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五万時間のダイダロス  作者: せーらむ
9/11

不死者の王と廃人の油断

「さて、反撃開始だな」


魔石六個ぶんのリチャージを終えた俊が、その場の皆に声をかける。


「連中、アンデッドのクセに逃げ出し始めたぞ、チャンスだな」


並び立つ啓介が、アンデッドの様子を見てそう返す。


「では追撃戦ですね!」


ドロシーはやる気に満ちていた。斧を構えて、今にも飛び出していきそうだ。


「ある程度数を減らしたらたぶんボスくるよー、気をつけてね。」


折れ曲がった鉄の棒を構えながら冬歌が言葉をかける。

スタンピードには、一定数のモンスターを倒すとボスが出現するという特徴がある。

そのボスを討伐することでスタンピードを阻止する事が作戦目標だ。


足の遅いアンデッドが逃走しようなどどしても、簡単に追いつくことができる。

限界射程で後方を狙った[サンダーストライク]で足止めし、ルビナスの剣の赤い軌跡で次々とアンデッドを仕留めていく。

レブナントなどの強敵には[ハイスラッシュ]を放ち、雑魚に対しては通常攻撃で堅実に削る。

両手斧による狙いすました一撃が、殿の最後の一体を両断。

殿を突破して背を向けたゾンビに迫り[フルスウィング]を叩き込む。

吹き飛んでいったゾンビが逃走中のアンデッドをストライク、さらに[サンダーストライク]が飛び追撃は続く。


やがて俊たちの前に、他とは気配からして違う一体のアンデッドが現れた。

黒色のローブに身を包み、瘴気を纏って宙に浮き、何やら呪文を唱え、俊たちに向かって闇属性のボルトを飛ばす。

矢面に躍り出た啓介の[シールドバッシュ]が、[ダークネスボルト]を弾いた。


「間違いねえ、あいつが今回のスタンピードのボスキャラだな」


「あれ見たことある気がするけどなんだっけシュンくん。」


「エルン宮殿のノートリアス、エルダーリッチ。闇無効、物理無効で火と聖が弱点、ヒール砲は1割通る。

攻撃は[ダークネスボルト]のワンパだけどハーフペネトレイトで、当たるとかなり痛い。さらに注意点として[ダークネスボルト]はHPを削ると三連射に変わる。盾系アクティブじゃ全部は弾き切れないから、基本は避けること。

 本来の[ダークネスボルト]と違って微弱な誘導性があるから、ミサイル避けの感覚で前方へ避けるんだ。

 固有ドロップは骨の王冠で、高く売れるだけのコレクターズアイテム、レアドロップとして闇属性の秘石が体感2%ぐらい。

 取り巻きはニ体のエルダースケルトンと追加召喚で各種アンデッドが一戦につきランダムに百二十八体までで、取り巻きからのドロップは無し。

 この取り巻き召喚能力が今回の都市攻めのカラクリだと思う。」


俊がエルダーリッチの特徴を完全に解説する。

ヒール砲は先程の回復効果の逆転現象、ハーフペネトレイトは攻撃力の50%が魔法防御と属性耐性を無視することを指している。

攻略サイトの丸暗記のようにも聞こえるが、そもそも攻略wikiの当該記事を執筆したのは俊である。


「さすがー」


「で、ソロ討伐経験は?」


「秘石3つ」


「よし、任せた。」


「ああ。取り巻きは頼む」


阿吽の呼吸でフォーメーションが決まり、啓介と冬歌がニ体のエルダースケルトンを一体ずつ受け持つ。


「ドロシーちゃんはこっち。わたしの[スタンスマッシュ]にあわせて。」


ドロシーが冬歌に加勢し、戦闘が始まる。




冬歌が[ヒール]をエルダースケルトンに連発してダメージを与えていく。

距離を詰めてきたところを迎え撃つように鉄の棒で攻撃、


「必殺[祈り]パーンチ!」


さらに踏み込み、素手による[スタンスマッシュ]に繋ぐ。エルダースケルトンの動きが止まる。


「今だよー」


「いきます! [スピニングアクス]!」


ドロシーのアクティブスキルがエルダースケルトンに直撃する。予備動作で両手斧を振り回して一回転、そのままの勢いで対象に叩き込む大技である。

斬撃と打撃、二つの物理属性を持つ両手斧のアクティブスキルが、高いステータスを持つエルダースケルトンを相手にも関わらず大きなダメージを与えた。


「さらに、[スタンスマッシュ]!」


棍・斧・格闘などの打撃属性に対応するアクティブスキルである[スタンスマッシュ]を、ドロシーも使いこなしている。

ドロシーのツーハンドアックスの打撃を受けて、反撃を仕掛けようとしたエルダースケルトンの動きが一瞬止まる。

素早く距離を取ったドロシーと入れ替わるように、冬歌が跳躍してエルダースケルトンに仕掛ける。


「よいしょー!」


冬歌が空中から[フルスウィング]を地上のエルダースケルトンに叩き込んだ。平原の地面にクレーターが生まれる。

スタン効果の連続使用により、スタンの持続時間が極端に短くなるが、それを計算に入れて死角である空中から仕掛けたのだ。

エルダースケルトンを構成する黒い骨が衝撃でバラバラに引き裂かれた。


一方の啓介は安定していた。エルダースケルトンの剣撃が襲いかかるが、[盾]と[武器防御]でガードを固めた啓介に隙はなかった。

たまに来る、[盾]では防げない[チャージドスラッシュ]も[武器防御]で弾き、攻撃を防ぐ度に、反撃でエルダースケルトンにダメージが蓄積される。

決して啓介からは仕掛けず、すべての攻撃を対処し、隙を突いて攻撃を差し込む。啓介の得意な戦術だった。

俊のようにすべての攻撃を[武器防御]で弾くような芸当は真似出来ないが、[盾]と[武器防御]の合せ技で、一度も攻撃を受けることなく戦闘が続く。

痺れを切らしたかのようなエルダースケルトンの大振りの薙ぎ払いをバックステップで回避、大きな隙に[ハイスラッシュ]を叩き込んだ。


今のがちゃんとした武器であったならエルダースケルトンはもう倒れているのだが、間に合わせのロングソードではやはり少し荷が重い。

エルダースケルトンを倒すどころか、[ハイスラッシュ]の反動でロングソードは折れてしまった。

啓介が武器を失ったことに気づいたのだろう、エルダースケルトンが体制を立て直し、勢いをつけて仕掛けてくる。


「時間切れだ」


啓介が踏み込んで[シールドバッシュ]を叩き込み、よろめいたところをドロシーの[スピニングアクス]がきれいに直撃した。



エルダーリッチを討伐する際、邪魔になる取り巻きの排除が第一の課題であるが、これは既に解決している。

前衛のいない後衛など恐れることはない、俊は素早く攻撃を仕掛け、[ダークネスボルト]の発動を察知すると距離を取り、冷静に避けていく。

ルビナスの剣による火炎追加ダメージが弱点を突き、ノートリアスモンスター特有の高い体力をヒットアンドアウェイで削っていく。

[ダークネスボルト]が三連射になっても同じパターンだった。

VRMMOのダイダロスのときのように思い通りに動く自分の体、戦闘の高揚感。俊はこの状況をとても楽しんでいた。

篭手に攻撃を受けた時に感じた鋭い痛みを思い出す。[ダークネスボルト]にもし直撃したら、あの程度の痛みでは済まないだろう。

当たりどころによっては死ぬかもしれない。そのスリルがさらなる高揚を生み、ゾーンに入った俊は実力を100%引き出していた。


[ダークネスボルト]の詠唱を察知し、バックステップで一度距離を取る。

三発のボルトを余裕を持って避け、エルダーリッチに向けて踏み込んだ俊が見たものは、予想していなかった光景であった。


「四発――ッ!?」


ダイダロスのエルダーリッチにはなかった、四発目の[ダークネスボルト]に肩を貫かれ、俊は気を失った。

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