第三王女と廃人の切り札
「[ヒール]で傷は塞いだが、目が覚めねえな」
「たぶんMPをやられてる」
四連射の[ダークネスボルト]を凌ぎながら啓介と冬歌が会話する。俊が倒れたことで、エルダーリッチが攻撃のターゲットを啓介たちに切り替えたのだ。
「基礎スキルがカンストしてる俊のMPを一発で全部削る闇魔法って、いくらノートリアスでも流石に無茶苦茶だろ。」
「いろいろとこっちのダイダロスは違うみたいだよね。それも厳しい方向に。」
避けることだけに集中すれば、啓介たちにもなんとか避け続けることができるだけの実力がある。
伊達にド廃人の俊に連れ立って無茶なことをやっているわけではない。
しかし、なんとか[ヒール]で攻撃を仕掛けるも、おそらく焼け石に水であり、[ダークネスボルト]の勢いはとどまるところを知らない。
もちろん、俊が落としたルビナスの剣を拾って直接攻撃を仕掛ける余裕などまったくなかった。
「……わたしの[トランスファーメンタルパワー]でシュンに魔力を分け与えます。お二人は、エルダーリッチを引きつけてください。」
ドロシーが斧を捨て、リュックから取り出した中級マナポーションを握りしめる。
「MP分与の魔法があんのか。……それに賭けるしかねェか。冬歌、気ィ引き締めてかかれよ、一発当たったらアウトだ!」
「けーちゃんこそ、[盾]があるからって油断しちゃだめだよ、それたぶんもうすぐ壊れるし。」
啓介と冬歌が左右に散開、エルダーリッチに接近する。倒れている俊にドロシーが向かう。
決死の救出作戦が開始された。
ドロシーが仰向けに倒れている俊の前に跪き、俊に口移しで中級マナポーションを飲ませる。
そして、両手を俊の胸に当てて[トランスファーメンタルパワー]を行使する。
送り込むことのできる魔力はごく僅かずつで、どれだけ魔力を送り込めば意識が戻るのかもわからない。
啓介が[シールドバッシュ]で、避けきれなかった四発目の[ダークネスボルト]を弾くが、冬歌の予想通り、そこで盾が壊れてしまう。
ひとつ舌打ちして、砕けた盾を投げ捨てて距離を取り、ドロシーに声をかける。
「こっちはそろそろ限界だ! まだなのか!?」
返事はない。ドロシーは集中して、必死に魔力を送り込んでいるのだ。
今度は冬歌にターゲットが向く。ひょいひょいと避けていた冬歌だったが、
「わー!」
あろうことか地面の石に躓いて転んでしまう。
素早く反応した啓介が駆け出し、転んだ冬歌を狙った四連射の[ダークネスボルト]から、間一髪で冬歌を救い出す。
エルダーリッチの瞳のない骸骨の視線が、背を向けているドロシーを見る。
「ドロシーちゃん逃げてー!」
冬歌の叫びにも反応せず魔力を送り続ける。四発の[ダークネスボルト]がドロシーの背に直撃する。
「くうぅぅうう!!」
[障壁]がギリギリのところで[ダークネスボルト]を防ぎ切る。背負っていたリュックは消し飛び、ローブも破れ、白い背中が露わになる。
それでも[トランスファーメンタルパワー]を止めない。逃げ出すこともしない。
王女として困難に立ち向かう使命が、俊を召喚した者としての責任が、少女としての想いが、ドロシーをかろうじてこの場に繋ぎ止めていた。
ドロシーが泣きながら叫ぶ。
「シュン!はやく起きてください!お願い!助けてくれるんでしょう!?」
目の錯覚か、少しだけ[トランスファーメンタルパワー]の光が強くなった。
エルダーリッチが、狙いすました[ダークネスボルト]を四連射する。
[ダークネスボルト]が地面を削る。
気絶したドロシーを抱きかかえたまま、俊がエルダーリッチへと肉薄する!
「おおおおおおおおおおお!」
俊へ向けて放たれた、七連射の[ダークネスボルト]を、すべて見切って躱す。
赤く燃え上がるルビナスの剣を、エルダーリッチの頭蓋骨に突き立てる。
まだ倒れないエルダーリッチが、この至近距離で再び[ダークネスボルト]を放とうとする。
ルビナスの剣に[錬金術]と[ピッキング]を組み合わせ、魔力供給のリミッターを解除。
「せいッ!!」
ルビナスの剣の柄頭を魔力を込めて殴り、ルビナスの秘石を砕く。
ルビナスの秘石が砕かれた衝撃で、過剰な魔力が刀身に流れ込み、爆発という現象に昇華される。
それは、俊が「ファイナルストライク」と呼称する、生産システムと魔石システムを利用した切り札だった。