4.豚鬼Ⅰ
「そっちだ嶺無!!何かが来る!」
目の前のオークを切り倒しながら、フードを被った彼女 ー ネオンは険しい顔で言った。
まさかこれほどの量の魔物の接近に気がつかないとは、、、
どうやら俺は気配を探るのは苦手のようだ。約5年もあの陰気なところにいたんだ。仕方がないだろ。まぁこんなの誤差の範囲だよね。なんの誤差だろか。
とはいえ気がついたらすでに魔物に囲まれている。もう一度アイスフィールドを使おうにも先ほど無駄に展開したせいで空気中のマナが薄い。
この感じだと大技はしばらくを無理そうだな。
少年 ー もといゴーレムとなった今、性別のなくなった俺 浦雨 嶺無は激しく動揺した。
**************
「僕は人間じゃないよ。」
スライム以外の魔物と接触する少し前のことだった。
どうやっても私に勝てないと思ったのか、じーっと俺を睨んで来るフード女。
俺からは敵意はないと伝えてもフード女は俺への警戒を解かなかった。
とはいえ先ほどの濃厚な殺気は感じられなくなっていた。
今なら話を聞いてくれそうだと、ここぞとばかり久々に見た生き物、それも超絶美人と会話するチャンスをゲットした俺は自分の弁明を始めた。
あわよくば彼女にはパートナーになってもらいたい!なんなら一生の!!などと下心満載の考えを胸の中に潜めながら、俺は話の続きを口にした。
「ほんとに違うって、ほら」
と、俺は体の一部をゴーレムに戻してみせた。
一瞬だけ眼を見張る彼女だったがすぐに睨み返して来る。
「 私を騙そうとしたって無駄よ!私が何年生きたと思っている。そんな幻覚を見せられても私が信じるとでも思ったか!それに仮にそれが本当だとしても、その色はありえない。あれはガーディアンの色だ。ガーディアンは青緑色のオリハルゴンで出来ている。青緑色のゴーレムなんてこの世に一つしかありえない!」
綺麗に三段論法で否定された。どうやら信じてもらえないようだ。さてどうすれば、、と思っていると、いい方法があったことを思い出す。
「なら確認しにいけばわかるんじゃないか?」
「何をだ?」
「先ほどあの洞窟の中にガーディアンがいると言っていたじゃないか?僕がそのガーディアンなのだが君はどうも信じてはくれないようだ。なら確認しにいけば良いのではないか?」
俺は彼女の返答を待たず、先ほど出たばかりの洞窟に向かって歩き出す。少しずつ距離を保って彼女が後ろをつけて来るのが感じ取れた。
しばらく洞窟の中を進んで、ガーディアンのいた部屋までついてしまった俺は彼女に振り向いた。
当然のことにガーディアンはいなくなっていた。
代わりに俺がゴーレムに変身すると
「ね?」
信じられないといった顔をする彼女。
「....ほんとにガーディアン..なの?それならばその硬さは頷けるが、ガーディアンに意思などないはず、それにあんな高度な魔法など使えるはずがないわ...」
ほんの少し口調が柔らかくなったフード女は独り言のように呟いた。
それを見て、私はニヤッと口元をつりあげた。
「嗚〜呼、何にも悪いことしてないのに切られた挙句悪人扱い、その上冤罪だと発覚しても謝罪の一つもないのかい。今時のハーフエルフはみんなそうなのか?だとしたら随分と...」
図星だったのか、激しく動揺するフード女。
ちょっと泣きそうになっているのを俺は見逃さなかった。
「ところで名前を教えてくれるかな?仲良くしてくれたら嬉しいかな」
少しの沈黙が流れ、
「ね、ネオンよ」
恥ずかしそうに彼女は言った。
「ネオン、ね、僕は浦雨 嶺無だ、レイムとでも呼んでくれ。」
少しオロオロし始めた様子の彼女、もといネオンは少し歯切れの悪い様子で聞いてきた。
「な、なぜわかった」
「何がだ。」
「なぜって、その、私が、その、、ハ、ハーフエルフって」
「やはりそうだったか」
本来精霊魔法というものはエルフにしか使えない。
なぜなら精霊は人を嫌うからだ。
が、目の前のネオンの周りには精霊が集まっている。本人はどうやら見えていないみたいだが、精霊魔法を扱う人から見れば一目瞭然であった。
彼女はおそらくまだ精霊魔法を扱える技量に達していないだろうが、エルフの特性上、精霊に好かれやすい。
それに加えネオンはエルフの特徴である尖った長い耳を持ち合わせていない。それらからなんとなくそうなんじゃないかと思っていただけだが、、
とはいえ、よくある展開ではハーフエルフは忌むべき存在であることが多い。
しかしそれもどうやらこの世界のハーフエルフは割と優遇されている。らしいと冥府の本で知った。
何と言っても戦えば強いし、見た目は美しい。
そんなことを思っていると
「ネオン後ろ!危ない!!」
大人2人を横に重ねたように太ったオークが隙を晒しているネオンに向けて棍棒を振り下ろしていた。
反射的にとっさにネオンの背後に空気の壁を作る。
ネオンが後ろに振り向くと同時に、棍棒で空気の壁を思いっきり振りかぶったオークは俺が作った空気壁と衝突し、弾かれる反動で大きく体勢を崩した。
流れるようにすかさずネオンが追撃を入れる。
1コンマにも満たない間、豆腐のように切り裂かれるオーク。
もしかしてだけど、ネオンって相当強かったのか。
いや、強いだろうな。なにせ単身でスライム達とこの魔物が溢れるこの大森林で暮らしているのだから。
今更周囲を警戒し始める俺とネオン。そして奇襲が失敗に終わったとばかり、一匹に止まらず次々と現れるオーク。
どんどん寄せてくるオークに危機感を覚えながら、ネオンを巻き込まないようにアイス・フィールドを発動させる。
今となっては俺の定番魔法となったアイスフィールドだが、一番使いやすいがぶっちゃけ一番燃費が悪かったりする。とはいえ広範囲にわたり効果が発揮されるため、目の届く範囲のオークは全てダウンさせることができた。
一息つこうとネオンに向かっていく私に
「そっちだ嶺無!!何かが来る!」
そうネオンは俺の左の方向を指差して叫んだのだった。