【星の魔女】編 II プラネタリウム
重い扉を開けると、豪華な装飾に彩られた床、窓、天井が広がっていた。
先には二十程の集まりと、二人の青年。
一人は青い髪、冷静な雰囲気。一人は赤い髪、もの優しい雰囲気だ。
集まりの中の者達が少しずつ扉からくる者に気付き傅く。
ノア・リーゼロッテ。
二人の青年も彼女に気付き、待ちわびていた表情を浮かべる。
「部外者を連れて来るとは、珍しいですね。ノア殿。」
青い青年が言う。
あくまで客人としての眼差しをノアの背後の人物に向けていた。
アルファルド・セイリオスだ。
「いいえ、部外者じゃないわ。この星群のトップの器を連れて来たの。」
その言葉にノアを除く全員が驚く。
「ノア先輩!?」
「ノア殿!」
青い青年がアルファルドの言葉を掻き消すように続ける。
「いくら星群の中の地位が高い貴方でも、さすがに暴挙が過ぎます!見た所一年生でしょう。この誇り高き星群を任せるなど!」
「あら、かの王の血族なのよ?後輩君、アルファルド・セイリオス君は。」
その言葉にもう一度周囲は驚く。
「それでも!」
青い髪の青年が怒りを顕にした時、赤い髪の青年が口を開いた。
「ノア殿、我々があえて空席にしている星群の長に彼を着かせたいという事は、彼の実力が本物であるという事ですね?」
「甘いぞゴーウェン!」
青い青年が叫ぶが、赤い青年は続ける。
「なら、反対する中で一番の実力のある者に相手をさせれば良いのでは?私は構いませんので、この場はバーリスが相手をしますよ。彼を納得さればこの場は収まるでしょう。」
「お前!」
青い青年が掴みかかろうとした時、ノアが止める。
「良いわね、それにしましょう!」
闘技場控え室
「ノア先輩!聞いてないですよ!」
「言ってないもの。言ったらついてこないでしょ?」
「当たり前です!勝てる気がしません!星群ですよ?」
「別に、納得させれば良いのよ?話し合いがあるじゃない。」
ノアは満面の笑みでそう言った。
「というか、知り合いだったんですね。」
「えぇ、第一部隊長ですもの。」
闘技場
二人は向かい合う。
「バーリス、さん。」
アルファルドの言葉に、青い青年が答える。
「なんだ。手加減は出来ないぞ。」
そう言って、青銀の鎧を纏う。
額、肩、胸、腕、腰だけを鎧で固め、腹部は肌を露わにし、鎧のないところは黒い布になっている。
動きやすさを重視した武装である。
一方のアルファルドは、剣のみ。
鎧を纏う術を持っていないのである。
「アルファルド・セイリオスです。実技はまぁまぁですが、勉強は…」
「御託はいい。はじめよう。」
「ま、待って…!」
剣がぶつかり合う。
「この試合、どう見ますかノア殿。」
赤い青年、ゴーウェンは言った。
「今は勝てないでしょうね、バーリスの圧勝だわ。」
ノアは笑って言う。
「おやおや、長の器なのでしょう?[今は]と言うのがミソですか?」
「えぇ、彼は《星剣》を持ってるの。」
「へぇ、貴女の持っているそれと同じ物だと…?」
「そう。でも使った事がないみたい。私の星剣が確かに彼の中から感じているのは分かるけれど、だから、覚醒させたいのよ。」
ノアが重く言うと、ゴーウェンは言った。
「貴女が信じた人なら、必ずこの戦いを無駄にはしない。今日集まれなかった星群の騎士も、そう思っている筈です。後は、頑固でせっかちなバーリス…。」
はぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
「うわっ!?」
バーリスの武器は、小さな盾と、波打っている片手剣。
素早く、正確で、力強い。
防げる時もあるが、大半はアルファルドの身体を斬っていた。
「君は、一体何をして来たんだ!こんな事で、王族?…笑わせるな!私が宮殿で過ごした剣の修練くらいはしている物だと思っていたが…あまりに酷すぎる。学園の入学試験も堕ちた物だ!」
剣を振りながらバーリスは問う。
「僕は…ただ民と喋っていただけで、祖父のカイル・セイリオスがすべてを動かしていたから…王族の自覚なんて、無かった…。」
「甘いっ…!お前もかなり甘い!幼いうちからその一族のあるべき姿を何度も見る機会があったというのに、民との会話に惚けているとは…!」
バーリスは静かに怒り剣を振るう。
実践も、基礎すらも成っていないアルファルドに勝ち目は無かった。
「民が君を弱くしたのだ。民が君を堕落させたのだ。」
左フェイント、突き、右払いで斬られると、アルファルドは膝をついた。
アルファルドは考える。
彼に勝つ方法を。
話し合いなど無理だ。すぐにわかった。
この星群と呼ばれる組織がどれだけレベルが高く、完成された場所であるかを。
彼の剣でわかったのだ。
どんな気持ちで星群という立場に居るのか。
守る。という意思。
凄まじい意思。今、彼は自分を敵だと見なしている。敵からこの場を守る事が彼の役目。
この学園という場所を守り続ける意思。
でも、
「人の心を考えないで、王が出来るか。」
「何…?」
それは、憧れる王に、祖父に言われた言葉。
「民を考え、臣下を考え、王は初めてその道に立てる。」
と、アルファルドは言った。
「民が僕を堕落させた。と言ったよね。」
アルファルドは立つ。
「あの輝きが、ノア殿が信じたものですか。」
「えぇ、私の信じた光。」
二人が笑みをこぼす。勝利を確信したが為の、王の器を見たが為の、笑み。
「彼らは、僕を堕落なんてさせなかった。掛け替えのない物だと、僕にわからせてくれた。小さい頃から分かっていたんだ。僕が《守る》んだと!その力は!僕の中にある筈だ!」
アルファルドの身体から、《魔器》が飛び出す。
ソフトボール程のそれは解け、剣としてアルファルドに差し出される。
其れは、王が託した新たな王の証。
《星剣》のプロトタイプ。青と白の刀身。
「この光が…ノア殿が見た、器の…!?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
今までとはまるで違う、誰よりも輝く一撃がバーリスを裂く。
光が溢れ爆ぜる。
暫くして砂煙が晴れると、魔法陣と、肩から腰に傷を負ったバーリスが現れる。
「ふぅ…危なかった。勝負ありましたね。」
魔法陣の出どころはゴーウェン。
バーリスは深い傷だが、驚いて動かない。
遅れて現れたアルファルドの手に星剣は無く、元々魔法で作り出した剣が一本転がっているだけだった。
「もう少しゴーウェンの魔法が遅ければ、体が消し飛んでいたのよ、バーリス。本気を出せば彼はこれくらいやるの。」
「あ、あぁ…。」
しかし、アルファルド本人は状況が飲み込めない。
「今の、剣は…!?どこに消えて、それにどこから出て来たんだ…!」
驚く本人をよそに、深手を負ったバーリスは歩み寄る。
「貴方を認めます…認める他ありません、王よ。私の剣は、貴方と共にある。数々の無礼をお赦し下さい。」
傅くバーリスにアルファルドは声をかける。
「え、えぇ!?…いや…。僕も何が何だか…それに傷も!」
二人のいる場所にノアとゴーウェンがやって来る。
「この戦い、星群の全ての騎士が見ていました。貴方は長として迎え入れられましたので、これから苦難が待ち受けていますが、ノア殿がなんとかしてくださいます。」
「えぇ?面倒くさいわね、大雑把な説明はしてあげるから、今日は取り敢えず回復に専念するために解散!で良い?」
「勿論。良いものが見れました。」
そういって二人はバーリスを抱えて闘技場を後にする。
「な、何が何だかわからない…星群の人達って…。」
To be continued