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星の魔女 ~3 cornered ~   作者: 羅偽
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星剣編 Ⅰ 星の二振り

星剣。


魔器(デバイス)の技術を武器に転用、四次元的に武器を出し、それを魔器(デバイス)にしまうという技法を最初に確立したのはカペラ・リーゼロッテ。かつて星の魔女と呼ばれた者。


直ぐに一般公開され広がり、今の実用化に到っているが、確立した時からカペラの造り出した剣を収納している魔器(デバイス)は技術力が頭数個抜けていた。現代での武器を収納した魔器(デバイス)と同等以上の性能を誇り、まさしくオーバーテクノロジーである。

その秘密は、感情の増幅。

使い手の感情によってその力は際限なく増し、計算上では大軍を一振りで薙ぐという。


本数はプロトタイプを含めて合計七本。


最初に作ったのはプロトタイプを含んで三本。

今プロトタイプの所在はわかっていない。

最初の完成品の一本はカペラ本人が所持。愛用していたようだが、彼女の現在地は不明である。

三本目は愛娘、ノア・リーゼロッテに。

彼女のためにカペラは星剣をどこかへ隠した。

血は繋がっていないものの、養子として迎え入れられた彼女は、自身の治療も兼ねて覚醒者と共に眠りについた。

今は学園に彼女の存在を確認。星剣もそこにあるだろうという算段が的中。

彼女は掩蔽団と中央部の隊を行き来している。



そして、残りの四本。

星剣を探す上で一番厄介であるのがこの四本。

カペラの記述によると、剣は四方に飛ばしたとのこと。剣と使い手は惹かれ合い、近付けば万人に試す機会を与えるが、持ち主と認めなければ拒絶反応を起こす。

それでも剣を掴むものはその身を自らの魔力で裂かれる。

剣が持ち主を得たかどうかは、セイリオス学園の学園長が知る術を持っているようだが、位置まではわからない。


覚醒者と共に星剣を探すのが、カイル・セイリオスの役目である。





「どうしたの…!」

少女は声をかける。

傷ついた竜の体には黒い鎧。

血で赤い装飾がなされているが、彼から溢れる血は装飾すら流し押しやって黒を朱に変えようとしていた。

「私は良いのです…ノア、リーゼロッテ様…。あなたの【剣】を…ここに…。」

「動いたらいけない!死んでしまう…!」

少女は倒れ込む竜の騎士に自らの魔力を、治癒の魔法を送り込む。

「駄目です…剣に耐えうる魔力を残しておかなくては…アレは自身の求める物を写し試練を…これを…。」

竜は旗を渡す。紺に白文字で古い文字の旗。

「これは…剣、なの…?」

「はい…我らの…あなたの…カペラ・リーゼロッテ様の…残した…。」

竜はそう言って血を吐く。

「わ、わかった…わかったけど…!貴方をどうにかしなくては!私は名前も聞いてないのに…!」

魔力を送り込みながら少女は必死に竜の意識を留めようとする。

「良い…私は貴方を探し出す掩蔽団を裏切り、秘宝とも等しい星剣を持ち出したのだ…。間違っていると思っていた思想は…私が一番欲しがっていた物だったのです…。ならば私は貴方にこれを渡し謝る事…しか…ノア様…私の兄、アガムにお伝えください…すまなかったと…。」

「ダメッ!ダメぇッ!死んじゃ…裏切りもこの行いで清算されるのでしょう!?…なら、お兄さんと仲直りを…!私も貴方に惹かれて…目を、目を開けてぇぇぇえええ!!」

「ノア様、忘れないでください…。貴方はたった一人だ…掩蔽団の物ではない。勿論私の物でも。自分を信じて動くのです…。世界を、貴方の手で、剣で変えてください。」

竜の騎士が笑いながら逝く。

叫びは反響するだけ。


しばらくして、旗が空に浮く。

『適応者感知、旗を掴んでください。』

ノアに涙は無い。何気ない日々で語り合った彼は美しかったから。すれ違った時の、彼の強い輝きを。旗に感じたから、手に取る。

『使用者遺伝子、開封者遺伝子チェック。

使用者遺伝子、カペラ・リーゼロッテ。開封者遺伝子、ノア・リーゼロッテ。使用者変更手続、完了。適応確認に移行します。』

ノアはもう片方の手で彼の手を握る。

『適応確認開始。三、二、一、チェック。』

ノアの身体に何かが流れる。

それは、カペラの過去。

彼女が先程味わった出来事以上の苦痛。

「ぐっ!!」

親を殺され、侮辱される苦しみ。

しかし、ノアにとってそれはもう足枷ではない。

進むのだ。全てを振り切り、光として。

『適応率、八十六、八十九、九十二%。適応確認。個人登録、使用者確定。適応率調整。九十五、百%。剣の求める一定の【光】を確認。貴方と共にマスター。』


「アガスティア!」

騎士が少女の方へ走る。

目的は少女ではなく、既に息絶えた竜の騎士。

「君は…?」

騎士は竜に優しく手を置く少女を見る。

「私は、ノア・リーゼロッテ。」

「!!」

「あなたの…いえ、掩蔽団の…長。」









光が生まれて少しした後、荒野には一人歩く姿があった。



セイリオス学園の施設ではなく、本物の荒野。

ここで何人もの人間が血で血を洗った。

今は規則の無い間隔で、剣が刺さっているだけ。

触れるまでもなく、吐く息でそのまま朽ちてしまいそうな、錆びた剣。


その荒野の中央。急勾配を上がったところにある丘に、鎧姿で誰かが歩いていく。


全く錆びる事も、砂に当たり薄黄色の羽を被ることも無く、突き刺さる真っ白な剣。

「星剣…か…。」

呟く。

剣が輝いた。

『星の一族特有魔力確認。開封します。』

「近付いただけで…。」

鎧は剣を掴む。

『使用者遺伝子、開封者遺伝子検索。使用者遺伝子、なし。現在まで使用されていません。開封者遺伝子、一部にカペラ・リーゼロッテと同じ物を確認。他、該当無し。』

「随分と優秀な剣だ…。」

『適応検査に入ります。適応確認開始、三、二、一…チェック。』

「…。」

『適応率、二十一、二十五、十八%。』

「ぐッ…!」

鎧は剣から流れる苦痛に顔を歪ませる。

『十九、二十三、十四%、これ以上は危険と判断。あと二十秒で拒絶反応開始。』

「カペラは…本当に嫌いのようだ…。」

『拒絶反応開始。適応率計測は生命活動停止まで続行します。』

「がッ!?…あぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!??????」

黒い煙と共に鎧の両手に激痛。

そして、苦痛な過去。

「ノアは本当に可愛いわ。あなたと違って。」

この一言が鎧の騎士をいつも動かしてきた。

『適応率、上昇なし。拒絶反応、計測続行。』

「…ノア、カペラ、リーゼロッテッ!お前達を…お前達を私はぁッ!絶対…にぃ…後悔させてみせる…!待っていろ…この…この覚悟、だけはっ…!」

純白の剣が煙と同じ黒に変わっていく。

『適応率、僅かに上昇を確認。三十二、三十五…剣本体と魔器(デバイス)の性質変化を確…認…。』

「お前達の…光を…呑み込んでっ…!」

『四十%…適応…確認。個人…登録、使用者確定…。適応率…調整…。百%。剣の求める一定の【覚悟】を確認。あなたと共に、マスター。』

「はぁ…はぁ…。さて。」

騎士は立ち上がり、丘を下りる。

「綺麗な星空…。」

そう呟いて、影に消える。


















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