蒼の弓編 Ⅰ ファーストステップ
みんなあけおめ! 作者だぞっ!
蒼い弓編は比較的魔法と日常、戦闘の描写が程よく書かれています。
「おぉ…広い…!」
学園に訪れた少年が一人。
芽望 宵。
17歳。
膝まで長いトップスにズボン。
シンプルで白い服が黒髪を引き立てる。
若くして一応ではあるが武の名門、芽望家当主である。
「随分とヤル気じゃん?」
似た顔の少女が話しかける。
双子の姉の陽嵐である。
こちらは特に芽望家の重役ではない。
「やっぱり宵の楽しみにしてるのって、訓練装置?だよね。」
セイリオス学園は多くの学習施設を有しているが、その一つに訓練装置がある。
戦闘のシュミレーションをするための物だ。
一対一用の物もあれば、軍に及ぶほどの大人数同士で使うものもある。
宵はこれを使いに使いまわし、修練を重ねるつもりなのだ。
彼の物語が始まる。
「俺達は月組…らしいね陽嵐姉さん。なんか、幼稚園みたいだなぁ。他は火とか水とかなのに…」
「文句言わないの。ってあれ?志願兵面接じゃない?行きなさいよ。」
入学の説明会を終え、寮に行こうとしていた時。
陽嵐が宵の目的の為の第一歩となる隊の志願面接会場を見つけた。
大人数で訓練装置を使う場合、数が限られているため一から四学年の同じ組の勢力が一つの集まりとなって他の勢力とぶつかり合うのだ。それに参加するための隊に志願する為の場所を見つけた。
確か各隊の隊長が面接をし、傘下か新たな隊かを決めると聞いていた。
活気の溢れる場所かと思っていたが、少し宵の思っていたものとは違っていた。
「おい!何だ貴様は、そんなチンケな装備でウチに来るだとぉ?ふざけるのもいい加減にしろ!帰れ!」
鎧の男が、入り口の前で新入生を払っている。
「感じ悪いわね…。」
陽嵐が声に出す。宵も同じ心境である。
「良いよ…俺が止めさせてくる。」
そういってまた一人、また一人と門前払いをされる新入生をかき分け、男に声をかける。
「ちょっと!さすがに酷いんじゃ無いですか?」
「あぁ?…何だ?お前も志願者か?…コイツらの装備がウチの隊にいらんと言う事の何がいけないと言うのだ!」
男は怒鳴った。
「その態度がダメなんです…。」
「何…?」
「実力も見ていないのに門前払いだなんて、絶対間違ってる。」
宵の咎めに、男は笑う。
「フフン…なら、俺と決闘だ。青二才。俺は第二隊隊長。つまりは前線で何度も戦ってきた訳だ。俺に勝ったのなら新入生の志願者は全員会場に入れてやるとも。」
「そう来なくちゃ…。」
訓練施設 闘技場。
「さぁて、新入生大多数に見られての勝負だが容赦はしないぞ?…」
「あなたこそ…恥をかくことになるかもしれませんよ…。」
観客席は歓声ではなく、ヒソヒソと何かを話し合う声しか聞こえない。
「そういえばお前は剣士か?…それとも魔法主体か…?」
そう言いながら男は小さなソフトボール大の球形機械を出す。
現代の魔法技術は軽量化等多岐に応用されているがやはり代名詞はこの魔器。
鎧や武器などの魔具と呼ばれる物から、魔法陣を折り畳んであるものまで様々。物を転移して持ってきたり、一々その場で魔法を使わずとも保存して何度も使えるのが利点である。
男の魔器からは剣が現れる。
宵も魔器を展開。
両腕に装備が付く。
しかし、宵は手に赤と青の光を走らせるとそれを掴んだ。
「んん…?何だ、コアな棒振り芸でも始めようというのか?」
男は笑う。
《決闘、開始です。》
アナウンスが聞こえる。
訓練施設のシステムの一つだ。
ビィーッ!
と、いう合図と同時に宵が飛び出す。
二本の光の内、右手の青を振り下ろす。
三十センチ程のそれは男が受け止めようとした剣とぶつかり、バチバチと音をたてる。
「ほう…光剣というわけか…。だが!」
「…!」
回転しながら上に宵は飛び越える。
その下を男の剣が過ぎる。
「小賢しい…!」
突き、フェイントも含めた横凪ぎを光剣で宵はいなす。それどころか、手数と素早さによって相手の剣筋をコントロールしている。
「おぉっ!すげぇ!」
客席の、陽嵐の隣の男が声を上げた。
「あれ、アンタのツレだろ?てか双子?どっちが上?あ、俺トリム、よろしくな。」
「私が姉よ。…宵は剣技はかなり出来る方なの…それに…。」
陽嵐は言葉を止める。
「ぐっ!…」
男は思いきり後ろに距離をとった。
宵は追い掛けようとしない。
男は手をかざして詠唱を始める。
「フフフ…止めないのか…?」
「ええ…。」
男は顔を崩しながら大声で言った。
「お前…!バカにも程がある!…お前のそんな装備で魔法を耐えるつもりか…?無理だ…無理だよォ!とびきりのをくれてやるぜ!」
「オイ、オイってば!アンタの弟ピンチじゃねぇのか!?あれ、防げるやつは数えられるくらいしかいないって聞くぜ!?」
「なら、宵はその内の一人に仲間入りね…。」
陽嵐がトリムの言葉にうるさそうに返す。
「いやいや、いくら剣が出来ても魔法をあれで叩っ斬るのは…。」
トリムの言葉に陽嵐は割って入った。
「宵が一番得意なのは、剣じゃないわ。あの子が一番得意なのは…」
宵は左腕を前に出す。
右の青をどこかへ放り投げ、左の赤を右手に持ち左腕についた装備をいじる。
ガコン!と金属音、衝突音と共に装備が正体を顕し、男を驚かせる。
ボウ。弩と呼ばれる弓の一種である。
矢の代わりに右手の赤を…いや、右手の赤は、青の方も最初から矢であったのだ。
矢を通し、男に構える。
丁度男も氷の魔法を詠唱し終え、氷の槍を宵へ撃ち放っていた。
「き、弓兵ごときに俺の魔法が止められるものか…!死ねぇ!」
宵は男の叫びにため息をつき、言った。
「学園のシステムじゃすぐ生き返るのに…。まったく、剣士なのに…自分から距離を取るなんて。」
弦を放つ。
赤の光が槍を穿ち、そのまま男へ。
革命の一矢が射られた。
To be continued