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五万時間のダイダロス  作者: せーらむ
6/11

十分な装備と非常識な斧の少女

時刻は日付が変わる直前の深夜、革鎧に着替えた俊は、コノハとドロシーに案内され、転移門という施設までやってきていた。

上半身は麻の上着の上に革鎧を装備し、肩から二の腕までを防御する肩当て、肘の先から手の甲までを覆う篭手を装備している。

下半身はスラックスのようなパンツの上にベルトと腰当て、膝下までのブーツを履いており、額には鉢金を巻いている。

動きを阻害しないことを重視した、軽戦士向けの革鎧である。


ちなみに、革鎧にもしっかり打撃軽減のエンチャントを施している。

武器による攻撃は[武器防御]で弾けばよいので、[格闘]や[キック]といった素早い打撃攻撃への対策だ。

特に[キック]には転倒効果があり、攻撃動作がとても早いため、ダイダロスでは対策は必須だった。打撃軽減のエンチャントがあれば、ほとんどの場合転倒は防げる。


この転移門は、俊の知るダイダロスにも存在する、遠く離れた2つの場所を繋ぐテレポートのような役割を持つ施設である。

[テレポート]の魔法は存在していたが、アクティブスキルの枠を1つ埋めてしまうため、ダイダロスでは生産・採集専門のプレイヤーが取っていることもある程度で、

多くのプレイヤーは拠点同士を転移門で行き来し、最寄りの都市から狩場やダンジョンへ徒歩や貸し馬車で向かうというスタイルだった。


コノハが転移門の石版に魔力を通し、王都エルンの転移石に接続する。

これで、この転移門を通れば、王都エルンの転移門に併設されている転移石の地点まで一瞬で移動できるというわけだ。


「エルンでは既に防壁の門が破られている可能性もあります。準備はよろしいですか?」


聞かれ、俊は自分の準備を確認する。


革鎧の背に取り付けた剣帯でルビナスの剣とその鞘を固定し、腰のベルトの右側には小さめのポーチが2つ、

1つに非常食である鹿の干し肉が2つ、もう一つに数枚の銀貨と、コノハが持たせてくれた、身を証明するための書状。

ポーチの横、背中側に500mlペットボトルほどの大きさの水筒。


ベルトの左側にはクイックインベントリとして中級ヒーリングポーションが2つ、初級解毒ポーションが1つ、すぐ取り出せるよう固定されている。

ポーションの瓶は試験管を5cmぐらいに短くしてコルクのような蓋がされているもので、瓶は特殊な製法により驚くほど割れにくくなっている。

これを必要な時に左手で素早く取り出し、そのまま指で蓋を弾いて空けて、ポーションを素早く服用するのだ。


そしてベルトの背中側に解体用の大型のナイフを備えているところまでを確認。

携行するポーションの種類に差はあるが、これがダイダロスにおける軽戦士系キャラクターの基本装備である。

これらはコノハが古着とともに用意してくれた。


ちなみに盾を装備している場合、戦闘中は常に左手で盾を持つために、クイックインベントリは使えないので装備しないこともあるし、

アーチャーならば左手に弓を持つので、クイックインベントリは右側になる。

剣を背負うのも、アーチャーなら矢筒を背負うためアタッチメントが異なるし、剣を腰のベルトに装備して背中にはリュックを背負う場合もある。

これは物資を多く準備するため、また戦利品などを多く運ぶためである。リュックを背負うのは、後衛のメイジやヒーラーがその役割であることが多い。

採集が主体のキャラクターであれば、特大のリュックにベルトにも大型のポーチを複数、果ては木製のカートを引っ張る者もいる。


「十分な装備だ。質はそこそこだけど、必要なものは揃ってる。ありがとう。」


装備が整っていることを伝えるとともに礼を言うと、コノハが頷く。


「では参りましょう、シュン様。」


あえて見ないようにしていた、横に並ぶ身長百三十センチ程度の女性が、当然のように自分もついていくという風に語る。

ドロシーは長い銀髪を赤いリボンでポニーテールに纏め、膝上までの紺色のローブを羽織り、背には小さなリュックを背負っている。

そして、おそらく鋼鉄製であろうツーハンドアックスを片手で持って肩にかけている。


「ドロシーさん、俺は何からツッコミを入れていいかいまいちわからないんだが、まずその手に持ってるのは何だ?」


「シュン様、わたしのことは呼び捨てでいいですよ。これは斧です。」


「じゃあ俺も呼び捨てでいい。ドロシー、それが斧なのはわかってるんだが、まさかそれでアンデッドを真っ二つにするとでも?」


「そうですよ、シュン。わたしはバーサークベアーも一人で倒したことがあるんです。」


足手まといだ、と告げようと思っていた俊だが、バーサークベアーという単語でそれを改める。


エリアごとに一体だけ、特定の場所に出現する強敵、通称ノートリアスモンスターの一種がこのバーサークベアーである。

バーサークベアーはロッソ大陸南部にあるヌーブルの森の深部に、ゴブリンが生息していない一帯があり、そこの主として君臨している。


初心者向けエリアであるヌーブルの森において、駆け出しのキャラクターが束になって討伐に挑戦し、

ことごとく返り討ちに遭うのが通例となっている有名なノートリアスモンスターだ。


凶暴で、三メートル近い巨大な熊であり、体力が高く、傷つくほどに凶暴さが増す強敵であるが、

得られる戦利品は普通の熊より量が多いだけの毛皮や肉、[調合]の素材になる内臓などで、倒せるレベルの中級者にとってはうまみが薄く、

ノートリアスモンスターとしては珍しく、出現しても基本的に放置されている。


そのうち、その程々の強さから駆け出しキャラクターの登竜門としての役割をプレイヤーから見出され、

いつしか、バーサーク先生とか熊先生と呼ばれるようになったのである。

ちなみに、俊は単独で十秒ほどでの討伐に成功している。


「熊先生を一人でやれるなら、スタンピードの雑魚モンスター程度なら十分か。けど、防具はいいのか?」


「わたしには[障壁]というスキルがあるので、邪魔な防具はつけないんです。」


俊の知らないスキルである[障壁]。名前からしてバリアのようなものを展開し、ダメージを防ぐ防具にするのだろうか。


「さっきの[トランスファーメンタルパワー]といい[サモンダイダロスコネクション]といい、俺の知らないスキルがいくつもあるな。」


俊は今のうちに、ドロシーからこの世界のスキルについて情報を引き出す事にした。


「あんまり話している時間もないが、戦力把握のため、お互い手持ちのスキルを開示しよう。

 俺のスキルは[片手剣][軽装備][武器防御][高速詠唱][クイックヒール][サンダーストライク][ピッキング][サーチ]だ」


俊が自身の自称完璧なスキル構成を披露すると、ドロシーは首をかしげた。


「聞きなれないものが多いのですが、スキルは4つですか?後半の4つはおそらく魔法名でしたが、魔法そのものをスキルとして持っているのですか?」


「アクティブスキルのことか? 言う通りなんだが、こっちじゃ違うのか? いや、まず先にドロシーのスキルを教えてくれ、それでわかるかもしれない。」


「ええと、ではわたしのスキルの内容をお教えします。

 まず先程お話しした[障壁]。これは体を魔力の壁で覆って怪我を避けるものです。

 次に[ルビナスの召喚式]。シュンを召喚したのがこのスキルです。この2つです。あとは初級回復魔法と生活魔法が使えます。」


個数もおかしければ、漢字とカタカナの混じったスキル名である[ルビナスの召喚式]もおかしい。

それに[サモンダイダロスコネクション]はどこにいったのか?スキルではないのか?

スキルとは別に初級回復魔法や生活魔法があるというのもわからない。

俊の知るダイダロスとはまったく違うものだと考えたほうがいいだろう。


「……わからないことがわかった。今度、時間のあるときにゆっくり話をしよう。」


長話をする時間がないことが惜しい。転移門の向こう側、王都エルンの状況はおそらく切羽詰まっているのだ。

話を切り上げて転移門に向かう俊の後ろにドロシーが続く。

小さな体で軽々と大きな斧を運ぶ姿が、とてもゲーム的でなんだか可笑しくなる。

いざとなったら、抱えて逃げるぐらいは大丈夫だろう。そう考えながら、俊は転移門に入っていった。

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