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五万時間のダイダロス  作者: せーらむ
5/11

最高の装備と非常識な準備段階

鍛冶場は俊の知るダイダロスでも馴染み深い、溶鉱炉と金床、砥石に作業台、ついでになめし台に裁縫台なども揃った総合的な生産設備だった。


[鍛冶]のスキルで魔力を込めながら、溶鉱炉で溶かしたミスリルを型に流し込み、まずは棒材にする。

棒材が固まるまでの間に、麻の布材を裁断し包帯のようにしていく。これは剣の握りに使用する。


基礎スキルの[錬金術]を使用し、直径2cm程度のでこぼこしたいびつな球形の魔石を2つ手に取り、魔力を引き出していく。


魔石とは、輝石と呼ばれるいびつな球体の水晶に対して、専用の祭壇で長期にわたって微弱な魔力を流し込み続けることで魔力の結晶としたものだ。

主にエンチャントに用いられるが、儀式のような特殊な魔法の行使においては、必要な魔力を補うための燃料として用いられることもある。

ただし、通常の魔法を行使する際のMPの代わりとして使うことはできない。これは、魔力の流れる速度による問題であると、俊のダイダロスでは解説されていた。


その魔石を握りしめて砕き、エンチャントをまずは布に施す。エンチャントの内容は、握りを改善し、武器落とし攻撃を防ぐものだ。

[武器防御]の際に武器を取り落とすことを防ぐ、盾役には必須のエンチャントの1つだ。


握り手の部位には他にも振りを軽くするエンチャントや、クリティカル率を上げるエンチャントを施すことが出来るが、

俊の経験上では、戦闘において最も役に立つのは事故防止の機構であるとし、好んでこのエンチャントの装備を使っている。


ちゃんとエンチャントが施されたことに安堵し、俊はダイダロスでの技術がこちらのダイダロスでも問題なく振るえることを再確認した。


ダイダロスでは、生産系キャラクターの戦闘能力が一般キャラクターに大きく劣ることのないように、生産系統のスキルはすべて基礎スキルに統合されている。

そのため、やろうと思えばすべての生産スキルを極めることだってできるのだ。

その代わり、生産スキルの成長はアクティブスキルよりもさらに大幅に遅く、ほとんどのユーザーは趣味で1つ2つ、軽く触る程度に留まっている。

生産スキルは人気の高い料理を始め、鍛冶、醸造、木工、裁縫、錬金術、調合、細工、農業、美容、建築、解体、鑑定、音楽、ダンスなど多岐にわたる。

アクティブやパッシブのスキルには大きく劣るものの、ステータスへの補正もあるこれらのスキルを、俊はすべて極めていた。


固まったミスリルの棒材に魔力を込めながら赤熱させ、同じく魔力を込めたハンマーで鍛えていく。

剣の形が整ったところで、残り8つの魔石から魔力を引き出し、すべて砕いてミスリルの剣に振りかけていく。

刀身に施すエンチャントは耐久上昇。刃こぼれを防ぐエンチャントだが、魔石を最大まで使用したため、多少の傷ならば自然修復されるようになる。


砥石を用いて刃引きを行ったあと、柄頭に魔石を嵌め込むための穴を[細工]で加工する。

[錬金術]で柄頭から刃まで魔力の経路を通し、ルビナスの秘石をはめ込む。しっかりと固定するようにふたたび[細工]を施す。

魔力の性質を設定することで、第三のエンチャントが完了する。

柄頭に施すことのできるエンチャントは追加効果。火の魔石を用いているため、今回は火属性の追加ダメージを発生させる効果となる。

[片手剣]に関するアクティブスキルを持たない俊にとって重要な、攻撃力を得るためのエンチャントである。


柄に握り布を巻き、剣が完成する。軽く振るうと、火のエンチャントの特徴である赤い軌跡が描かれた。


[鑑定]を用いて性能を確認する。通常はチャット欄に性能が列記されるのだが、こちらでは脳裏に文字列が浮かんできた。


バンディング エイジス ミスリル ブロードソード オブ インフェルノ +10 [シュン]

武器種[ブロードソード] 銘[ルビナスの剣]

[武器落とし防御][耐久上昇(大)][火炎追加ダメージ(特大)]


以下、攻撃力や耐久値など細かい性能が続く。

名称のバンディングが武器落とし防御、エイジスが耐久上昇、インフェルノが火炎追加ダメージを表している。

+の値は武器性能への補正で、1毎に5%向上、10が最高値だ。


ブロードソードは[片手剣]のなかでは中型片手剣に分類される刀剣である。

大型片手剣に分類される、刃渡りが1mを超えるロングソードやそれ以上のバスタードソードは扱いづらく、狭いダンジョンなどでは攻撃不能に陥ることもある。

反面、小型片手剣に分類されるナイフやダガー、マシェットなどでは正面きって戦うには短すぎる。

中型片手剣に分類されるショートソードやシミターなどのうち、最も[武器防御]に向いているとされる武器がブロードソードである。

攻撃力ではシミター、攻撃速度ではショートソードに劣るものの、バランスがよく扱いやすい、俊の得意武器である。

ルビナスの秘石という魔石を用いてエンチャントしたためだろう。[ルビナスの剣]という銘が付与されていた。


俊が[鑑定]の仕様から連想し[サーチ]を起動してみると、武器の完成を察した鍛冶場の主人が、店舗に続く扉から鍛冶場に入ってくるのを感じた。


「見事なもんだ、非常事態だからと鍛冶場を明け渡したが、あんたとんでもない腕前だな。そのレベルの武器をこの短時間で打ってしまう上に、今3つ目のエンチャントを施さなかったか?」


鍛冶場の主人は身長百九十センチを超える大柄で、筋骨隆々だが優しそうな顔をした男性だった。


「エンチャントは握りと刀身と柄頭に。[錬金術]が60もあればこれぐらいは余裕かな」


「錬金術にはおれもそれなり心得があるんだが、おれじゃせいぜい2つまでだ、やろうとすれば柄頭の魔石は割れちまうだろうし、

 その拍子に刀身のエンチャントも消えちまうだろう。なかなかいいもんを見させてもらったよ。」


「そりゃどうも。そうだ、悪いんだけど協力してもらえるかい。ブロードソード用の鞘を1つ貰いたい、失念してた。」


「それなら共通規格のがあるが、それに合うのか?」


「ぴったりのサイズで作ってある、問題ないよ」


言いながら鍛冶師から木製の鞘を受け取り、ルビナスの剣を鞘に納める。きれいに納まったのを確認し、

鞘の金具を指で弾けば、安全装置のロックが作動するカチッという音が鍛冶場に響いた。


「寸法も測らず作ってそれか。つくづくとんてもない腕前だな」


「見てたのか。まあ、一万本も作ればさすがに慣れるさ」


感心した鍛冶師は、ふと思い当たり棚から魔石を一つ取り、俊へと投げてよこす。


「それだけの腕なら、完成品にエンチャントを施すのも何てことないだろう。鞘に使いな。」


アクセサリとして分類される鞘に施すことのできるエンチャントは、スタミナの自然回復、怪我の自然治癒、魔力の上昇など。

俊は剣が納められたままの鞘を手に取り、魔石の魔力を引き出したのち握りしめて砕き、MPの自然回復のエンチャントを施した。


「そんな雑なやり方でそんな高度なエンチャントが施せるなんて、この歳まで知らなかったよ」


「こう見えて繊細な力加減が要るんだ。普通はちゃんと乳鉢ですり潰したほうがいいよ。」


しばらく錬金術に関する雑談をしていると、コノハが俊を呼びに鍛冶屋に現れた。

準備ができたことを伝えると、装備の用意ができたとの事で、俊たちは一度屋敷へと戻る事になった。


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