【星の魔女編】 I 血は惹かれ合う
少年のアルファルドは座って考えていた。
祖父、厳密には祖父では無いのだが、彼の紹介で訪れる事になった場所に。
元々人とあまり接する機会の多い方では無かったが、これからは違う。人と関わり、自分で全てを解決していくのだ。
車内のアナウンスで顔を上げる。
透き通った青の海を通ってたどり着くのは、
セイリオス学園。
「早速迷うなんて…。」
倉庫置きのような場所で一人歩きながら呟いた。地図を開いて学園との距離を調べるが、途方もなく遠い。出口を間違ってしまったらしい。
「遅刻だなぁ、これ…。」
肩を落として足取り重く歩いていく。
長い倉庫の真ん中の辺りで、何かとぶつかった。
「うわっ!?」
アルファルドが慌てて前を見ると、キョトンとして少女が立っていた。
黒髪で白の上着にグレーのシャツ、黒のショートパンツと部屋にあったものを手に取っただけのような服の彼女にアルファルドは頭を下げた。
「ごめんなさい!前見てなくて!」
「あぁ、良いよ。私も半分寝て歩いてたし。」
少女は笑って言った。
「にしても、珍しいなぁここで人に会うなんて。ってあれ?その地図、新入生?」
「はい、そうです。でもこのままだと遅刻で…。」
アルファルドがそう言うと、彼女は続けた。
「あぁ、じゃあここまっすぐ歩けば全然間に合うから。すぐ着くよ。またどこかで会えると良いね、後輩くん。君に幸あれって事で、私はこれで。」
アルファルドの横を彼女がそう言って横切った時、突風が吹いた。
「っ!?」
目をつむって風が止むのを待つと、次に目に飛び込んできたのは大きな建物。
風組、兼中央棟。
前も後ろも新入生で溢れかえり、先程までいた倉庫など遥か遠くであった。
「助けてくれたの…かな。」
「では、新入生の諸君。説明する事はこれで全てだ。質問があれば、私の所まで来るように。寮の番号は外に掲示してある。」
褐色の肌に銀の髪の男がそう言うと、生徒たちは一斉に自分勝手に動き出した。この日は説明終わりで解散なのだ。
彼はアガム。実技教師で美しい顔立ちと強さに女生徒のファンが多いのだとか。
「まぁ、とりあえず番号は教室入る前に見たし、お昼でも食べよう。」
と、思い、静かそうな店に入ったアルファルドは後悔した。
「いらっしゃいませ〜!!ご注文お決まりですか〜?」
「あ、コレをお願いします。」
オーダーを受けて去っていく店員の頭を見て自分の頭を抱える。
ケットシー喫茶。
喫茶ではなくグリルレストランらしいのだが、店員全員がケットシー女性の飲食店はケットシー喫茶に分類されてしまう。
「もっと、普通にカウンター席で店長のおじさんと仲良くなり始められるような料理屋さんかと思ったのに…。」
このレストランの店長は男ではあるが、厨房に入りっきりで、加えてアルファルドが座っているのは厨房から一番離れた外のテラス席である。
悩んで少し経った時、店員が両手に載せて持ってきてくれた物は、片方がアルファルドの物だがもう片方は見覚えが無い。
「お待たせいたしました、ごゆっくりどうぞ!」
笑顔での店員にアルファルドは訊く。
「こっちは?」
店員がアルファルドの横の席に手を出して答えた。
「こちらのお客様のです。」
「はぁい。」
右を向くと、そこに座っていたのは、最初にあった少女だった。
「うわっ!」
「また会ったね、後輩くん。ちょっと前ぶり。」
彼女は笑顔で言いながら、自分の分を食べ始める。
「あ、あの、アルファルドです。」
「ノアよ。苗字は?」
ノアと名乗った少女の問いにアルファルドは難しい顔をした。
「私はノア、ノア・リーゼロッテよ。」
「え!?爺さんの知り合いの娘!?」
はっ、として口を開けたアルファルドにノアはニヤリとした。
「後輩くん。君の苗字はセイリオスな訳だ?私の苗字は大して今の時代意味を成してない。でも、現国王の苗字なら誰でも君の正体がわかる。それで言わなかったんだね。」
「はい、カイル・セイリオスは僕の祖父です。厳密には何世代と離れていますが、そうです。」
アルファルドの言葉にノアは嬉しそうに言う。
「運命だね!かつての師弟が先輩後輩なんて!凄い事じゃない!?これからよろしくね!」
「は、はぁ…。」
アルファルドは驚く。
そういえば、とノアは続けた。
「いきなりだけど後輩くん、部屋番いくつ?」
「37です。」
「寮ってどういうシステムかわかる?」
「えっと、ルームメイトの上級生と一緒だって…。」
「おーエライね!ちゃんとわかるんだね!でさ、ここ見てもらっていい?」
「はい…!?」
「何て書いてあるかわかる?」
「ノア・リーゼロッテ、寮番37。」
「運命だね?」
「おかしくないですかぁ!?」
あたふたするアルファルドに向かって実に落ち着いて、ノアは微笑んだ。
「これからよろしくね?後輩くん。」