【星の魔女】編 III 惑星
星群の長として、アルファルド・セイリオスが騎士王と呼ばれ始めたが、それでも彼の星剣は彼を所有者とは認めなかった。
闘技場
「というわけで、後輩君の星剣覚醒の為に相手になる先生をお願い。」
「あいよ、まぁ俺は行くとして、他は誰が良いのかねぇ…。」
星群の第一部隊長ノア・リーゼロッテと実技教師、スハイルが話す。
「アガムは?」
「アイツぁそういうのは好まねぇんだよなぁ。ガヴェウンはどうだ?」
スハイルの問いにノアは顔をしかめる。
「えー、槍使うの上手いのはわかるのよ。でも、真面目だからねぇ。変なところで手ェ抜きそうじゃない?」
「じゃあ俺だけだぞ?」
「えー…。」
「俺はどうだぁ!?」
二人の後ろから大きな声が聞こえる。
『タウラーン!』
二人は迷惑そうな顔で叫ぶ。
しかし、その後すぐに、二人は顔を見合わせ、タウラーンに笑いかける。
「はい!彼はタウラーン!私、星群と、掩蔽団って所に所属してるんだけど、彼はその掩蔽団の守備隊長!」
「ガーッハッハッハァッ!宜しくなぁ!騎士王!」
「あ、宜しくお願いします。」
「この通りうるさいけど実力は折り紙つきだから。」
ノアは軽く巨漢の説明をすると、スハイルの方を指す。
「この人は見たことあるよね、風と月とあと…どこだったかの実技教師、スハイル!」
「先生をつけろ先生を…お前も生徒だろ。」
スハイルは気だるそうに言うと、顔を引き締めた。
「俺とタウラーンで、お前の星剣の覚醒を促す。お前が自由自在に剣を出せるようにな。それと、カイルに聞いた所によると、鎧も実はお前の体内に眠ってるらしい。」
「鎧が?」
「おう、それの覚醒も促す。星群で三ヶ月修行を積んで、二分の一で剣が出るくらいにはなったらしいじゃねぇか?とりあえず俺たちを斬り伏せな。そのためには、鎧の解放が必須だ。それと…今回はハンデとして、タウラーンにダメージを入れる。」
スハイルは指を鳴らす。
「行くぞお!《プロテクトIGS》!!」
タウラーンの両肩に体と同じ程の長さの黒い盾が現れる。肩の部分には、球体がはまっており、それが盾から外れ、浮遊する。
そして、目をこらすと、何か膜の様なものを少し球形に広げている。
「行くわよータウラーン。」
ノアが空から何かを引き抜く。
純白の剣が現れた。
「いつでもこーい!」
「星の命よ、救いの光となれ…!はぁぁぁぁぁあ!!」
ノアが剣を一振りする。光の波がタウラーンに押し寄せ、飲み込む。
眩しさでやられた目が回復すると、傷ついたタウラーンが立っていた。
「さすがノア殿の全力!素晴らしい!」
「なんでこれでも立ってられんのかしらねぇ…普通なら皆蒸発するはずなのに…。」
この施設での事を言っているんだろうとは思ったが、アルファルドは身震いした。
そしてそれと同時にタウラーンの防御力に感服した。
「さぁて!始めようぜ、俺はタウラーンの守りで中々お前らの攻撃は届かない。二人でどう戦うかしっかり考えるんだ。」
スハイルは手をたたいて言った。
いつの間にか手にはメイスが握られている。
「後輩君、私達は同居してるからこその信頼関係があるわ。頑張りましょう。」
「はい…!タオル一枚で歩くのはやめてくださいね…。」
「タウラーン!支援任せた!」
「おうとも!」
球体を従えてスハイルはノアにメイスを振るう。ノアは星剣でそれを受ける。
「はぁぁぁぁぁあ!!」
剣を引き抜く動作をとり、スハイルにアルファルドは斬りかかる。
今回は見事星剣を出現させる事に成功した。
しかし、球体の防御に阻まれる。
そして今度はスハイルが高速で移動。
アルファルドにメイスを振る。
しかし、ノアがアルファルドの前に。
「せぇいっ!」
ノアが斬り上げ、スハイルを浮かせる。
「後輩君!」
「先輩!」
ノアがもう一度一撃、球に防がれた所で、アルファルドの剣がスハイルに届く。
「ぐっ!…やるなぁ。」
「そうさなぁスハイル、本気を出さんとやられるなぁこれは。」
その言葉の後には、ノアが吹き飛んでいた。
「がっ!?…」
壁に叩きつけられたノアは空気を吐き出された。
「先輩っ!」
「余所見すんなぁ!オラぁ!」
スハイルの一撃を辛うじて受ける。
しかし、
「ふんんんんぬぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「がはぁっ!?」
タウラーンの突撃。
「守備隊が守るだけとは思わないでもらいたい!俺は敵を吹き飛ばす事で有名でな。」
「さぁて、お若い二人、引き離されちゃあ厳しいなぁ?」
「くっ…!後輩君…!」
「バーカ、自分の心配しろお前ら。」
そういって、スハイルはタウラーンと共にノアを殴打する。
「クソっ!先輩!」
助けに入ろうにも、タウラーンの球形盾に阻まれる。
「ホラよぉ、助けに来ないとマズイぜ?」
ノアが気絶し、動かなくなった所で二人はアルファルドに向かう。
一ヶ月前。
「はー!疲れたー!お風呂最高!」
そう言ってタオル一枚のノアにアルファルドはなるべく見ないようにしながら叱る。
「先輩!ダメ!タオルダメ!後輩いる!ダメ!」
「えー、後輩君に見られても気にしないのに。んなことより、どう?星剣。」
ノアは尋ねる。
「んなことよりって…ダメですよ全然。剣も重くて、自分に合ってない感じがします。」
アルファルドの答えにに、着替えながらノアは言った。
「多分それは、認められてないのね。私のは死ぬほど軽いわよ。持ってるっていうのがわからないくらい。」
「そうですか。」
「あっ!私のと結構共鳴?してるみたいだから二人の気持ちが重なればきっといけるって、だからさ!後輩君今度ご飯食べいこー!」
「なんでそうなるんですか!食費厳しいんですからね!」
「気持ちが、重なる…」
(星剣を始めて使った時、ノア先輩は何を考えたんだろう…喜び?ならとっくに、じゃあ…)
「あぁあぁ、悲しいねぇ俺は。お前らに絶望した感じするわ。ダメだなこれ。」
(…!)
スハイルの一言で、
アルファルドの身体の中で絡んだ糸が解けるのがわかる。
(今まで感じた事のない気持ち…先輩がどうして星群にいるのか、わからなかったけど、何かに絶望して、それでも諦めなかったからなんじゃないのか…!?違うわけない…この感覚は!)
「な、なんだ…タウラーン!コイツはヤバイ!」
剣が軽くなる感覚。
もう一つの《魔器》が解けるのを感じる。
銀の鎧、碧の光が通っている。兜、肩、腰の形が相まって、アルファルドをまるで城の様に彩る鎧。
そして、星剣の共鳴。
確かに、星剣を通じてノアと感覚を共有しているのがわかる。
「先輩!」
鎧を纏った騎士の姿、騎士王としてのアルファルドの呼びかけに、ノアは飛び起きる。
そのままタウラーンとスハイルに斬りかかる。
「ぐっ!…」
「何だよオイ…スピード、上がってねぇか…?」
驚く二人の前に、王と騎士が立つ。
「今の僕達は、互いに星剣の加護を受け、その力を二人で共有している。今の貴方達では太刀打ち出来ない。」
「ハッハッ!おもしれェじゃんよ!久々に楽しめるってもんだろ!タウラーン!」
「そうだのぉ!スハイル!」
二人が正面から来る。
それでもアルファルドとノアは止められない。
不可視の一撃。
二人では目で追うのがやっとの、攻撃。
対応できないのは、[二人がそのスピード]だからである。
寸分の狂いもない完全に息の合った一撃を、初めて見た二人は防げなかった。
『はぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!』
輝く二振りが、勝利をもたらした。
To be continued