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五万時間のダイダロス  作者: せーらむ
8/11

深紅の盾と暴れ回る棍

(ドロシーはあれだけ戦えるのに、どうしてラングまで避難していたのか何となくわかった。

 あんな無茶な戦い方じゃいくらスタミナがあっても消耗が激しすぎるし、そのうち大怪我して最悪死んでしまう。

 第三王女なんて人間がそんな戦い方をしているのを、最前線に置いておきたくはないだろうな。)


あれだけ大きな斧を扱えるだけの筋力があるのは良い。

斧の扱いも、斧術の型を自分の体格に合わせてしっかり振るっており、とても素人とは言えない。

だが[障壁]に防御を任せて強引に攻撃を叩き込むその立ち回りには大きな問題がある。

打撃が何度か[障壁]を超えてダメージを受けていたし、[障壁]の使用自体にスタミナや魔力が必要な様子だった。

何より、そんな捨て身のようにしか見えない戦い方は、第三王女という立場からしてどうなのか。

まあ、そのやり方でバーサークベアーの単独討伐という結果を出しているため、周囲も強くは言えなかったのだろうか。


そんな風に思考を巡らせながら、俊は魔法を織り交ぜつつ、近づく奴を片っ端から切り捨てていく。

しかし、ルビナスの剣の赤い軌跡が消えたのを見て、俊は小さく舌打ちをする。

柄頭に嵌め込んだ魔石の魔力が尽きたのだ。これまでのように簡単にアンデッドを切り裂くことは、これでかなり難しくなった。

手近なレイスにひとまず[サンダーストライク]を撃ち込む。感覚的に、残り2発撃てるかどうかといったMP残量だ。

ミスリル自体に微弱ながら魔力があるものの、魔法的な追加ダメージのあるエンチャント無しのただの剣では、

レイスやファントムといった非実体系のアンデッドに殆どダメージを与えることはできない。


アンデッドの数は、先程よりも増えている。

俊という危険人物を今ここで倒しておかなければならないと、増援を送り込んできたのだ。

退路も塞がれており、これでは無茶な戦い方などど人のことは言えない。

[サーチ]を起動してみると、堰を切ったように押し寄せるアンデッドを相手に、門を死守している兵士の様子がうかがえた。

おそらく勝負を決めに来たのだろう、あれではそう長くは持ちそうにない。


絶体絶命の状況にも見えるが、俊には一つの予想があった。こちらにも増援はあるはずだと。


レブナントの剣撃を弾き一太刀浴びせ、レイスの放った火球をバックステップで回避、

レイスに対して[サンダーストライク]を唱えようとして、まだMPが回復していないことに気づき、ひとまず手近なゾンビを袈裟斬りにする。

背後からのグールの避けきれない打撃を振り向いて篭手で受け、思っていたより痛いことに驚くも、

これはVRMMOではなく現実なのだからそれはそうだろうと納得し、即座に反撃して仕留める。


そのように苦しい戦いを十五分ほど続けたのち、予想は確信に変わる。

避けきれないタイミングで繰り出された、スケルトンウォリアーの斧による一撃を察知し、俊は安心したように目を閉じる。


「待ってたよ、相棒。」


駆けつけたケーニッヒが、斧を[シールドバッシュ]で弾き返した。


「待たせたな、相棒。」


よろめくスケルトンウォリアーに、手にしたロングソードで追撃の[ハイスラッシュ]を叩き込み、頭蓋骨を砕く。


「あの爆発だ、三階に住んでた二人もきっと無事に死んでくれてると思ってたんだよ。」


「人が不慮の事故で死んでるのを「無事に」とか言うんじゃねェよ。」


俊の冗談にニヤリと笑って返す彼の名は鈴宮啓介(すずみやけいすけ)。俊の大学時代からの友人で、会社の同僚である。

身長は百八十四センチと大柄で、体格は平均的。ロシア系のハーフであり地毛が銀色。

顔は日本人離れしていて逆にむかつかない程度のイケメンだが、かなり口が悪く、素行も悪いしガラも悪い。

いわゆる不良と呼ばれるような人間をそのまま28歳にしたような男だ。ついでに服のセンスも悪い。あと首が少し長い。

大学時代、ゲームの話で意気投合した俊と行動をともにするようになり、なんやかんやで同じ会社に就職し、たまたま同じ部署に配属された。

俊を時々飲みに誘う同僚とは彼のことである。友達の少ない俊にとっては、かけがえのない親友である。

ダイダロスでのスキル構成は[片手剣][盾][重装備][武器防御][シールドバッシュ][ヒール][ハイスラッシュ][サーチ]の前衛型。


白銀色の鎧ではなく、深紅色のトレーナーを身に纏ったケーニッヒこと啓介が[ヒール]をレイスに行使してダメージを与える。

ロールプレイングゲームでは定番の、アンデッドに対する回復効果の逆転が、このダイダロスでも予想通り作用していた。


「遅刻だよ、冬歌さん。」


そこへ迫るレブナントに対して、ノエルが大きな跳躍で飛び込み[スタンスマッシュ]を叩き込む。


「ごめん、たまたまさっき病院で死んだとこだったんだ。それでちょっと遅れた。」


とぼけたような口調で話す彼女の名は鈴宮冬歌(すずみやふゆか)、旧姓は朝霧。俊の元同僚で、啓介の妻である。

身長は百五十ニセンチとやや小柄で、髪型はショートボブで黒。童顔で化粧っ気がなく、いまだに学生と間違われることもある28歳。

慎ましいものの整ったボディラインを持っているが、体重を気にしている。

ふわっとした性格で、フワッフワな思考回路をしているが、仕事は的確であるゆえにキャラを作っているとよく言われる。だが、彼女は天然である。

俊や啓介と同期で同じ会社に就職し、ダイダロスという同じゲームをプレイしていることから、二人とよく話すようになった。

俊のサポートもあり、啓介の長年のアプローチについに陥落し寿退社、婚約届を役所に出した矢先の事故死であった。

ダイダロスでのスキル構成は[両手鈍器][重装備][祈り][回復力強化][ヒール][ヒールウィンド][スタンスマッシュ][フルスウィング]で打撃重視のヒーラー。


「でも調子のりすぎ。いくらシュンくんでもさすがに無理でしょ。」


「スタンピードのソロは初挑戦だったんだが、それにしては、俺はよくやった方だと思いたいね」


パジャマ姿のノエルこと冬歌が、鉄の棒を使った[フルスウィング]でレブナントを左中間に打ち上げた。

[祈り]によって対アンデッドへの効果を高めた上で、足止めと破壊力に特化した二つのアクティブスキルを用いた強力なコンビネーション攻撃。

ただの鉄の棒でさえ、俊の剣撃に迫る攻撃力を発揮していた。


これでいつもの三人が揃った。ここはダイダロスによく似た別の世界で、彼らは一度死んでいるのだが、それでも三人が揃った。


「ここはわたしとフユカ様で抑えます! いまのうちに体制を立て直してください!」


二人をここまで連れてきたドロシーが、ツーハンドアックスでスケルトンを叩き壊している。


「宮殿の召喚の間を使ったんだな。ありがとう、助かったよ。」


「気配を感じましたので、召喚の間の使用許可をむりやり押し通しました! あと、シュン、これを使ってください」


ドロシーが持ってきた魔石を受け取り、俊はその場でエンチャントのリチャージを始める。

魔力を引き出した魔石を剣の柄頭に当て、魔力を流し込んでいく。

10秒程で手元の魔石が砕け散り、同時にルビナスの剣に赤い光が戻る。魔石ひとつぶんのリチャージが完了したのだ。

俊のカバーに回った啓介が、剣の様子を見て確認する。


「そいつでどれぐらい持ちそうなんだ?」


啓介が俊に[ヒール]をかけながら訊ねる。


「もとが結構いい石だから、うまく使えば、百ぐらいはいける。」


「ならもう一つだ」


ドロシーから預かった魔石を啓介が俊に渡し、俊はすぐにチャージを開始する。感覚的に、柄頭の魔石はまだまだエンプティランプ手前といった感じだ。


「これ、たぶんまだまだ入るぞ」


「結構いいどころの石じゃねえだろ。魔石2個入れて満タンにならねえなんて、秘石クラスだぞ」


「そういえば「ルビナスの秘石」って言ってたな。まだあるなら全部もらえる?」


「なら、あと四つある。全部いっとけ。」


そう言ってポーチごと魔石を俊に投げて渡した。


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