五万時間のダイダロスとこれからのダイダロス
「肌が白いだろ、これは魔力切れが原因の気絶だ。……寝かせとけばそのうち起きる、はずだ。」
ドロシーを抱きかかえて座り込んでいる俊が、身を案じる啓介と冬歌にそう答えた。
その返事に、どうやら二人とも大丈夫らしいと安堵し、ふと光を感じて視線を東へ向ける。
「見ろよ、夜明けだ。こっちのダイダロスじゃ初めての夜明けだな。」
エルダーリッチを討伐したことにより瘴気が晴れ、スタンピードを構成していたアンデッドたちは朝日の光で浄化されていく。
「ゲームの時より眩しいねえ。ほんものの太陽なんだね。」
啓介と冬歌が俊の向かいに腰を下ろす。
朝日が、疲れきった四人をやさしく照らしている。
南に目を向ければ、救援の兵士たちが馬車を連れて駆けつけてくるのが遠くに見えた。
「夢でもゲームでもないんだよな。俺たち、本当に死んだのかな。」
「オレは死んだって自覚あるぜ。病院のベッドでだるい感じがどんどんキツくなって、ゆっくりまぶたが重くなってった。」
「わたしもそんなかんじ。でも、気づいたらエルン宮殿の召喚の間に居たんだよね、わたしたち。」
「どうなってんだこりゃ?って冬歌と一緒に首を傾げてたら、俊が一大事だって言うから飛んできたってわけ。」
「本当に助かった、死んでくれてありがとう。」
「人が不慮の事故で死んでるのを「ありがとう」とか言うんじゃねェよ。」
俊と啓介が笑いあう。彼らの友情はいつもこんな感じだった。
「死んだことを悔やんでない? 俺はもうちょっとダイダロスで遊びたかったんだけど。」
「社宅にトラックが直撃して何人も死んで、うちの会社これからヤベェだろうなーとは思ってる。」
「ああ、確かにそれはヤバいだろうね。俺たちには何もできないけど。」
「まぁ俺自身は別に? 死んだけど今生きてるしいいだろ、って感じ。冬歌も居るし。」
「なんか、死ぬのも一緒で、死んでからも一緒って、運命を感じるよー」
冬歌が啓介の腕に頭を預けた。身長差で、肩には届かない。
啓介と一緒ならなんだっていい、とボディランゲージで示していた。
俊の腕の中でドロシーが目を覚ます。すべて終わったことを察すると、俊に抱きついた。
「もう……大丈夫なんですね。」
「ああ。もう大丈夫だ。」
「本当に、本当にありがとうございます。」
「どういたしまして。」
「あの……もう少し、このままでお願いします。」
「……ああ。」
俊に抱きついたまま、ドロシーが静かに泣いている。
不安だったのだろう。故郷が滅ぶかもしれない一大事だったのだ。
俊が、安心させるように抱き返す。
救援の馬車が到着するまで、ずっと抱き合っていた。