「男のコと付き合えば、男性が好きになれると思った。でも、変わらなかった。」
「男のコと付き合えば、男性が好きになれると思った。でも、変わらなかった。」
私が初めて
自分が同性愛者だとカミングアウトした男性は
一瞬だけ付き合った人だった
同性愛者であることを教えてもらい
同性愛者であることを伝えた
私はまだ信じていた
いや、確信はしていたけど、認められなくて、可能性に託した
私は知らないだけ
まだ男性に恋をしたことがないだけだ、と
あわよくば、せめて両性愛者になれるのでは、と
けれど、その期待を裏切ってくれたのは、他でもない私だった
大学での私の話から始めよう
まず、はっきり言っておくと
私は第一志望の大学に行けたものの、本当は学びたいことがそこにはなかった
私自身は中学の頃から始めた創作に対しての想いが残っており、その道に何か関わるような勉強がしたいと思っていたし、
人の心を理解することに関しても人一倍関心があったので、心理学にも興味はあった
けれど、私はもともと考えるのが好きな人間だったので、幼い頃から理系分野が得意科目であった
私は四人姉妹で、
姉が一浪していたし、妹たちも私立の大学を早い段階から志望していたので、
私は金銭面で親に迷惑をかけるまいと思い、現役で国立大学への進学のみを考えていた
そうなると、国立にいけるレベルの勉強を求められるならば、私の得意科目から考えて、文系への進学は断念せざるを得なかった
勉強はそこそこの努力で中の上くらいはいけるので、
自分でも現役で必ず受かるようなレベルの大学で、しかも地方過ぎれば親に心配させることになるかもしれないし自分のプライドも許さないのでなるべく都会で、せめてなにか文系の勉強もやれるような学部を、と条件を出していった結果、落ち着いたのがその大学だった
このときの私の「環境の条件」から考えれば最高の進学先だ
むしろそんな「好条件」な大学が存在したこと自体、いま思えば奇跡に思える
入るべくして入ったその大学では、
案の定、やりたい分野の勉強ではなく、むしろほとんど興味のない分野の勉強だったので、恐ろしく学校へのモチベーションは低いスタートだった
3年の今になって振り返ると
こんなに興味がない学部へ入り、それでも入ってここまで辞めずに続けて、単位も人より多く取って勉強してきて、本当によかったと思う
多分、ここに来なかったら絶対に自分では勉強しなかっただろうことを学ぶきっかけになったし、興味もだんだん湧いてきた
むしろ、社会に出てから役に立つ実用的な知識を学ぶには、私にはここが一番合っていただろう
もし、いま希望と違う大学に入って辞めたいと思っている人がいても、辞めないことをおすすめしたい
何事も続けてみないとその良さや必要性は分からないのではないかと思う
本当に辞めるべきならば、悩む時間も与えずにその時は訪れると私は思う
苦しいだけなら、もう少し耐えてみてほしい
さて、そんな老婆心で話を逸らしてしまったが
次の恋に向けて語るには、学校初日のことから話さなければいけない
それにしても、私は恋多き青春を送っているように見えるが、私の見た目は恋愛と縁遠い、目立つような可愛さは持っていないことは書き添えておこう
アマと出会ったのは、入学初日だった
入学式の前日にオリエンテーションがあったときは、アマは参加していなかったらしい
オリエンテーションは私は得意のゴスロリっぽい服を着ていった
というより、このときはそういう服しかちゃんとした服を持っていなかった
高校時代は寮生活と受験で、極端に服の需要も供給も絶えていたし、一人暮らしの準備資金で手持ちのお金は心許なかったので服には割けなかった
このとき友達になった子たちもいたが、それに関しては語る機会がないだろうと思うので特に書かないでおこう
ようは、私の大学での第一印象はゴスロリっ子になった
その後しばらくはゴスロリしか着なかったのも事実だが
入学式当日の会場は大学では近くのホールで行われた
着慣れない黒スーツの集団が、対照的に彩り豊かな親を連れだって歩いている
鞄はリュックやエナメルが多い辺り、高校生らしさが残る
私はほぼ手ぶらで行って、各所で大量の資料をもらって後悔したのは忘れられない
どうでもいい話と二度と聞く機会のない校歌を聞き、昼前には学校で学部別の話があるのでまた来た道を引き返す
親もなく、まだ知り合いの連絡先も知らないので、私は一人で行動していた
教室で、次の集合時間だけさっと共有されると昼食で解散になり、さすがにごはんをどうしようかと人の波にたゆたうと、学食の目の前に並んでいた女子3人集団はさっきの教室にいた人たちのはず
「ねえ、同じ学部だよね?ごはん一緒に食べていい?」
コミュ症ではないが、初めての声かけはさすがに緊張した
いかにも3人はお互い初めましての雰囲気ではなかった
快く入れてもらえたので聞いてみると、3人ともAO入試で受かった組らしい
この学部は特殊なAOで、お互いのアイディアを発表する時間があるし、何度かテストが行われるため入学前には顔馴染みらしい
ちなみに、この頃の大学生は入学前からSNSで繋がっておくことが多いらしいが、山のなかの時間が止まった生活を送っていたガラケーの私は何も知らなかった
そのグループのなかで、一際かわいかったのがアマだった
アマは本当にほとんどの人が認めるほどの「美少女」だった
大学生にもなって少女というのも可笑しな話だが、アマの場合、童顔すぎた
厚く長いまつげが、ぱっちりとしたつり目を囲っていた、もちろんすべて地毛で
アマの顔はなにより瞳が強かった
目力が強く、本人が見つめる時間も異様に長いのもあり、簡単に目を逸らさせない
下唇がふっくらとして、輪郭はスッと美しいラインを描き、肌もケアしてなさそうなのにツルツルして見える
かわいいなー、と見た瞬間から思い、自分でも意識して目を他の子に逸らさないと、あまりのかわいさに見つめすぎてしまうほどだった
この昼食時に話した内容で、私はどうやらアマからの第一印象を損ねてしまったらしいが、これは本人の偏見が入るので流しておく
私からすれば、これは一目惚れと言えたのではないだろうか
そんなかわいい女の子を含む、6人グループがまた形成された
私は6人グループが肌に合うのかもしれない、意図せず、気づけば似たような、クラスの中心から独立したメンバーが集まった
真面目な子が多い学部で、集まってワイワイするのが好きな大学生がいたわけではないが、その学部のなかでも特に地味なグループだっただろう
私の学部についてもう少し説明すると
とても課題が多く忙しい学部だ
建築系の学部をイメージしてもらえば、大体忙しさは合致するだろう
モノを作ったり、絵を丁寧に描いたり、グループで話し合ったりする時間がとにかく必要で、必修の課題が重たくて科目も多かった
演習授業とは名ばかりで、授業中は持ってきた課題の発表・評価と次の課題の説明
演習授業外の課題時間のほうが圧倒的に長いのはいまも変わっていないし、
そもそもほとんどなにも教えてくれないので、自分で全部勉強してこないと課題をやることさえままならなかった
やり直しを食らう人も多かった
また、グループでアイディアを練って発表する演習も、言い返せないほどボコボコに先生に質問攻めにされる
徹夜が週数回が当たり前のハードな学部だった
そんな学部で、周りの子達に比べ、私はとてもやる気のない学生だった
一応課題は欠かさずやるが、クオリティは落とされないギリギリラインの低空飛行
いつも前日の徹夜で終わらせるか、酷いときだと友達にまで手伝わせた
代わりに私は塾講師と学生団体の活動に力を入れた
こちらのほうが、大変だけど楽しかった
週3回のバイトと、週2回の学生団体で、ほとんど休日らしい休日はなく、時間さえあれば課題に奪われ、時間がなくても課題に休息を奪われた
朝から夜中までほぼ休憩なしのバイトの日も必ず週1で、疲れはたまるが体力と健康には昔から人に勝り、病気になることもなかったのがさらに辛かった
正直、最初は人間らしい生活をしていなかった
お風呂も2日に1回は入れればいいほうだ、家事なんてやる時間はなく、自炊するなんて夢のまた夢、いつもコンビニが私を養ってくれた
外食のせいで食費もいつも足りず、月の終わりにはカロリーメイトを何食にも分けて食べた
よく塾長にもゴハンの心配をされた
移動費はかかるのに節約する時間もなかったから、 いつも貯金は0だった
心には不安しかなかった
とにかく逃げたかった
したくない学校の勉強から逃げたくて
でも何もしないのはもっと性に合わなくて
活動をしていることで私は高校から燃やし続けている使命感や熱意を継続させ
塾生が勉強を楽しめるように工夫することで成長を見られることが喜びだった
それだけを心の支えにして、依存するように奉仕した
自分が嫌いな人間が人のために生きると、自分に投資する時間もお金も惜しくなり、「人のため」の大義名分に依存して無理な生き方をしてしまう
その限界を味わったと思う
あの生活をあと5年も続ければ、過労死していただろうことは想像に容易い
3年保てば常人を超えていただったろう
この生活も2年間でなんとかおさらばできたことは後の話
今もまだ大学生なので、大学生活について語ることも多くなるとは思うが、ここらで止めておこう
そろそろ恋愛の話に戻ろう
アマについて、一言で言うと
彼女も寂しがりだと言える
アマは人に抱きついたり、手を繋いだりするのが好きな子だった
人と触れ合うのが好きなのだ
私も気に入った子には抱きつくのが好きなので、私たちの相性はよかった
ゴハンを食べるとき、ずっとスプーンを口に当てて「こうすると安心するんだよね」とも言っていたので、口唇欲求も強い
こういうところを見るにつけても、私は頭の隅で考えることがあった
これなら、体から入れば簡単に落とせる
相手から触れ合うのが止められなくなる
そこから恋愛感情がだんだん生まれるはず
恋愛に関して言うと、私は卑怯な人間だ
同性愛が直球で実るわけがない
勝つべくして勝つ
必勝の戦略を必勝の相手に取る
が、それを意識して行動していたかと言われればそうでもない
案外、私自身が、相手の体に対してまずは欲求を感じ、体を重ねることで情が深まり、恋に気づく
あとで考えると、これが戦略上たまたま有利だったことになる、というだけの話だ
私も私自身の戦略で惚れていくだけ
サキのときもそうだったやり方だ
ということで、まずは触れ合いのレベルを上げていく
手を繋ぎ、腹をくすぐり、肩を揉み、体に抱きつき、胸をに触れる
タイミングと反応に合わせて、他の人には出来ないことを達成していく
いちいちわずかな抵抗を示しつつ私を受け入れるアマの姿は愛くるしかった
さすがにキスしたときには「なんで」と聞かれたが「したかったから」としか私にも答えがなかった
そう、したかったからした
全てはそれだけだった
動物的な感情を相手に合わせて出していただけ
一線を越えるのも、やはりしたかったからしただけだった
ただ、サキのときと違ったのが、
私がアマを自分から好きになり始めていたことだ
そして、告白したくなるほどの好意に変わるきっかけが今回はあった
冒頭の男性だ
名前はハッシーとしておこう
ハッシーは私が学生団体で出会った男性だった
初めて会ったときから、やけに私だけに近寄ってくることは気づいていた
でもまだこの団体の活動に来たばかりの人だったので無下にはできずに面倒を見ていた
やけに距離が近くても笑顔で対応した
多分顔はふつうの人だろう
とにかくキムタクの話ばかりされたが、私はキムタクについて前知識が一般人より絶望的に乏しく、
新鮮な話として大きめのリアクションを返していた
ハッシーはキムタクに憧れているらしく、こんな人になりたいと何度も言っていた
自分の話を聞いて欲しがっている印象が強く、ナルシストな発言も少なくなかった
別に嫌いではないが、恋愛的な意味で好きになられるのは億劫だとは内心思っていて、多少の距離をわざと作るようには心がけていた
そうはいっても、彼は結局3回しか会わなかった
1年の秋に会ったのを最後に、彼は就活やら就職先やらで会わなくなった
私も会えなくなったら存在を忘れていた
あのときは好意を持たれていたが、離れてしまえば忘れるだろうと高をくくっていた
というより、本気じゃないだろうと思っていた
だって私はいままで男性に告白されたこともないし、顔も一目惚れされるほどのものではない
私が聞き上手だから、構ってもらえて喜んでいただけだと思っていた
が、そんな2年の4月ごろ、
突然ラインで連絡が来た
「電話できる?」
連絡先は確かに交換していたが、それまでなんの連絡もされたことがなかった
まさかとは思ったが、そのときの嫌な予感はもちろん予想を裏切らなかった
高校で現代社会から隔離されていたとはいえ、二年生にもなればもうスマホに変えているし現代のSNSも使いこなしている
夜にパソコンでツイッターを開きながら、ライン電話をハッシーとした
無意味にもったいぶらせながら、
「オレ、好きな子いるんだけど誰だと思う?マリちゃんの知ってる子だよ」
もう分かってるが、こちらも自惚れているとは思いたくないので、申し訳程度に適当に学生団体のメンバーの名前を挙げておく
そうこう会話しているうちに
「えー、この子も違うなら誰ですか?」
そろそろ来そうだな、どうしよう、なんて返そう、と頭をフル回転させていると
「君だよ」
なんて呑気な告白がやってきた
私は生まれて初めての異性からの告白に、予想はしていたけれどさすがに動揺した
このとき、話を逸らそうと別の話題をいくつか盛り上げた
「えー、付き合うってよくわかんなくて」
「ハッシーさんのことは嫌いじゃないですよ」
騙しだましに時間を稼ぐもハッシーさんが答えを急かす
この会話の裏で、ツイッターで私は「コクられた、どうしよ」とか呟いて友達からのリプで会話していた
まず、私は女性にしか恋をしたことがない
でもここでこの人をフれば、もう二度と話せなくなるかもしれない、そんな人間関係を失う恐怖もあった、大して仲がよかったわけでもないのに
そうはいっても私には期待があった
もしかしたら、男性と付き合えば男性を好きになれるのでは?
男性を知らないだけでは?
その期待が胸を埋め尽くしきったとき、
「付き合います」
と言葉は怖々と口から出た
ここまではまだよかったのだが、
そこからのハッシーさんの発言が、私に恐怖を煽らせた
「一緒にお風呂に入りたい」
「マリちゃんの家行きたい、この日空いてる?」
「恋人同士になったらマリちゃんも、手を繋いだり、えっちなことしたくなるよ」
「マリちゃんの裸、見たいな」
怖い
気持ち悪い
告白した舌の根も乾かないうちにそんな話題を振られた私は、どうしようという言葉だけが脳内に反芻した
声色は
「よくわかんないですー」
みたいな恥じらいで返していたが
内心、余裕がないほど恐怖と後悔で思考停止になった
端から見れば、すぐにフればいい話だと思えるかもしれないが
私には初めての異性からの告白だったので、フる方法も分からず、
さらに言うと、やはり二度と関係が戻らなくなることが怖かった
そして性的な対象に見られる恐怖でなにも考えられなかった
ツイッターで「彼氏できた」「やばい、早速エロイことしたがってくる」「怖い」「これ、体目当てのやつ?」「どうしようどうしようどうしようどうしたらいい?」など、とにかく不安を吐き出していく
自分がこんなに動揺していることにも、私は驚きを封じ得ない
いままでも付き合ったり、付き合ってない子にもそういうことをしておきながら、いざ異性にそういう対象にされると、こんなに戸惑いを感じるものかと思った
そして申し訳なさをハッシーに感じた
自分にもハッシーにもどうしたらいいか分からずに困っているとき、
「早く別れなよ、危ないってそいつ」
みたいはリプを返してくれる子がいた
それがまさにアマだった
「でもフるのも怖い」「もう電話切る」などとアマには返し、
ハッシーには、「そろそろ寝ますね」と言って電話を切った
電話を切ると涙が溢れた
どうしよう
どうしよう
アマから電話がかかってきた
すでに時刻は1時を過ぎ、自宅生の彼女は家族に電話をしていることがバレると叱られる時間だった
にも関わらず彼女はその後一時間以上電話に付き合ってくれた
実はこのときすでにアマは私が同性愛者であることを知っていた
親身にフる方法を考えてくれたが、一番言いやすい理由は、同性愛者だと言うことだと教えてくれた
涙で声も浮わつく私を必死で慰めてくれた
怖い、どうしよう、わからない、それでいいの?
なんて譫言を繰り返す私を論理的に諭そうとした
そういうところが不器用で、そういうところが可愛いし、そういうところが頼りになった
このときのアマには本当に感謝している
人に精神的にこんなに頼ったのは初めてで、こんなに支えてもらったことが、その後の私の安心感になった
もし私がまた困ってもこの子が助けてくれる
そして、助けてくれるほどの好意を向けられていることを確認できた喜びは、いつしかアマへの心からの恋に変わっていった
ハッシーの件について結末を言うと、
アマとの電話の後、ハッシーからまた「付き合えてうれしい」みたいなラインがきたのに対し、胸を縮こまらせ緊張しながら長文のお断りメールを入れた
3時も過ぎた頃なのに、ハッシーからラインが帰ってきて、また友達に戻ろうと言われたとき、やっと安心感に包まれた
と、同時に、やはり思い知らされた
やっぱり、だめだった
男性が怖い
でも、私には支えてくれる人がいる
そして、私はまた女性に恋をした
この事件から1ヶ月も経たないうちに、私はアマに告白した
いますぐ告白したいと思ったときはゴールデンウィークだったので、電話で告白した
もちろんアマは気付いているものと思っていたのに、アマは知らなかったらしく、そのとき返事をしなかった
アマにとって私からの告白は衝撃が大きかったらしい
これだけのことをしていながら、今更、と私は思ったが、返事を待つことにした
彼女はいつも鈍感なのだ
人のコイバナは好きなくせに、自分の絡む恋愛には疎いことはこのときから見え始めていた
ゴールデンウィークも明け、日常は再開した
まだアマからの返事はなかった
私たちの関係は相変わらず友達だった
別に告白したからといって関係は変わらなかった
前から彼女とは毎日メールをしていたし、それも変わらない
相変わらず抱きつくし手は繋ぐし胸は揉むしキスをしあう関係も変わらない
私から答えを急かすこともない
でもいつ返事が来るかと楽しみにしていた
必勝の戦略がある私に、不安はほとんどなかった
「付き合うってどういうこと?どう変わるの?」
と質問されたが、私にもわからなかった
サキと付き合ったときも、付き合うってよくわからなかった
特に、アマは体の関係自体初めてだったはずだ
ここまでしてるのに、今更付き合うってなんだろうと思うのは当たり前だ
「わからないけど、アマと付き合いたいと思った」
それだけだった
なんだか、自分の頭が悪くなったような答えしか返せないのも悔しいので、少し考えて
「お互いが好きって言い合えるような関係になることとか?」
と返した
その定義もやはりまだ違うのでは、と冷静になって思うが、このときの返し方としては最良だっただろう
彼女なりに心の準備やら整理やらに1週間かかった
いつものごとく帰りに別れ道で手を振ってお互いの道を歩いているとき、電話がアマからかかってきた
「言い忘れたことあるけど、前に告白してくれたこと覚えてる?」
そりゃ、忘れるわけはありませんね
「あれ、いいよ、付き合う」
そのときの自分の喜びように、自分で驚いた
サキと付き合ったときにはこんなに喜んだ瞬間はなかったのではないか
顔がニヤけるとはこのことだ
嬉しくて「やった」と言っていたかもしれない
胸が弾む
足が弾む
心が弾む
葉桜の季節は、私を優しく受け止めた
何が変わるのかも分からないけど、付き合えたことに素直に嬉しく感じる自分がいて、
ああ、そうか
初めて人に恋した
初めて恋を叶えた
そう実感させられた
これが初恋だった
そう言えるほど、この恋はいままでの恋と違う新鮮な感覚が何度もあった
きっと少女漫画で描かれる恋はこんな恋だろう
こそばゆいほど溢れる初々しさは、二度目の恋のはずの私に逆に戸惑いを与えた
告白も
デートも
失恋も
私らしさを失わせるほど、平凡などこにでも溢れる恋の感情と同じだったが、
その話は次の話にしよう