表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第3話

前回のあらすじ。

新人君が脱走しようとしていたところを見つかり、運悪く俺も容疑者の一人にされそう!!


 とか言ってる場合じゃない! どうする。なにか言い訳を考えねば。最低でも俺の命だけは助かるように!


「なんだその穴はぁ〜。お前ら脱走でも企ててんのか。あぁん?」


 恐怖。圧倒的恐怖。言い訳を考えること以前に、その場から一歩も動くことが出来ず、ヘビに睨まれたカエル状態になっていた。

 やべー! やべー!

 俺の頭が真っ白になると同時に、ヤズヤ君が俺の後ろ、つまりは看守長の前に出る。

 何するつもりだ……?


「脱走してるが、それがどうした?」


 言い切ったよこの人! なんでだよ!! もう言い逃れできないよ!

 それに俺が除け者にされてるうちに二人の間に火花散り始めたし! くそっ、今のうちに逃げるしかない――けど!


 看守長の横を通れるわけねえだろ!!!




「なんだぁ? また懲罰房に入れられてぇのか?」


 えー。というわけで、実況解説「俺」でお送りしたいと思います。


 看守長は手首をポキポキ鳴らしながら、一歩ヤズヤ君に近づく。その巨体が倒れたら、ヤズヤ君はぺちゃんこに潰されてしまいそうである。

 対して、ヤズヤ君はこちらからは顔が見えないが、何やら手を顔の前で動かしているようだった。


「それ以上寄ってくるな、息が臭い」


 おーっと、ヤズヤ君煽っていく!! これは看守長怒りのボルテージが一気に上がっていきます。

 真っ赤に染まった顔は、ゆでダコを彷彿とさせます!


「なんだ? ゆでダコみたいに真っ赤になって」


 おっと、ヤズヤ君と同じことを考えてしまっていたようです。

 まああれを見れば百人中百人はゆでダコが出てくるんじゃねえかなぁ。


 お、っと? 看守長の方に動きがありました!

「ぶっ殺す」

 看守長お怒りのようです!


 てか、悠長にこんなことしてて大丈夫なのか、俺。










 結論から言うと、俺の弱運は幸運にも塵と化していた。


 怒髪天を衝く状態になっている看守長のタックルを最小限の動きで躱したヤズヤ君はそっから素早く看守長の腹に五発、そして蹴りを一発ぶち込みKO勝ちした。

 ごめん、ホントは全然見えなかった。気がついたらヤズヤ君は看守長の後ろに回り込んでいて、看守長はそのまま気絶した。

 俺はヤムチャの気持ちを嫌というほど味わった。


 そして、そんな気持ちの整理つかぬまま、ヤズヤ君は俺の方へと歩いてくると、


「おい、さっさと逃げるぞ」


 俺の前に手を差し出した。




「は?」


 突然の出来事に素っ頓狂な声をあげてしまったが、誰だって同じ反応するはずだ。

 素人目から見ても、その強さが伺える。

 そして昨日までとは打って変わったような高圧的な態度……うん? これは前からだったかもしれない。


 とにかく、今までの行動はすべて演技だったと思わせるほどのインパクトが、その一言に詰まっていた。


 逃げる? 一体どこに? そもそもさっきまでノープランだと言っていたのに、なんだその自信ありげな顔は!


「とにかく説明はあとだ。ややこしくなる前にとりあえず来いっ!」


 差し伸べられた手が、俺の腕を掴み引っ張る。

 引っ張られているものの、俺の意識は全く別の方にあった。


 作戦?


 なんの作戦? というか、素性もしれないこいつにやすやすとついて行っても大丈夫なのだろうか。


 その時俺はふと、転生したすぐあとのことを思い出したりした。





〇※〇※〇※〇※〇※〇※〇



「俺は世界最高峰の魔法使いにして世界最強の武闘家! さらに王様の孫で賢者の祖母がいるぅ!!」


 そう言って俺は窓から身を乗り出し、拳を天高く掲げる。

 その拳の先には、きっと、神様が居るだろうから。


 その神様に、ありったけの怨念が、届きますように!








 兎にも角にも、みっともない死に方をした引きこもりの俺が、なんでこんな王城の一室で眠っているのだろうか。

 ああそうか、神様に生き返らせてもらったんだった。それも特典付きで……


 ふふふっ……その特典とは――!!


 【攻撃力】9999(カンスト)

 【防御力】9999(カンスト)

 【素早さ】9999(カンスト)

 【賢さ】9999(カンスト)

 【HP】9999(カンスト)

 【MP】9999(カンスト)……エトセトラエトセトラ……


 つまり最強にして至高。至高にして最強な特典!! 



 がっ……!


 がっ………!


 だがっ…………!


※注意※ 運の良さに関しては当方は一切の責任を負いません。


 なんだこの注意書きはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

いつの間にかポケットに入れられていたこのカードに! 特典の内容と、この注意事項が添えられていた。つまり! 犯人はただ一人……あの神様しかいねえ。俺をこの世界に蘇らせたあの神しか……! けど、俺はあの人苦手だわぁ……無駄にテンション高いし。


 まあ、なにはともあれ、第二の人生スタートってわけだ! よーし、頑張るぞ――――!?


 第二の人生スタート宣言とともに持っていた紙を上に投げ飛ばす。そしてそれは偶然通りがかった強風によって、窓の外へと放り出された。


「か、紙が――!!」


 手を伸ばすものの、既に手遅れ。

その他人が目にすれば、痛々しさ全開の俺の特典取説はヒラヒラと宙を舞い、地面へと降り立った。


 取りに行かなくては。

直感的にそう思った。紙が無くなるのなら無くなるで構わないのだが、万が一拾われた時。大変なことになる。記述し忘れていたが、あの紙には、俺の特典、注意書き以外にも、もう一つ大事なことが書かれている。



 それは――名前だ。



 ただの取説だったら話は簡単だったのだが。名前付きとなると話が変わってくる。

 最悪の場合、あれを誰かに拾われてしまえば、いろんな意味で俺の名前が国中に広まるだろう。


 確かに。自意識過剰。一人相撲。完璧な杞憂の可能性も無くはない。そりゃあ人の噂も七十五日とも言うわけで、あの紙にそれほどのインパクトがあるとは考えにくい。ちょうど俺ぐらいの年頃だとそういうことを考える時期でもあるからな。


 しかし、俺はこの異世界転生を最っ高に最強な至高の物語にする予定なのだ! 突如現れた魔王を、王家の血を引いた勇者が倒しに行く。

これぞ俺の思い描いていた未来であり義務だ。これこそ俺が異世界に召喚された本当の理由なのだ! と、元の世界でイメージトレーニングをバッチリしてきたので、それなりに活躍して、それなりに英雄視されたい。てなもんである。


 故に、そんな勇者の過去に、英雄の昔話に、勇者は昔は引きこもりのコミュ障で、夜な夜な机に向かって妄想をぶつけていました。なんて言い伝えられたらどうする!? 


 もちろん、そんなくだらないところまで詳しく掘り下げられることは無いと思うが……不安要素は一つでも消しておきたいしな……それに――


「丁度、この体の強度を確かめようと思っていたところだ! はっはっはっはっはー!!」


 俺は取説が飛び出した窓から、体を空中に投げ出す。

 はたから見れば、飛び降り自殺にも見えなくはないだろうが、あいにくこの先にあるのは広大な森のみ! 絶対誰にも見つかるこたァねえ!



 

 ………………………………ん?




「親方! 空から人がー!!」


 どこのパズーさんですか!?





 結論から言うと、いや、結果論で言うと、窓から飛び降りるのは駄目だった。ダメとかだめではなく、駄目。

もう救いようもない完全無欠に駄目だった。


 落下ダメージは無に等しかったものの、その落ちた先は、傲慢にも王城に盗みを働きにきたんだとか。

 そして俺は運悪く。その盗人と出会ってしまった。運悪く。


「ちょ、待って待って! ぶつかったのは謝るからさ! 縄ほどいてくれよう!!」

「静かにしてろ! 人様の頭にぶつかっておいて、ただで済むと思うなよ!」


 怖い怖いーだれかーたすけてー!!


 一生懸命に縄を引きちぎろうとするも、一向にちぎれる気配がない。おいこの縄固すぎないか?


「暴れても無駄だぜ。それは世界一硬いと言われているオリハルコンを混ぜ合わせた最強高度の縄だからなぁ」

「アンタらただの泥棒だろ!? なんでこんなもん持ってきてるんだよ!」


 てかなんでそこら辺にいそうな普通の泥棒が、オリハルコンなんか持ってんだよ――


 そして俺は、泥棒の、「備えあれば憂いなしってな」という言葉を聞き終えると同時に深い眠りに誘われた。




〇※〇※〇※〇※〇※〇※〇




 自らの行動すべてが裏目になってしまう。俺の運の良さで、ヤズヤ君について行っても大丈夫なのだろうか。


 自分以外の誰かを、傷つけてしまうんじゃないか。


 この特典のデメリット……というか穴。俺の元の運が絶望的に悪い。ってことだと思うんだが、これがどんな条件で発動されるのか。俺自身がここでヤズヤ君について行くと決めた時、不幸なことが起こるのか。それか、どんな時でも、俺の周りでは不幸が起こるのか。

 どちらにしろ、俺の周りで不幸が起こるのだから、ヤズヤ君についていくことが得策と言えるのか……なんて、考えていても埒が明かない。もしやばくなったら、やばいことを考える。そうしよう。


 こうして、なんやかんや作戦とも言えないような陳腐なことを考えていると、気がつけば既に目的地らしい。

 連れてこられたのは、さっきの場所から少し離れた地点。看守長の部屋の前だった。


 脱走するよーと言われ連れてこられ、ここで何をするか、前世でのイメージトレーニングバッチリな俺は、すぐさまこの首輪を外す鍵を探しに来たのだと察した。

 この首輪は『魔法が使えなくなる』というシロモノだが、機能的には使用者の魔力を永遠に吸い取るというものらしい。つまり俺は、ここ一ヶ月ほど、この首輪に魔力を吸い取られていたわけだ。それなのに一切の疲労を感じなかったのは、この世界での魔力は体力とあまり関係がない――もしくは、俺の身体が魔力を失おうと関係ない戦士タイプだったか。前者であってほしいものの、魔法が使えないというのは寂しかったり悲しかったり……自称とはいえ、最高峰の魔法使いを名乗っているんだから、魔法はそれなりに使いこなしたい。


「あったぞ。ほら」


 そうして、完全に妄想の世界を闊歩していた俺を現実に引き戻したのは、ヤズヤ君の右手だった。

 その手には、スタンガンのようなアイテムが握られていた。

 これをどうしろというのか。


「コイツをここにつけて……こうだ」


 ヤズヤ君は俺の首輪にそのスタンガンみたいなものを当てると、スタンガンみたいなもののスイッチを入れる、するとスタンガンみたいなものから電流が流れ、首と首輪にダメージを与えた。

 首輪の方は機能を停止し外れ、俺の首は大ダメージを負い、寝違えたように首を動かそうとすると痛みが走った。

 このスタンガンみたいなもの初見だったから騙されそうになったが、俺は聞き逃さなかったぞ。

 スタンガンのようなもののスイッチを入れる時、ヤズヤ君が「やべ」と小声で呟いていたことを。





 こうして、俺たちはこの強制労働施設から脱出出来る! はずだった。



 もちろん、これで終わるなんて思ってもいなかったさ。もう一悶着ぐらいあってもいいからな。

 敵数およそ30!(適当)多分俺らの脱走に気づいた看守側の人間達だろう。武器とか防具とかつけてるけど大丈夫か? こっち生身に素手なんだが。




 さあまたもややってまいりました! 実況解説俺でお送りいたしたいと思います!


 ヤズヤ君を筆頭に、強制労働施設からの脱出を試みた我々ですが、出口残り数十メートルというところで看守たちに見つかり、ただいま大乱闘中でございます。

 強制労働施設ともあってか、ここに捕えられていた者達は皆筋肉質で、巨漢の男ばかりです!

 対する看守側は、奴隷側には劣るものの、それなりの肉体で挑んできました。こうなると力の差は僅かということになりますので、武器防具を装備した看守側が有利、ということになるのでしょうか?


 いや、一概にそうとも言えないようです! なんと、今回のダークホース、ヤズヤ選手が、迫り来る看守たちを一人、また一人となぎ倒していっています。

それに今回は、奴隷達も魔法解禁。ということなので、遠距離からの攻撃も飛び交っております。

 これはまさかの――奴隷側の圧勝かー!?


「ぐわぁぁぁ!!」


 おっと、どうしたことでしょう!? 後方から魔法でヒットアンドアウェイ戦法をしていた奴隷A選手が、何者かによって吹っ飛ばされ、戦場のど真ん中に落下いたしました!


 戦場が不穏な空気に包まれております。

そしてこの空気の創生者看守長が一歩、また一歩と歩を進めていきます。


 そしてその先には――ヤズヤ君だぁ!! 看守長、ここであの時の雪辱を果たしに来たーーー!! リベンジの時です!








 さあここまでを復習してみよう!


 脱出するぞー

 わかったー

 程度に簡単に出口まで辿り着いてしまった奴隷達だったが、既のところで看守達に見つかってしまう。そうして天下分け目の関ヶ原の戦いのように、奴隷VS看守の激しい戦いが始まった。俺? もちろん見学だよ。

 そして以外にも優勢な奴隷側! このまま決着――と思われたその時、倒されたはずの看守長がやってきた! 目的はただ一つ。あの時の雪辱を果たすこと!! 前回KO負けした看守長、頑張れ、看守長! ※あくまで個人の意見です。



   










 うわぁ、めっちゃ怒ってるよ。ゆでダコに磨きがかかってるよ。


 怒りの表情を向けたま、ヤズヤ君と看守長は向き合っている。

 きっとヤズヤ君も、看守長の狙いが自分だと感じているんだろう。だから二人とも、向き合ったまま動かない、いや、動けないんだ。なんでかは知らんが。あれだあれ、ガンマンの先に動いたらやられるパティーンのやつだ。こういう時は、敵がしびれを切らして突っ込む、もしくは自然現象で音が鳴る。

 試しにそこら辺の小石を落としてみよう。物理の法則に従い落下していく石。それが地面にたどり着く、ポトッというよりかはトサッというほどに静かな音が鳴る。そんな音でもあの二人には、開始の合図としては正常に機能した。音に反応した看守長。そんな看守長のコンマ0.1秒もの隙を見出し一瞬で距離を詰めるヤズヤ君。勝負あり。またもや一瞬で決まったのだった。


 こうなると、看守長が噛ませ犬っぽいというより、ヤズヤ君の場違い感のほうが大きい。あの速度に攻撃力、さっきの関ヶ原の戦いの時だって、物理と魔法を両方使いこなして戦っていた。

 やっぱりこんな1-1に存在していいようなキャラじゃないのでは?


 兎にも角にも、総勢百人程度の関ヶ原の戦いは幕を閉じた。結果は奴隷側の勝利。看守長に至っては、一度ならず二度刺される結果となってしまった。


 そう、これで終わり、俺たちは自由――と思っていた。


「待てゴラぁぁぁァ!!」


 負け犬の遠吠え、と思われていた看守長の怒号には誰にも耳を貸すことなかった。

 しかし、目だけは、全員しっかりと、看守長の方向を見ていた。


 看守長はどこから取り出したんだそれと言いたくなるほどの巨大な大砲。大砲というには近未来的すぎるソレが、何やらパワーを溜めているようだった。


「いくらてめぇでも、この高密度粒子破壊砲は耐えきれまい! てめぇら全員終わりだァ!」


 その巨大な銃口は全員をロックオンしているようで、今から逃げ切ることは不可能に感じた。

 それにその中二臭い名前も、今は恐怖しか感じない。高密度粒子破壊砲。名前から察するに、当たれば弾けるとか、燃えるとか、貫く、とかそんな次元じゃない。破壊される。分子レベルで。

 いくらなんでも――ヤズヤ君でもこの攻撃は無効化できない。いや、ヤズヤ君一人出来ても、結局誰も救われない。


 どうせ死ぬなら――!!


 間に合わないかもしれない。間に合っても意味ないかもしれない。


 それでも、一縷の望みがあるならば、それに向かって走る。

 

「これでぇ、終わりだッ――!!!」


 銃口が、恐ろしく輝いている、あー。間に合っちゃいそうだな。

 ここに来てちょっと震えてきた。全く俺はいつまでたってもヘタレだな。


 俺の目と鼻の先に、銃口がある。ゼロ距離なら、全弾俺に当たって、後ろのみんなには害が及ばないはず。


 震えが、二倍になる。


 恐怖からの震えと――武者震いだ。




 俺の体は高密度粒子破壊砲から放たれる光線全弾が命中し、意識が――――――








一日、と言わずとも三日ほどで完成させれました。嬉しい。



しかし、最初に考えていた強制労働施設脱出と大幅に変わってしまいました。なんていうか、ヤズヤ君はあそこまで強くなかったのになぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ