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lost summer  作者: 雪宮
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01

「最近若い世代に人気のインディーズバンド知ってるか?」


「ああ、ヴィネだっけ。」


 同僚の話に耳を傾ける。


「俺らの若い頃も同じ名前のバンドが流行ってたよな。」


「そのヴィネ、歌ってる曲が同じで今のヴィネが歌ってて昔のヴィネが歌ってない曲も曲の癖が同じだ。」


 言われなくても知ってる。


「でもメンバー違うんだろ?」


「ああ。昔のヴィネはヴォーカルの性別は不明だったがそれ以外のメンバーは男。今のがヴォーカルの性別が不明なのは一緒だけど他はみんな女。ヴォーカルの外見は似てるけど年取ってないってことはないだろうから別人。」


「血縁者....か。」


「篠崎も知ってるだろ?」


 突然話を振られる。


「ああ、よく知ってるさ。」


 よく知ってる。誰よりもよく、篠崎真はユーリのことを知っている。いや、知っていた。

 今どうしているかは知らない。過ぎ去った日々。真の青春。







 何故生きているのかどうして生まれてきたのか。誰でもいいから答えて欲しかった。

 あの頃は、ただ流されるままに生きていた。答えのない問いばかりが積み重なり、足場は不安定でいつ崩れるとも知らない。



 その日真は友人に誘われライブハウスへと来ていた。溢れる様な音の洪水と不協和音の中、彼はは彼女に恋をした。

 透き通る様なハイトーンボイス。どこの国の言葉だろう。英語ともフランス語とも違う。歌詞の内容は分からなかった。ただその悲しげな旋律と、魂の叫びの様な声の色にひどく惹かれた。

 長い髪に細い身体。あの華奢な体のどこから、そんな声を出しているのだろうか。周りの声なんて聞こえないくらい引き込まれた。

 曲が終わると彼女は微笑む。ふと、目があった様な気がした。



「初めましての方も2度目以降の方も、こんばんは。ネヴィアのヴォーカル、ユーリといいます。」


 歌っている時とは違う。安定感のあるアルト。少し掠れる様な声だった。


「メンバーの紹介をさせて頂きます。ギターのイサ。ベースの雅。ドラムのカイン。キーボードのハイブ。僕以外はみんなたまに違う楽器やってる時もあるけど今日はこんな感じ。」


「ユーリは声が楽器だからな。」



「イサはたまに変なこと言うから、気にしなくていいよ。」


 くすくすと笑うその姿に笑っていない目が印象的だ。


「今日の衣装はハイブが用意してくれたんだけど僕だけ女装です。最近女装多い気がするけど僕の性別はどっちでもないから女だなんて思わないでね。次は男装の予定だよ。」


「いや、当分ユーリは女装。」


「なんで?!」


「我らがリーダーの要望。」


「カイン?」


「男装するとお前ただのイケメンにしかなんねえから。つまんねえだろ。」


「というわけで僕はしばらく女装だそうです。もし男装バージョン気になる人いたら是非CDを買ってくれたら嬉しいな。って宣伝してみる。」


 自然と笑みがこぼれる。


「じゃあ二曲目歌います。聴いてください、ルナティック。」


 そう言うと一気に空気が変わる。半音の多い低音のメロディーが響き、心の奥底の不安を掻き立てる。





 たまにだけどね 狂気が僕を支配する

 それは決まって真夜中 眠れない夜


 声が聞こえる 助けてって 叫ぶ声

 それをかき消す様な ノイズが響く


 不安定な足場が崩れないか

 それが今の僕の一番の恐怖

 隠した本音が出てきちゃいそう

 落ちた拍子に仮面が壊れて


 真夜中の迷走 眠れない夜

 僕を支配する狂気 この声は届かない


 言い訳は誰に?

 ここには誰もいない


 隠して 隠して 隠して

 ほらこれで大丈夫

 仮面は沢山あるから


 でもその下は

 見ちゃダメだよ?


 隠さなきゃ

 隠れなきゃ


 たまにだけどね 狂気が僕を支配する

 それは決まって真夜中 眠れない夜


 無理がきたのかな 声が聞こえる

 無理なんてしてないよ 僕は答える




 そしてまた別に曲が始まり気づけば歌は終わっていた。

 友人のバンドの演奏が始まる。しかし耳には全く入っては来なかった。ただ、彼女の声だけがリフレインして耳から離れない。



「やべ...聴いてなかったって言ったら怒られる。」


 すべてのバンドの演奏が終わる。友人を待つためにその元へと向かう。楽屋にはいろいろな人たちがいた。


 ヴィネのユーリも。


「シン!俺たちの歌どうだった?」


 友人、眞田光也がこちらへと近づいてくる。


「悪い...聴いてなかった。」


「はぁ?なんでだよ。」


「ミツ、それよりも...。」


「あ、何?もしかして惚れちゃった?」


 クスクスと笑いながら光也は真の肩に腕を回し耳元へと顔を近づける。


「ヴィネのユーリ。年齢性別本名全部不明。でも多分俺らと年齢はさほど変わらない。今わかんのはそんなとこ。」


「さんきゅ。」


「んじゃ帰ろうぜ。打ち上げ参加してくっしょ?尊の家ですんだけど。」


 斎藤尊の家は広く、その上あまり親がいない。そのため集まるには一番適しているといえる。普段からもたむろする場所であった。


「行ってもいいならな?」


「ダメなわけないだろ、篠崎。」


 帰り支度を終えた光也のバンドメンバーがこちらへとやってくる。彼らは皆真も含め同じ高校の友人である。


「シノもそろそろ観念して歌おうぜ?」


 尊が言う。


「俺は聴いてるだけでいい。」


「そー?でも真の声好きだよ僕。」


 夏樹は相変わらず人懐っこい笑みの裏に食えない狐がいるようだ。腹の中で何を考えているのかわからない笑顔だと思う。


「俺は嫌いだからこの話はおしまい。打ち上げするんだろ?さっさと行こうぜ?」


 楽屋を出るとき後ろを振り向くと一瞬、ユーリと真の目が合う。1秒にも満たない程の一瞬であったが、長く感じた。すぐに光也たちに急かされライブハウスを後にする。


 外は真っ暗であった。当たり前だ。来たときからすでにもう夕方であったのだから。満天の星空。夏の澱んだ空気が頬を撫ぜる。


「もうすぐ夏休みだな。受験に就職に勉強三昧ってな。夏期講行きたくねえ...。」


「みんな進学先一緒だけど、学科違うしミツは医学部だから忙しいか。」


「でもバンド活動もお前らとつるむのもやめる気ねーよ?」



 くだらない馬鹿をやりながら星空の下、帰路につく。

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