蒼の弓編Ⅱ 蜜蜂
荒野に倒れる仲間達、橙の空を見る戦友に刺さる剣。
ダメだ。
こんなことでは…彼には…。
そう思う自らにも、刺さる剣。
宵、弱くなったな。
何度も追いかけた自分に落胆の言葉を投げる彼。
その後ろから黒い騎士が…
「ー…宵…!宵!」
「んん…?何?…」
夢か…と宵は呟く。
姉の陽嵐に起こされ前を向く。
授業中に教師が使う為のボードには紙が貼られている。
「次の実技は外でやるんだとさ!やったな宵!」
トリムが笑う。
一昨日の一戦で宵の所属する月組の第二隊は隊長が退職。後任が宵となり彼の腕に憧れた新入生で第二、その他の隊共に人数も埋まって来ている。
第一隊長からは感謝の言葉や大量の学園内の通貨を貰い、新しい生活は順調な滑り出しだった。
ちなみにトリムは第二隊の一人である。
「いや…今日は休むよ…。」
宵の言葉にトリムが金髪を振り乱して言う。
「何でだよ!?スハイル先生の授業だぜ!?あの元国王だぞ!?」
「でもその人それまでの経歴謎だし、その時の王女のエルナトって人の独断なんでしょ?」
「お、おう…。」
トリムを気にせず宵は続ける。
「それに、剣とかが得意とも聞かないしそもそも何百年も生きてるなら体が鈍ったりとか…」
宵は異変に気付く。
頭に手を置かれている。
「ほぅ…?そこまでコケにするほど俺の授業は嫌か、期待の新入生。」
青いスーツの男。
スハイル元国王その人である。
「貴方が…元国王。」
「おうさ、武の名門の芽望家には俺の功績は届いていないみたいだな?」
スハイルは怒る様子もなく笑って言った。
「ま、良いぜホントにサボれる実力か見てやるよ。闘技場系の訓練施設借りるか…。」
そう言いながら何かの端末を操作する。
「あなたに見せる物などなにも!…」
「まあまあ、そう言うなって。トリム君、お前ら最初の一マスは自習だ。各自自己紹介しながら得意な魔法でも言い合ってろ!って伝えてもらえるかな。」
「はい…。」
トリムは頷くと教室を出て走る。
「さあて、行くぞ芽望 宵君。」
闘技場には二人だけ。
スハイルと宵。
スハイルが持ったのはメイス。
小さいハンマーのような物である。
「一応、この学園での実技授業に今ある訓練施設の新しい風を吹かせたのは俺だ。お前も本気を出せよ、ちゃんとな。」
「えぇ…。」
宵は二色の光を手に走らせる。
剣のように構える。
真剣な顔をするが、スハイルは落胆する。
「オイオイ…頼むから本気で来てくれよ、いくら治るからったって授業で怪我したらアブねぇだろ?それとも本当に俺にはそれで充分だと思ってんのか?…まぁ良いけどよ。」
(来る…!)
宵がそう思ったのとほぼ同時に離れていたスハイルが目の前に、そしてメイスが顔の横に。
「ぐっ!?…」
体を反らしてかわす。
(速い!)
赤い光剣を投げ、後ろに大きく退く。
赤い光が爆発する。
爆炎の後、煙からスハイルが出でる。
「へぇ、そういうことも出来るのな。でもよ、俺は本気出せって言ったんぜ?」
「なら!…」
赤をもう一度手に走らせ、掴み振るう。
休みなど与えず青も交え手数で攻める。
右、左、左払い、右突き。
しかし、スハイルは簡単に避けて見せる。
そしてメイスを振るって反撃…はさせなかった。
しゃがみながら赤を上に投げる。
「…!」
爆発。
宵もダメージを食らう程の至近距離である。
しかし
「ほう…青い方は氷か。氷で自分一人用のドームを作って防ぐ、頭良いんだねェ。」
砕ける小さいドームから出ながら宵はスハイルを睨む。
「おぉ怖。まぁこの速さじゃダメなのはわかった。仕方ねぇから一つ上げるか。」
(一つ上げる…?)
「…ッ !」
宵は真横にあるメイスを光剣で止めた。
筈だった。
光が、砕けているのである。
メイスによって。
メイスの一撃で光がガラスの様にひしゃげ割れている。
ギリギリ頭を下げ避ける。
が、腹部に衝撃。
スハイルの膝である。
そのまま上に放られる。
「これならッ!…」
左手のボウを開き光を三発射出。
しかし、それもスハイルの前では意味がない。
着弾時に爆発するように設定したが、全て着弾時には砕かれ打ち飛ばされた場所で爆発した。
「俺のメイスは魔法を無力化する。お前の矢も、剣も俺が天敵だ。」
(アレを出すか…?それとも…!)
「オイ、もうこの状況を何とかしようと思うな。」
「え?…」
スハイルを宵は見る。
「お前が最後まで弓を出さなかったのは褒めてやるけどよ、奥義でも俺を倒せるかはわからねぇぞ。」
「っ!!」
「だからな、奥義とか使う前に俺を倒すために授業に出やがれ。わかったか?」
スハイルの言葉に宵は黙る。
「お?…そんなに不満かよ。」
「いえ…わかりました…。俺のアレを知っているなら目的も知っている筈ですから…。」
宵の重い口からの妥協に、スハイルは笑う。
「オイオイ、負けず嫌いだな。別に俺に勝った事にしたって良いんだぜ?負けた俺が頼むから受けてくれって言われて仕方なくーとかでも。」
(この人…苦手だ…。)
この後、次の月組新一年の実技授業では皆楽しくレクリエーションをしたとか。
To be continued