【凶星】編 II 聞きたくもない責任感
私はノア。
ノア・リーゼロッテ。
小さい頃に無茶をしたらしくて、私は身体に重症を負い、数百年間眠ったままだった。
その時のおかげで、私は思い通りに魔法が使える。
それだけじゃなく、お母さんの厚意で星剣という武器まで。
今は後輩のアルファルド君とか、星群の仲間とか、掩蔽団の仲間とかがいるから楽しいけれど。それでも、寝ていた時のことは覚えている。
星剣の輝きを見るたび思い出す。私の影の部分。
暗い中で、人が魔法を使うのをひたすら見せられる感覚。
外に、出たかった。
でも、その中で不思議な体験をした。
始めて、魔法を使うまでの過程を見た。
ケットシーの女の子が、街を駆けていた。
何があったのか、すごく怖がっていた。
「おかーさん…どうして…なんで…!」
泣いては、いなかったと思う。
それ程までに、凄惨な事が起きていたのだろうか。
少しして、誰かに捕まった。
知り合いではなかったと思う。
顔を見ていて更に抵抗を強めていた。
ケットシー、という種族はこの頃少しずつ世間に浸透していっていて、人と思っていない人間がいてもしょうがなかったのかもしれない。
そのままその子は、どこかへ運ばれて行く。
止めたい。
そう思ったけど、私は眠ったままで、そこまで行けるはず無かった。
行ったとしても、なにができただろう。
しばらくどこかで、召使いのような生活を彼女は送った。勉強や、料理などをして、生き生きしていたが、主人の彼女を性的に見る目には気付いていた様だった。毎回、声をかけられる度に嫌なのを隠して笑っていた。
たまに、私と目が合うような気がした。
早くこんな悪夢から解放されたかった。
そして、少し成長した頃、多分、女の子を買った男の人に乱暴をされようという所で、魔法は唱えられた。一部始終を見ていたから、鮮明に残っているが、言いたくない。
無意識に、女の子が唱えた魔法。
それは、嫌。という一言。
でも、魔法はとても強力な物。
どこかで見た魔法の威力を知らないで唱えた様だった。
男も、女の子も、お互い何が起きたか理解していなかったと思う。
簡単に言うと、男の身体が二つになって、どんどん細くなっていった。
そのあとは、女の子は自分で何をしたかわかったようだった。
始めて、その子の涙を見た。
そして、驚く事に彼女は私を見ていったのだ。
「どうして…ずっと助けてくれなかったの?」
何も出来ないのだから、しょうがないと思った。それでも、
「なんで!どうしていつも助けてくれないの!?見ているばかりで!…あなたは、私をずっと見て何が楽しいの?…悪夢が覚めてほしい?…それは私が言いたいの!なんでこんな悪夢を見なくてはいけないの…お母さんとお父さんがいる孤島に戻してよ!どうして!?あなたはそこでなにもしてくれない…あぁ、私は人を殺してしまった…もう、おしまいだわ。」
孤島、という言葉に私は引っかかった。
お母さんが、私を眠らせた後は孤島に住むと言っていたから。
カペラ・リーゼロッテが。
「私は、眠っていて、助けられないの…!」
そう、振り絞って言った。声は届いたのか、彼女は、
「そう…幸せね。あなたにとっては夢。私にとっては悪夢という現実!」
胸が苦しかった。
閉まっていた扉から沢山の人が出てきて、女の子の顔は絶望に変わった。
投獄する。と聞こえた。
彼女の表情には絶望という言葉がとても正しかった。
間違って強力な魔法で殺してしまったのは罪かもしれない。しかし、本当に乱暴をただ受け入れる事が正解だったのだろうか。
今ではその男が大罪人。
しかし、その時は彼女が大罪人。
奴隷が主人を惨殺したから。
でも、そこで彼女とのリンクは切られた。
また、魔法が使われる瞬間へと飛ばされ、また次へ。
彼女がどうなったかは、わからない。
調べると、主人を殺した奴隷、召使いの大罪人は一人。名前は記録にない。
時間操作のされた牢獄に今も監禁されているかもしれない。という事だった。
時間操作のされた牢獄は残虐さから根絶された筈だが、彼女のは未だどこにあるかわからないのだという。
何百年も前だからなのか、場所を知っている者は既におらず、大きな牢獄のある地域を調べてもそのような場所は見つからなかったらしい。もしかしたら既に牢は壊され自由の身になっているかもしれない。
彼女がどこにいるのか、それを突き止め、謝罪する義務が私にはある気がする。
「ノアよ。」
黒い鎧の男が話しかける。
「なあにアガム。」
「我々の守備隊に覚醒者なる者がいるのは知っているな。」
「えぇ、あと一応私もなんだけど。」
「その騎士が同類を見つけた、と。既に向かっている。コロシアムだ。合流するといい。」
ノアは頷き、訓練場の荒野から大きなホールへ戻る。
闘技場へ向かう。
to be continued