二年後『上』
すみません、前話まででキャラクターの名前がごちゃ混ぜになるというミスがありました。もう直しましたが、見逃してるところがあるかもしれません。もし気づいたらお手数かけますが報告お願いします。なお、これから出てくるキャラで、間違って名前を出したものについては名前を変更します。以下確認。
主人公→ライ(鬼木龍馬)
父→アギル
母→マルク
妹→イルマ
三竜王→フレミー、ディズ、カレン
森の神→ユグル
目が覚めたら大変なことになっていた。
ライと新しく名付けられた黒い龍は目の前で繰り広げられる戦いに理解が及ばなかった。
「イルマちゃん。わたしは別に変なことをしようとしてたわけじゃないんだよ?」
すっかり顔馴染みになったケンタウロスのシウバが、彼女をにらみつけている王龍の娘、イルマに諭すように言った。
「嘘ですね。お兄さまを見る目がすごくいやらしかったです。何を考えてるんですか、この変態ケンタウロス!」
イルマはライを守るようにシウバとライの間に立ちふさがり、金色の鱗を煌めかせ威嚇していた。鱗には雷がまとわりつき、ばちばちと弾ける音がする。
どうしてこうなった。
ライは考えるのを放棄して、寝たふりをすることにした。幸い口論に夢中になっているようで、ライが起きているのには気付いていないらしい。
「変態って……イルマちゃんはわたしが何を考えていると思ってるの?」
「お兄さまとのイチャラブ生活でしょう。わたしは毎日夢に見ますが」
……………………結構な問題発言である。
あの日、新しくライが生まれた日から二年ほどたった。ライはすくすくと成長し、今では立派な体躯を持つ一匹の王龍となっていた。とはいってもまだ若輩であり、まだまだ発展途上である。身体は一般的な竜系統の魔獣を一回り小さくした程度で、彼らの父であるアギルほどの威圧感は見られない。
むしろつぶらな瞳と前世のときに覚えさせられた妙な礼儀の正しさから、恐ろしいというよりも愛らしいという言葉が似合うようになってしまった。
彼と同じ日に生まれた金色の鱗を持つ正真正銘の王龍であるイルマは最初のうちはライにもつんとした態度で寄せ付けず、近寄ろうものなら威嚇するような嫌われようであったが、龍の谷に起こったある事件の際に、命がけでライがイルマを救出したことから急にライにべたべたするようになった。
ライとしては嫌われるよりは好かれたほうがいいと思っているし、イルマがライに甘える様子はとても可愛らしいと思っている。ただ最近どうにもその方向がおかしな方へ向かっている。主に………近親相姦な方向に。
アギルから聞いた話ではあるが、王龍としては別に近親での交配はそこまで問題ではないらしい。人間のように劣性遺伝が起こったりすることもなく、生まれた子は純粋に王龍としての力が強化される。ただ、あまり近すぎると能力の一点強化が起こり、一つの能力だけ秀でている王龍が誕生する。
王龍の強さは総合点の高さであるため、はっきりいって弱体化してしまうのだが、その子供がまた新しい子供を作ると、長所である部分だけが受け継がれ、劣っている部分はもう片方の王龍が上書きしてくれる。つまり種族としての能力が上昇するのだ。
ただし一点強化型の王龍はその性質上生き残るのが困難であり、誰かに守ってもらう必要があるため、増えすぎても問題になる。
推奨はされないが、別段咎めもしないのだ。
ただライとしてはお断りしたい気分である。なにせ彼の根幹部分は普通の人間であり、勿論好みは普通の女の子であるからだ。
確かにイルマは可愛いと思うが、それは動物としての可愛さである。元人間のライはどう頑張っても人間以外の動物であるイルマに配偶者としての感情は抱けない。
そういう意味であればシウバもまたライとしては対象外である。ただ彼女の上半身は普通の女の子、しかも美少女である。流石に馬の身体に欲情することはないが、上半身に関しては許されるならすぐにでも手を出してしまいたいほど魅力的である。
もしかしたら意外といけるかもしれない。そこまで考えて、何を考えているんだろうとライは自己嫌悪した。
理由は分からないが、シウバはライに好感を持っていてくれている。彼女が言うにはライの前世の記憶を見たからだというが、自分が送ってきた人生に自信のないライは、どこに引かれる要素があったのか分からないでいた。
イルマの好意は分かりやすい。助けてくれたことで今まで抱いていた感情が反転したのだろう。ただどうしてそれが変な方向に向かっているのかはライにはまったく分からなかったが。
前世ではまったくといっていいほど女に縁がなかったライは女心は分からないと結論付ける。丁度良いタイミングで眠気が来たので、もう寝てしまおうと考えた。
ライが寝入った後も二人の口喧嘩は続いていた。
「イルマちゃん。あなたが頑張っても無駄よ。あなたも聞いているでしょう。ライは身体こそ王龍だけど、異世界から来た人間の魂が宿っているの。つまり人間の視点でものを見るのよ。そしてライにとってあなたは可愛い妹ではあるけれど、欲情はしないわ。欲情するのは元の魂の同族、つまり人間相手よ。あなただって人間相手に交尾しろって言われたら戸惑うでしょう?」
「その人間がお兄さまなら、わたしは喜んでやりますが」
言い切ったイルマに、シウバは思わず頭を抱えた。駄目だこの子、すごい病気を患ってます。
「正直言うとわたしもそういう対象として見られるかどうかは薄いと思うけど、半分は人間そっくりな姿だからね。少なくともイルマちゃんよりは抵抗はないはずよ。さっきのぞき見た限りだと後一押しってところみたいだし」
シルエはそれこそ本当に刺さるんじゃないかと思うほどの視線をイルマから感じた。まだ幼いとはいえさすがは王龍。凄まじい圧迫感を感じる。ただその理由が色恋沙汰というのはどうかと思うが。
イルマは悔しそうに唸ったあと、ばちん、という大きな音と共に洞窟から駆け出していった。雷光をまとったその姿は一瞬でシウバの視界から消えた。
「……………………え?………………………」
シルエがその様子を見て唖然とする。まだ無駄はあるが、イルマは王龍最大の特徴である自らを雷に変換しての移動を既に可能としていたのだ。
恐らく無意識に行った行動であろうが、それでも簡単に行えるようなものではない。
シウバはアギルが言っていた言葉を思い出す。
もしかしたらイルマは今までの一族で一番強い王龍になるかもしれない、と。
イルマは洞窟から離れて一人、川辺に来ていた。
昔大嵐で川に流されそうになったとき、ライが助けてくれた場所だ。
イルマは何か嫌なことがあったときや、気分が晴れないときはここに来てじっと川を見つめる癖がついていた。
そして思い出すのだ。兄がイルマをそれこそ命がけで助けてくれたことを。
それは2人が大嵐で流されて二日目のことだった。
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2時間後に『下』を投稿します。