【学祭】編 Ⅱ 邂逅と、押しつけ。
星群、掩蔽団同時演習中。
「やはり、ノア様が敵だと安心できんな…。」
バーリスが言う。
「確かにそうですが…騎士王もいます。守備隊のスペックは同等。奇襲さえ凌げば、勝てますよ。」
ゴーウェンが笑って言う。
「多分、今回奇襲はないかな。ノアは正面から来るよ。堂々としていよう、皆。」
アルファルドはそう言うと、剣を大地に突き立てる。
「さぁて、皆!この調子で星群ぶっ飛ばすわよー!」
「ノアよ、些か落ち着きに欠けるぞ…。」
ノアは銀髪の鎧騎士、アガムに注意される。
アガムは女生徒に人気の教師、しかし実態は掩蔽団団長。汚れ仕事を請け負う者達を引き連れる剣士。
「確かに落ち着かないかもしれぬが、それもまたノア殿の良さでもあるのだ!確かに吹き飛ばすくらいの気持ちで行かなくては、星群に押し負けるぞぉ!皆ぁ!」
大柄のタウラーン守備隊長は暑苦しく、大声で兵を鼓舞する。闇の覚醒者、セケルを頭に乗せて。
「それは良いですが…作戦通りにお願いします。」
指揮を今回取っている女騎士が言った。
「はぁ…この人達はいつも通りだなぁ…お偉いなんだから後ろにいても文句言わねぇのに、相手の諜報部隊もさらっと倒しちまうし。」
槍を持った騎士、ガヴェウンが言う。
利害の一致だけで編成されている掩蔽団の仲を繋ぎ止めているのはアガムとタウラーン、そして、それを知らぬノア。少し歪で、しかし、成り立っているこの組織を見て、少し違和感をここにいる全員が覚えるのだった。
「全員…止まれ…。」
アガムが言った。
八人ほどの集団が現れる。
「貴様達は?」
アガムが問う。
「私は、掩蔽団と、ノア・リーゼロッテ、そして君に用がある。アガム。」
一番前の鎧騎士が言う。
顔はヘルムで見えない。
「どうやってここに?」
「学園長の手引きだ。」
光が集団へ向かう。
ノアの星剣の光だ。
「話し合う気がないのなら、もう少し待っていてくれ。」
騎士はそう言った。
攻撃を受けたはずなのに、傷一つ付いていない鎧で。
「…!」
「アガム、カノープスが呼んでいる。掩蔽団とは関係なく私と来ていただきたい、そして掩蔽団よ、ノア・リーゼロッテと交換で私達を掩蔽団に迎え入れてはくれないだろうか?」
「勝手に話を進めないでっ!」
そう言ってノアが斬りかかろうとした時、ノアの身体が思い切り横に吹っ飛ぶ。
鎧騎士の蹴りだ。
そのまま吹き飛ぶノアを追いかけて行く。
「では、あちらはあちらで話をつけるとして、こちらは私が担当させていただく。」
大剣を背に担ぐ剣士が前に出る。
「お前…ブランド・ゼバスティアンか…。生徒が何を…」
アガムが言うと、ブランドは続けた。低い、恨みのこもったような声で。
「そういう問題ではありません、あなた方はカペラ・リーゼロッテの悪行の暴露に妨げになる可能性があるので、交渉をしに来た次第なのです。」
「話が見えん…どういう事だ。」
「この世界において殺人は?」
「一人につき、五十年以上の懲役。しかし、減刑の余地も…」
「ある訳がありません。彼女は五人も、殺しているのですからね。仮にあったとしても、微々たる物だ。」
ブランドの言葉に、全員が硬直する。
「なら、どうやって罪を暴く…?」
「自白させるのです。もしそれでも吐かなければ…殺します。」
「待て、訳がわからん…証拠のない殺人犯を自白させて失敗したら自分達が殺人犯を殺す!?…それではお前達がただ罪人になってしまうではないか…どうなっている、訳がわからないぞ!それにカペラ殿は…」
タウラーンの叫びをブランドは否定する。
「いえ、証拠は出揃いました。既に一部の要人には話がついています。しかし、カペラ・リーゼロッテは既に常人の手に及ばない竜へと昇華した。ですので、我々が、カペラの拘束、もしくは殺害を託されました。現魔法協会にね。」
「そんな…お前達数人に、託すだと…?信じられる訳がない…。お前達が現魔法協会…カイル・セイリオス学園長と同等以上だと…お前の腕は認めるが、現魔法協会に託される程とは思えん…。」
「面倒くさい奴だなぁコイツ。」
横の少女が声を出す。
「ま、マルカ…先輩…。」
掩蔽団の女騎士が声を上げてしまう。
星群候補とされた天才軍師、マルカ。不登校児が今ここにいるのだ。
「あ?お前…誰だっけ?ま良いわ。アガム先生よぉ、アンタ学園長に会いに行けんだろ?後で確認しろよ、信じられるかはともかくさ。取り敢えずこっちは交渉してぇのよ。取り敢えず、黙認して欲しいわけ。カペラ・リーゼロッテをどうするかをね。んで、その後は掩蔽団に入れて欲しいの。どう?ノア・リーゼロッテと八人分の有力兵士の交換。んで、あんたはカノープスに会いに一緒に来てよ。」
「…しかしなぜノア・リーゼロッテを掩蔽団から遠ざける?そしてこちらのメリットは八人の兵士だけか…?」
その言葉にマルカは言う。
「八人だけでホントにメリットが少ないかどうかは、今度の学祭で分かる、お前らを倒して見せつける。んで、遠ざけるのはウチの大将の慈悲というか、なんというか…。」
「ぐっ…!」
星剣を構える。
「良い剣だな…。カペラからの贈り物か?」
剣を振るう。ノアは剣を受け止め、斬り返す。
「遅いな…とても…。」
鎧騎士はそう言って肩から腰にかけて、ノアの身体に剣を走らせる。
「…ぐっ!?」
「まさか…剣を食らった事がないのか…!?生まれてから一度も…?随分と甘やかされて育ったな、ノア・リーゼロッテ!掩蔽団にいるべきではないな…!」
「あなたは…何をしにここへ…!」
「一つだ!お前の母親を殺すッ!」
そう言ってノアを蹴る。
「ぐっ…そんな事させない!」
「五人もの人間を自らの為に殺したのだ…この世にいてはならぬ…。」
「そ、そんな…殺させない…!たとえ真実でも!ママはッ!」
星剣を振るう。
「星の息吹よ!輝け!」
光が騎士へ向かう。
「…。」
騎士は剣をかざす。
それは先程までの銀の剣では無く、真っ黒な剣。
「(星剣…!?)」
「…光を飲み込め。」
黒い風が、光を飲み込み、ノアに当たると、魔力に焼かれ、吹き飛ばされる。
騎士がノアの近くに行き、そして、蹴り飛ばす。
仰向けにノアが倒れると、星剣を持ったノアの腕に鎧騎士の足が乗る。
「がっ!…」
「ノア・リーゼロッテ…私の顔を見るのだ。」
そう言って鎧騎士はヘルムを取る。
美しい長髪、整った顔、そしてケットシーの耳。
「私は、アンナ・リーゼロッテ。お前の妹で、お前の慕う母親、カペラ・リーゼロッテの実の娘だ…。」
「あ…あなた…。」
「ふん…状況が飲み込めないか…?」
剣を踏んでいない方のノアの腕に突き刺す。
「ぐっ…あっ!…あなたは…あの時…屋敷に…売られて…」
「ッ!?」
アンナは混乱する。
「あの後…あなたは…。」
「喋るなッ!」
ノアの腹部を思い切り蹴る。
「げふっ!…」
「あの時見ていたのは貴様かッ!母親とも呼べぬ売女に父親を殺され…今度はお前に見下されていたとはッ…!反吐が出るわッ!…」
「あぁ、アンナ…綺麗な名前…。」
「!!??」
ノアの言葉にアンナは驚く。
「アンナ…生きていてくれて…良かった…たとえ、今までが地獄だったとしても…あなたが…生きていてくれて…。例え…あなたの、私の母親が酷い事をあなたにしても…生きていて…くれたのね…。」
「な、何を…奴のお前への愛で私はッ!」
「そう、なの…。でも、私は、あなたが生きていてくれて、嬉しかった…あの時のあなたは何も悪くなくて…それで…」
「もういい…。」
「え…?」
アンナはノアから剣と脚を退ける。
「お前には戦意が湧かん。二度とその話をするな。やはり、お前は掩蔽団などという汚れ仕事は似合わん。私と代われ。」
「嫌よ。」
アンナは驚く。
「なんだと?」
「あなたにも似合わないわ。そんな事しなくても良いじゃない。ママをどうにかするのも、絶対させない。」
「ふざけるなよ…大して腕も立たない癖に…そんなボロボロで…まだ勝つ希望があると?猶予をやる。学園祭の対抗戦だ。その時にお前を倒す。お前とお前の軍を倒す。そうすれば、お前の母親は現れる。目の前でお前の母親を葬ってやる。今強気なお前はその時、泣き叫ぶ事になるぞ。」
「でも、私が勝つ。しっかりと準備と作戦会議をした私達はたとえあなた達が相手でも絶対に引かない!」
アンナがノアを睨み、剣を向ける。
「後悔するなよ…私が今お前を斬らないのは、いつでもお前を斬れるからだ…絶対に負けはしない。毎晩怯えるのだな、ノア・リーゼロッテ。今期学園祭対抗戦、火組総括…アンナ・リーゼロッテと英傑が貴様達の相手だ。」
二人が元いた場所に戻ると、話はついていた。
「アンナ様…既に交渉は終わりました。アガムは我々と共に来ます。」
「そうか…良くやったブランド。」
傷一つないアンナに、今にも倒れそうなノア。
「ノア殿!」
「だ、大丈夫よタウラーン…アガムは向こうに取られちゃったの?」
「えぇ、…士気も下がっております。」
「どうしてだよアガム団長!こんな奴らの話なんて信じるだけ無駄だ!」
ガヴェウンの言葉にアガムはアンナ側に行く脚を止め振り返って言う。
「私にも私の運命が、消せない血筋が、やりたい事があるのだ。お前達も、悔いのないように選べ。今回の学園祭…風か、火を選ぶのかをな…。」
そう言い終わり向こう側へ行くと、全員が闇へと消える。
「どうしますか…ノア殿。」
「とりあえず…星群の皆にこの事を伝えましょう…今年の学祭は本当に厄介よ…。」
To be continued




