太陽が昇っている間の出来事3(ただひたすらに美しい人)
朱塗の橋を渡り、新芽や若葉を視界にいれながら、
昔と同じ駐車場の、昔と同じ停車位置にたどり着く。
車から降りれば、鳥の囀りすやすやと、四月の陽光も手伝って、
安らかな気持ちにもなるが、見上げれば黒い巨塔ってのがあるわけだ。
「ねむ・・・」
そう呟いて、紙袋を小脇に抱え、ブーツを引きずって歩く。
目をこすり、あくびをするという眠気を表すステレオタイプで石段を上っていると、
塔のエントランス前に半裸の女性の姿が見えた。僕はもう一度、文字通り目をこすった。
いる。確かに上半身裸の女性だ。こちらに気付いた。
・・物凄い美形、美型だ。皮膚、肉感、骨格が、
この距離から見ても完璧だと、僕の視神経が独断する。
聴覚のチューニングが狂い、風の音量だけが上がった。
彼女へ続く石段に横たわる空気が、発熱して花弁を溶かす。
一本のしだれ桜を背に、僕を見下ろして微笑む様は人外のようだ・・・
瞳の質感があの光彩ということは、睫毛の本数が非常に多く、
少しつり目だ。薄い桃色の乳頭が、長い黒髪で見え隠れしている。
・・・僕は逆に冷静になる。これは嘘だなと。
現実にあんな人間がいるわけがない。あいつが僕をからかうために見せてるのだ。
半勃ちすらしない。はっ、ざまあみろ。
そう思い彼女に近付くが、一向に彼女を幻であると認識できない。
会話できる程度まで近接しても、彼女はただひたすらに綺麗な人間だった。
陽だまりの中、肌は薄く絹のように白く、血管が乳房や腕の内側に碧く透けて見える。
左手首に巻かれた細い銀の腕輪よりも、銀色に光る少女だ。
下は黒の綿のズボンに緑色のビニールスリッパを履いていた。
「こんにちは。ドクターミヤタですね?」
どこの方言か知らないが、少しなまりのある声でそう言った。
声質は、少し鼻にかかった普通の女の子のそれだ。
「ええ、こんにちは、ドクターではありませんが、ミヤタです」
目を見据えると少し赤みがかかっていた。泣いていたのだろうか?
「ギネスがお待ちです」
「そうでしょうね、」痛いほどわかってます。
「あ、はじめまして。助手をしています。コンノと申します」
「ご丁寧に、どうも。彼は地下?」助手?
「最上階にて昼食を終えたところです」
ああ、あそこか。
「珍しいね」
「そうなのですか?」
「彼はあまり日光が好きじゃないでしょう」
「はい、光を落としたまま食事されます」
「意味ないよね、それ」
「在るべき場所の問題だと言っていました。地下は食事には適さないと」
昔と言ってること違うじゃねえか・・
「ご案内します。」
「あ、いいよいいよ、大丈夫」知ってる。
「ですが・・」
「案内しないと、君が困るかな?」
「はい。仕事をさせてください」
「では、お願いします」
「ありがとうございます」
安心した笑顔になって、どこから取り出したのか、
果実のような匂いを撒いて彼女は白衣を纏った。着るのか・・・
「?・・なんでしょうか?」
「いえ、なんでも」
意外なことに、美女はいたな。それも、規格外の・・・