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あの日から、父様はわたしを「マリア」と呼んでくれるようになった。


十年前に内密に行われていたパトリシアの葬儀が公に行われて…

墓所の中央にあるにも関わらず何も刻まれていなかった一つの墓碑には、パトリシア・ウィゼリアと流麗な字体で刻まれたの。

パトリシアが愛でていた小さな淡い花が墓碑の前に置かれ…

父様…パトリシアの父様、ダレス・ウィゼリアは(ひざまず)いてパトリシアへの懺悔と哀悼をゆっくりと述べたわ。


わたしは父様から聞くまで何故パトリシア名をもらったのか知らなかったけれど。


ようやく理解した、皆の視線の意味も…わたしが覆い隠してしまっていた小さな存在も…。


「──パトリシア、ごめんなさい、わたしはあなたを奪っていたのね…」


車椅子に背を預けたまま、しとしとと雨が降る葬列をぼんやりと眺め、ぽつりと呟いて。


嘘を公にした父様を誰も咎めなかったことに、少し安堵していた──。




──それから、一年。




「やあ、マリア…見違えたよ」


レーヌの別邸で徐々に体力を取り戻し、自由に歩き回れるまでになったわたしは、「正式な養子」として改めてウィゼリア家に迎え入れられることになったの。


「ダレス様…」


わたしはパトリシアの葬儀の後に、これからはマリアとしてウィゼリアの目の届かない場所で生きていきます、と言ったのだけれど…

ダレス様は、それならレーヌで静養してから、改めて養子になって欲しいと仰って。

もう二度とパトリシアとは呼ばないから安心してくれ、とも仰った。


わたしは歩けるようになったら「お父さん」を探しに行こうと思っていたのだけれど、ダレス様は申し訳なさそうに、君のお父さんはもう天に召された、と…。


──お父さんは、ダレス様が二度目にマティルダのあの家に訪れた時には息絶えていたと…正気に戻ってから自害したようだと、教えてくれた。


ダレス様がわたしの両親の墓も敷地内に置いてくれていたことも、後から知って…

わたしは、ついさっきダレス様に会うより早く、その墓碑を眺めてきたわ。


──もう少ししたら、マティルダにも行ってみるつもりなの。


もうあの家がなくなっていても、もしくはまだあっても…

ごめんねとさようならを、言わなきゃいけない。




「アリアス様、ユーゼル様、お久しぶりです。そして──初めまして、マリアと申します」


ダレス様の背中の方向から駆けつけて来たかつての二人の兄様…これから本当に兄妹になる二人の兄様に恭しく礼をする。


彼らはどこか安心したような、照れくさいような、そんな微笑みでわたしを迎えてくれたわ。


「──お帰り、マリア。今まで近付けなくて…その、ごめん」


重なる二人の声に、わたしはゆっくりと手を伸ばした。


二人は顔を見合せて、そっとその手に手を重ねる。

それから優しく包み込んだ。


「これからは、僕らが、君を…必ず、守るから──」





──ぎこちない再会はとても穏やかで、本当にウィゼリアなのかしらと首をかしげてしまうほどだったわ。


…十一年経ってようやくウィゼリア家の一員となったわたしは、「あの子」のことを考えていた。


小さなわたし。


無垢な微笑みの、白い少女を──。




…彼女は今、笑っているだろうか。


泣いてはいないだろうか?


わたしは、彼女を傷つけずに日々を送れているだろうか?




──いずれにせよ、もう一度彼女に会えたら、こう伝えよう。


『君に出逢えてよかった』


心からの、微笑みとともに──






*君に出逢えてよかった 〜少女の瞳が映す世界〜 FIN*



→物語は、次なる瞳へ→

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