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第5話

「あぶねぇ!」

「ハハハッ、やるねぇシーやん!」


 例え話をしよう。


「これならどうだい? 『ハイパーノヴァ』!」

「名前が不穏すぎる!! ちょ、ま、ウファアアアアアア!?」


 目の前に黒く染められた箱がある。

 その箱の中身を、箱の蓋を開けずに答えてみろと言われれば、なんと答えるだろうか。


「いいねぇ、いいねぇ! それじゃあどんどん行くよ! ――『セン』」

「待て待て待て! なんだあれは!? まだなんの準備もできてな――……ふぁっ?」


 きっと、大半の人が「わからない」とか「ヒントが欲しい」と抗議し、もしくは適当な答えを挙げることだろう。


「いよっしゃ! あいむうぃなぁー!」

「初見殺しは……まじずるい」


 なんのヒントも無い状態で、箱の中身は当てられない。

 同じように、なんの知識も無い状態で今まで知り得なかったモノを感覚で使うことは出来ない。

 つまり何が言いたいかと言うと、


 パラメータの値がMAXでも一朝一夕で魔法は使いこなせない。ってこと、かな?










 硬い握手を交わしたあの日、俺はラルクに連れられて、とある都市に来ていた。ラルクからすれば帰ってきたというらしい。

 


「ここが、俺達の家。『エフギウム』だ」


 そう、案内されたのは家と書いてギルドと読む、日本でよく見る平屋建ての一軒家だった。


 ……え?



 俺の勝手な想像で『ギルド』なんてものは魔法使いが集まる施設で、ギルドメンバーの第二の家みたいな存在で、中は広々とした酒場みたいになっている。

それが俺の中のギルド像だった。

 しかし、この世界は常に俺の期待を裏切ってくれる。こんな日本でよく見る一般的な一軒家をギルドと呼ばせるとは……さすが異世界!


 そんな頭おかしい感想を抱きながらも、その質素な扉を開ける。そして最初に俺の目に入ってきたのは、


 もちろん玄関だ。見れば見るほど日本だ。玄関に入ると靴箱、姿見が出迎えてくれて、何故かこけしが置いてある。気味が悪い。


 玄関で靴を脱ぎ、真っ直ぐに廊下を進み案内されたのは、恐らくこの家の一番奥の部屋。

 その扉を開くと、中は和風で、床には畳が敷かれており、壁には掛け軸がかけられている。そして何故かこけしが置いてある。ウン百体と。

 俺をこんなところに案内したラルクはといえば、俺がこの部屋の扉を開けた瞬間に背を向け逃げ去っていった。

 つまり、ここにいる何者かはラルクにとって会いたくない者。天敵とも表せられる。非常に危険なやつであると想像できる。


 家の一番奥の一室、のさらに奥、彼女はそこにいた。

 円形に設置されたこけしの中心で、座布団に座りながら茶を立てている。俺はその動作を見つめながら、その女性の前に腰を下ろす。

 そんな俺を一瞥し、茶をこちらに差し出すと彼女は、


「遠路遥々ようこそ! ここは停止した子達が集まる『エフギウム』。私はリサ・ラルサ! 適当にリサニャンって呼んでね! 以上!!」


 と太陽のような明るい笑顔を見せ……た。

とりあえず一つだけツッコませてもらおう。


「ツッコミどころが多すぎるんですが!?」




 俺の頭の中が意味不明に埋め尽くされているということで、ここで一旦、話を整理しておこう。


俺は前世で理不尽な死を遂げたただの高校生。そんな俺が、この世界の『神様』の気まぐれによってこの世界に二度目の生を受けた。謎すぎる能力を貰って。


そしてこの世界に生き返り、成功する人生のレールに乗るはずだった俺の目論見は、『運が無い』という理由だけで儚く砕け散ったのだった。


そこから俺はなんやかんや人間的に一進一退を続けて、ラルクと出会うこととなる。

そしてそのラルクに連れてこられたのは、とある都市。噂ではどこからでも王城が見えるらしい。更にその都市の路地裏をくぐり抜けた先がここエフギウム。


 そして現在に至る、の……だが。


「おお、どうしたの!? 質問ならどんとこいだよっ!」

「質問……? いやっ! 質問というかツッコミだ! まず一つ。麗しい貴方は誰ですか!?」


 頭が回ってねえ、麗しいとか口走っちまった。麗しいの意味知らないのに!


「いやあ。麗しいだなんて~」


 しかし、実際にかなりの美人である。整った顔立ちに、おそらく腰まで伸びているだろう黄緑の髪。そしてどこか温かさを感じる黄色の瞳。

 俺の元いた世界……いや、この世界でさえあらゆる男を虜に出来そうな容姿だ。

 

「それじゃあ、自己紹介といこうか。名前はさっきも言った通りリサ・ラルサ。私はこの家の主であり創設者でもあるエルフのお姉さんでーす!」


 それでもって顔から下は、見るまでもない。モデルでもそうそういないスタイルが俺の目の前に存在している。


「ち・な・み・に。ほぉら、耳! エルフっぽい耳でしょ? ……」


 可はあれど不可はない。正しくパーフェクト。


「どこ見てるのかなぁ……! てか話聞いてた?」

「はっ!? えっ? あ、ああ。わかったよリサ」


 あっぶねえ! 怪しい目付きが気付かれるところだった……手遅れではないよな? リサの目が光ってるのが気になるけど……大丈夫だろう。そう信じたい。


「ま、いいや♪ それじゃあまずはここにサインしてー」

「あいあいさー」 


 そう言って俺は差し出された紙に同じく差し出された万年筆でサイ……ん?


「待って!? なんのサイン!? 怖えよ、十分三割複利の誓約書か!?」


 俺の驚きとミリで怒りを込めた咆哮をリサは見向きもしていない。依然とリサの目は光ったままだ。


「ハハハッ! さすがシーやんだねえ。これぐらいは見破ってくるかぁ」

「だから怖いよ! なんだってんだよこれ!!」


 こんなことする理由も、「さすが」の意味も理解不能だ。

 この謎を解く手がかりでもあるのかと先程渡された紙に目を通してみた。


『          』


 何も書かれていなかった。

どういうことだ? 無地の紙にサインを書かせてなんの得がある? どんな理由がある?


 いや、違う。それ以前の問題なんだ。

 さっきはちらっと見ただけだが、『確かに何か文字が書いてあった』。内容は確認してないが、確実に何かが書かれていた。つまり……?


「どうしたの~? そんな怖い顔して」


 エルフって言ってたよな……


「お~い。聞こえてますかぁ?」


 エルフ……は。大体魔法が得意な奴らばっかだろ?


「うーん。やっぱり無理だったのかなぁ?」


 ということは、見えたものが存在していなかった。

 ではなくて、存在していないものを見せられたんだ。


「つまり、エルフの幻惑魔法によってありもしない契約書にサインさせられそうになった。だ!」


「いきなりどうしたの!?」


「さあ答え合わせといこうじゃないかリサニャン!」


 俺はリサに指を向ける。

そしてリサは少し口角を上げて、


「……そーかそーか、答え合わせかー」


 次第に、リサの瞳は光を増していく。


「うん。多分当たってると思うんだがいい加減その眼の光を抑えてくれないか? ポリゴンショックで倒れちゃうよ」


 とどまるところを知らずに、リサの眼光は強まり増す。

 その光が最大に達すると同時に、俺の頭に何かが入る感覚がした。


『ハハハッ、正解正解大正解だよ』


 そんな声を聞きながら俺の意識は黒く染まっていった。









 なんて表現したらいいんだろう。黒く染まった大地に、赤く燃えている木々、緑に光る太陽、紫色の空。

 明らかに現実とかけ離れたその世界で、俺はただ呆然と、目の前の『存在』に畏怖していた。


 茶色のその体には、所々から何かが飛び散り。

 何かを咀嚼しているその口は赤黒く染まっていた。

 どう考えようとも、行き着く答えは一つしかなく。次第に俺の足から、頭まで、すべてが震えていた。


 その口には、血。

 その血は、どこから?

 きっと、その咀嚼している――――



 "人"から



 



「うわぁ!?」


 ……おん? なんだ、今何してた?

悪夢の記憶は残っている。それ以前は何をしていた? 確か、ラルクの紹介で、エルフの――


「やっほーい。起きたぁ?」

「リサニャン!?」


 記憶が曖昧なうちに、突如として横になっている俺の上から顔を出してくるリサ……待った。この柔らかい感触。俺とリサニャンの位置関係。これは――


「どぉ? 上手いでしょ『風の魔法』」


 俺の頭は、丁度いい形と柔らかさで回る風によって支えられていた。

 この世界の魔法の扱いがどの程度難しいのか知らないが、俺の頭を支えつつも、頭皮を抉っていないのはさすがエルフといえばいいのだろうか。


「ああ、アリガトゴザイマース」


 まったくもって嬉しくない。いや、魔法の出どころによっては膝枕より――


「いやちょっと待て。なんだ今のは!」


 そうだ、俺はおかしな夢を見せられて目覚めが悪いんだ。


「今の?」

「俺が寝ている間のアレだよ!」


 しかし、リサは『アレ?』『今の?』などと首を傾げるだけで、何も知らないようだった。


「んー。じゃあいいや。それよりリサニャン? 一体全体俺に何をしたのか、答え合わせといこうじゃないか!」


「ん、ああもちろんさ! それじゃあまずは――」


 大体が、俺の予想通りだったので、詳しい説明は省くことにする。

 端的に言えば、今回のこれは一種のテストみたいなものらしい。

 いかにリサの幻惑を見破るか、といったようなテストだった。実際には十重二十重に罠が仕掛けられていたようだったのだが、俺が引っかかったのは契約書へのサインのみ、しかしそれもすんでのところで気が付き俺の完全勝利に終わったらしい。

 リサ曰く『このテストを満点で突破したのは君だけだよ。楽しみだなぁー』らしい。

 テスト満点なんて、小学校以来とったことがなかったが、こんなくだらないテストでとることになるなんてな。


 というか、楽しみだなぁーの部分が気になってしょうがないのだが。


 そしてその『楽しみ』がなんなのかは、このあとすぐに体験することとなる。








「なぁ、ラルク」

「どうした」


 あのテストの後、そこら辺をぶらついていたラルクをつかまえて、あの話をする。


 あの話とは、言わずとも知れた"アレ"

 異世界を望み、妄想していた少年少女なら、絶対に創造するある一つの事項。


 ――『魔法』


「魔法が使えるようになりたいんだ!」


 そら、独学で魔法が使えるようになれば、素晴らしくカッコイイのだが。

 習わないと二桁の掛け算が出来ないように、魔法のまの字も使うことは出来なかった。

となれば、誰かから教えを乞う。これしかない!

 そして突然の土下座に、大層驚いているラルクは、申し訳なさそうな顔を浮かべると、


「あー、魔法のことなら、リサさんに教わった方がいいと思う……ぞ」

「……そっか!」

 

 その後リサのところに行って笑い転げられたのは、言うまでもない。







「ん! それじゃあ魔法の使い方を教えて欲しい、ってことでおーけ?」

「はい!」

 

 外に案内され、謎のローブを渡された時の俺は楽しみという感情しかなかったのだが、魔法について学んでいくうちに現実を知らされることになる。――俺に刻まれた呪いの現実を。




「まず、魔法を見るのははじめて……って言ってたよね」


 俺は首を縦に振る。リサはそれを予想通りと言いたげに笑顔で「うんうん」と返す。


「とりあえず、習うより慣れろ。魔法を使うところ見せてあげよう」


 そう言うと、リサは両手を広げ高速で俺には理解できない言語を呟き始める。

 そう言えば、俺がリサの名前を呼ぶ時、『リサ』か『リサニャン』を交互に使ってるよな……これは統一したほうがいいのか? てか、魔法を学ぶ上でリサニャンは論外だし、リサと呼び捨てもいただけない。まあリサは気にしないんだろうけど。

 じゃあとりあえず……ラルクのようにリサさん……? リサ、先生……? リサリサ先生!? いやいやいや! 駄目だ! これは却下! ということは消去法でリサ先生、か。

 まあいいんじゃねえかな。


「それじゃあ見ててよ!」

「はい! リサ先生!」


 そうして、俺の魔法勉強は幕を開けたりしただった。

 





「まー。大体の事は教えれたかな?」

「は、はぁ」


 アレから二時間。短いような長いような時間経過だったものの、疲労は確かに溜まっていた。身体的なものではなく、精神的な疲労。

 リサ(リサに先生は恥ずかしいからやめてくれと言われた)が言うには、常人以上の魔力量らしいが、イマイチ実感できない。というか、マトモに火球一つ作れないって、才能無いんじゃね?


「そんなことないさ? それに魔法をはじめて見てあそこまで具現化出来るなら大したもんだよ?」


 リサはそう言うが、俺には納得出来ない。

だいたい、俺はなんでこんな異世界にやって来たんだ? それは自分の人生を劇的に変える。変化を見つけて、それを追ってきたんだ。

 神に哀れまれ、蔑まれ、それでも必死こいて手に入れた二度目。

 これでもかと言うほど恩恵を受けて、この程度か? まだだ、もっといけるはずだ。

俺は、世界最高峰の魔法使いで、世界最強の武闘家、さらに王様の孫で賢者の祖母がいる……シー・スミスなんだから。


「んー、シーやん? どうしたの。顔が真っ赤だけど」


 まだだ、きっとオレは――


「シーやん!? 大丈夫!?」








「シーが倒れたって?」

「うん……魔法を教え終わったスグあとに……」


 ――頭が、痛い。


「……ただの熱か?」

「そうだけど――ちょっと、やり過ぎたかな?」


 ――これ、誰の声だ?


「確かに、初っ端から二時間もぶっ通しで魔力練り続けるなんて、人間業じゃねえよなぁ」

「うっ。でも……かなり楽しそうだったからさー」


 ――待て、そこに。誰がいる?


 そこにいる三人目の男は誰だ?





――――――



『目が覚めた、って表現はちと違うな……「繋がった」が正しいな』

「お前、誰だ?」

 

 気がつくと目の前に黒いモヤがかかっている男がいた。

 それにここはエフギウムじゃない。直感的に分かる。


『はっ、ここまで姿を見せたんだ。察してもらいたいもんだがなぁ』

「お生憎様、俺は主人公目指してるんでね、これぐらい察しが悪い方がいいのさ」


『くっだらねー言い訳しやがって。まぁ残り時間はすくねえし、単刀直入に答えだけ言ってやるよ。オレは――』


 そこで、意識は少しづつ覚醒しはじめた。

そして、


『お前だ』


 その言葉を最後に、俺は目が覚めた。



――――――



「起きた、起きたから――リサ、どいてくれ……」

「シー、やん……?」


 心配してくれるのは有難いのに、俺の腹に添えられている両手には殺意でもこもっているレベルで力が加えられている。


「シーやん!!」

「強まった!? まっ、またあっちに行っちまう!!」


 笑ってないで助けろラルクゥ!!











 んで見事。エフギウムの日常を体感し、メンバーの一員となった夜のことだった。



「一つ聞きたいんだけどさあ」

「なんだ?」


 月に照らされた一室で、ラルクと談笑していた俺は、少しだけエルフについて聞いてみることにした。

 俺の知っているエルフとの齟齬が発生しているような気がしていてもたってもいられなくなったのだ。


「エルフってさ、他の人に知られるとヤバいやつ?」


 そんな俺の問いかけを、ラルクは常識知らずを見るような目で眺めながらため息をついていた。

 しょうがねえだろ。ほんとに知らないんだから。


「そんなん当たり前だろ」


 ……当たり前? その当たり前は、どういう当たり前なんだ?


「エルフは、力もあるし魔法も使えるしで、奴隷としては結構な高値で取引される。まあそれ以前に珍しい上に数少ない種族だからレアリティが高いってのもある。まあそんな感じで、人間界にとけ込んでるエルフは少ないし、そんな物好き、リサ以外見たことない」


 途中から、ラルクの話は聞こえなかったが、だいたいが、俺の知っているエルフそのものらしい。

 てことは。


「なあラルク」

「なんだ?」




「これって、フラグ立ってんのかなぁ?」

とりあえず今回の反省てん。

何も考えず書き出すのはやめようと思いました。

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