【蒼の弓編】 III 急加速
戦闘訓練システム
スハイルが考案した訓練システム。
仮想拡張空間を魔法で作り出し、そこで絶対に死なない戦闘を行う。
一時間の戦闘時間中、及び空間内にあれば即死、又は死に至るレベルの攻撃を食らうと、治癒魔法により蘇生され一定時間戦闘に参加できなくなる。
荒野には数え切れない兵士達。
倒れる者は暫くすれば消えていく。
学園の施設による戦闘訓練だが、空気は本物のそれであり、血生臭く砂埃が舞う世界は力と戦略が全てを決めていた。
軍を率いて二つの勢力がぶつかる。
そこに一太刀。
「今日も快勝だったなお二人さん!次もあの調子で行きたいねぇ。」
トリムが姉弟に声をかける。
芽望姉弟である。
月組寮と風組寮兼中央棟の間のレストランで三人は話していた。日が沈みつつ少しずつ夜へと向かっている空は美しい。
店内は騒がしくなり始め、店員のケットシーの少女達が忙しなくカウンターと各テーブルを行き来していた。
「良いでしょ〜ここ。可愛い子が耳と尻尾振ってさぁ?」
「ま、まぁ…。」
トリムが豪快にグラスの中を流し込むのとは対象に宵は静かに料理を口に運んでいた。
陽嵐は疲れからかうたた寝をしているようだった。
既に学園生活が始まってから五ヶ月。
あと二週間で全組参加の対抗戦が始まる。
月組は総隊長率いる第一部隊と、宵の率いる第二以外はほぼ非戦闘員であり月組だけでの参加は難しい。
「どこと組むんだよ?お前、今回全権任されてるだろ?」
「いや、声が掛からなかったら風かなぁ。近いし。」
宵の返事にトリムは椅子の背もたれに身を寄せた。
「かぁ〜!これでも総隊長代理かぁ!?お前、ちゃーんとしてくれよ!風と組めば勝つこと間違いなしだろうに、騎士王様にノア先輩。二人もお前を欲しがってるはずだ。さっさと話つけろよ。」
「誰?それ。」
宵がキョトンとして言うと、トリムは手に握っていたフォークを落とす。
「はぁ…幸先不安すぎるぜ…。しゃーねぇ。お前にはもう一つの話だけしておくぜ。」
頷いた宵にトリムは続けた。
「なんか、火組に刀を使う魔法士がいるらしいんだけどよ、神無って名前、聞いたことある?」
その瞬間に宵はトリムの胸ぐらを掴んだ。
「神無兄さんの事を、どこで聞いた…!」
「オイオイ、熱くなんなって。ここいらじゃ有名だ。風組が結構被害もらってるからな。それと、明日。戦闘に参加するみたいだぜお前の兄ちゃん。風組と水組の戦闘が予定入ってんだろ?第三勢力としてお仲間と割って入るみたいだぜ。俺達もどうだ?」
組と組の戦闘にも、二十五人以内なら新たな勢力としと参加できる。カイル学園長の選抜隊、【星群】もこのシステムを使って生徒に立ちはだかっている。
「そんなの決まってる。イエスだ。」
宵は答えた。離れていた過去との因縁にようやく近づいたのだ。
少し時を進めて次の日、三人は荒野に立った。
「おい、誰もいねぇぞ。」
「帰りましょうよ宵、わざわざこんな所で魔力を使わなくたって良いじゃない。」
二人の声に耳を傾けずに、崖の下を進んでいく。
戦闘が始まって十分といったところ。
雄叫びが聞こえて良いはずである。
それなのに全く人影がないのである。
「おーいもうめったくた歩いたぜ?」
「めったくたってなんだよ…まぁしょうがないな。」
帰ろう。と、宵が口を開けた時、三人は殺気を感じ振り返る。
鎌。
片手で自在に振れるほど小さいが、宵達の顔がしっかりと写る程磨かれたソレは既に宵の目の前に飛んで来ていた。
しかし、三人が鎌をを打ち払おうする前に、金属音と共に空を舞っていた。
「あぁー!?なんで止めちまうんだよぉ神無ぁ!最後の三人くらい、俺にくれよぉ!」
鎌についていた鎖を引っ張りながら少女が言う。その後ろには三人。
そして、白髪の男が口を開く。
「既に半数が身勝手な行動でやられた。死なないという事象は人を弱くする、わかるだろう。それに、俺の知り合いだ。お前らは先に帰っていろ。俺が仕留める。」
「あいあい、わかったよぅ。」
少女と二人が消えると、男は宵を見る。
そして言った。
「よう。久し振りだな、宵。裏切り者の俺を殺しにここに来たのか?ご苦労なこった。」
「神無兄ちゃん…!」
to be continued …