「私たちに何か隠してることある?」
「え」
「知りようもないこと知ってたりするから」
……これはまずいぞ。やっぱりメリルは俺の行動を怪しんでいた。
とりあえずどうごまかそうか起きてベッドの方を見ると熟睡しているアイの横でメリルが真剣な表情でみつめ返してきた。顔は無表情だが逆にすごみがある。
…………本当のことを話したほうがいいかもな。
「あのな、信じられないかもしれないけど……」
俺はこの世界が俺が作ったゲームの中だということ、俺はなぜかその中に入ってしまったということ、アイとメリルはゲームとは関係なく自分で考えて行動しているということなどをできる限りわかりやすく説明した。
「……まぁ、自分でもいまだに信じられないんだが」
「……そう」
……そう、って。
「別に信じてないわけじゃない」
メリルは続ける。
「むしろ納得した。……アイは知ってるの?」
「いや、知らない」
「そう」
それっきりメリルは喋らなかった。
俺は布団を頭まで深くかぶって眠りについた。
翌朝メリルとは何事もなかったかのように朝の挨拶を交わした。
朝食を済ませたアイが元気よく掛け声を発した。
「よおっし、勇者さまメリルちゃん、今日もはりきっていくっスよー!」
「おー」
アイにもいつか話さないとな。




