ガルフ城へ
意外とレベル上げは楽しく、町の宿屋と外を行き来しているうちに気付けば俺たちはレベル7になっていた。もうこのあたりの魔物は敵じゃない。
あ、そうそう宿屋といえば部屋にベッドが一つしかない。しかも三人で一つの部屋に案内される。もちろん俺は「せめて二部屋とろう」と言ったが、メリルの「もったいない」という一言で一つの部屋に泊まることになった。ちなみにアイは特に何も気にしていないようだ。
「そろそろガルフ城へ向かおうと思うんだがどうだ?」
俺が椅子に腰掛けながら言うと、
「行きたいっス!」
「私もそう思ってた」
と仲良く二人でベッドに寝転がりながら答える。
「じゃあ明日出発でいいな。もう遅いから明かり消すぞ」
「おやすみっス勇者さま、メリルちゃん」
「おやすみカイト、アイ」
「ああ、おやすみ」
俺は定位置である床の上に寝そべった。
宿屋の朝は早い。朝食を済ますとさっそく町を出てガルフ城へ向かった。
レベルが充分上がっていたため、道中魔物に苦しめられることもなくガルフ城の城下町に着くことが出来た。
「大きい町っスねー」
「人がいっぱい」
ガルフの城下町は最初の町に比べて二倍ほどの広さがある。俺は町に入ってすぐのところにいた青年に話しかけた。
「こんにちは」
正直話しかける言葉なんてなんでもいいんだけど。「こんにちは」でも「すみません」でも「邪魔だこの野郎」でもね。
「やあ、ここはガルフ王が治める町だよ。でも最近ガルフ王が元気がないみたいなんだ。どうしたんだろう?」
会ったばかりの俺たちに相談してくる。
このセリフを聞かないと城に入れてもらえないからな。
「心配っスねー」
アイが青年に相槌を打つ。
「…………。」
青年は何も答えない。
「?」
不思議そうに首をかしげるアイ。
「おーい、お兄さんどうしたんスかー?」
「…………。」
青年は何も答えない。
あっやば。アイとメリルはこの世界がゲームだと知らないんだった。これまでは住人とあまり接触してなかったから変に思われなかったが、どう説明しよう。
「ほらアイ、あんまりじっと見るからお兄さん照れちゃったじゃないか。話は聞けたんだしさっさと城に行くぞ。ほらメリルも」
俺は足早にその場を立ち去った。うまくごまかせただろうか。
後ろをちらっと盗み見るとアイは楽しそうにスキップしてついてきていた。すっかり疑問は消え失せているようだった。バカな娘でよかった。
メリルは口をとがらせていたが特に何も言ってこないので俺はホッと胸をなでおろした。
「何者だ!」
城門前で門番に呼び止められる。
「こちらは勇者さまっス」
アイが代わりに答えた。すると、
「おお、そなたたちは旅の者か。もしかしたら王様の力になれるやもしれぬ。通るが良い」
そう言って城門を開けてくれた。微妙に会話がかみ合っていないが遠慮なく入城させてもらうとするか。
王様のいる謁見の間までは案内なしでたどり着いた。セキュリティが甘々だな。
大きな扉を開けると、部屋の両側に怪我をした衛兵たちが列をなしその中央に王様が鎮座している。横には大臣が立っていた。大臣が口を開く。
「よく来た旅の者たちよ。実は……」
ここから大臣と王様の長い話が続いた。要約すると王女が魔物にみそめられ今晩王女をめとりに来るから助けてほしいということだった。
「どうかわしの可愛い娘を守ってやってくれぬか。褒美は好きなだけやろう」
「まかせて」
褒美という言葉に反応したメリルがポンと小さい胸を叩く。そのとき――
「わたくしのために危ないことはしないでくださいませ!」
花嫁姿の美女が部屋に駆け込んできた。王女のミーガンだ。
「ミーガンよ、もう安心じゃ。この者たちが魔物を退治してくれるぞ」
「危険です。城の衛兵が束になっても敵わなかったではありませんか! 良いのですお父様、わたくし一人の犠牲で済むのなら」
王女は続けて
「みなさん、わたくしのためにあなた方が危険な目に遭う必要はありません。どうかお父様の言ったことは忘れてくださいませ」
と懇願してくる。
本気で俺たちのことを心配してくれているようだがここでしっぽをまいて帰ったらイベントが進まないからな。
「引き受けます」
「おお! やってくれるか! では後の話は大臣から聞いてくれ」
というと王様は王女を連れて部屋を出て行った。
俺たちは大臣に案内され王女の部屋に連れてこられた。
「今晩魔物が王女様を狙ってやって来る。お前たちはこのベッドの中に隠れて魔物を待ち伏せするのだ」
どうでもいいけど大臣の態度なんかむかつくな。もっとへりくだった口調にしておけばよかった。
大臣が部屋を出ていくとあたりがだんだん暗くなってきて夜になった。あとは俺たちがベッドに入れば魔物がやって来るって訳だ。




