6話 俺の能力は不良退治にも役立ったりする。
「あ、いた!」
体育館裏、ちょうど陰になっている場所に人影を発見した。
ギャル風の女子が二人、杖を持った女子……白崎に向かい合う形で立っている。
「……たかちゃん。あの人たちだ」
ウェーブがかった長い金髪の女子二人組。制服も着崩し、派手な鞄を肩にかけている。いかにも素行不良な風貌だ。
白崎はというと、杖で地面を探っているような仕草をしている。あの様子だと、自分が今どこにいるのかもわかってないのかもしれねぇな……。
俺たちは息を潜めつつ、少しずつその場所に近づく。
その間に、二人組はさらに白崎に突っかかっていた。
「あんたさぁ~、何初対面の人間の身体突っついてくれちゃってるワケぇ~?」
フーセンガムを膨らませながら金髪の方が喋る。
「ほんとほんとぉ。アタシらが誰だか知っての所業~?みたいなぁ~」
ジャイアントカプ○コをかじりながら、金髪の方が喋る……って、どっちがどっちか全く見分けがつかねぇなアイツら。しかも話し口調がかなりウザい。
「え……あなたたちは嫌だった? 杖でツンツンされるの……」
「はぁぁ~? アンタさぁ~、そんな事されて喜ぶヤツいると思ってんの~?」
近づくごとに会話が鮮明になってくるけど、何だか様子がおかしい。
「たかちゃんたかちゃん……」
「……ん?」
ふいに小鳥が服の裾を引っぱってくる。
「どうした小鳥?」
「もしかして、白崎さんがあの人たちに、いつもの杖攻撃をしちゃったのかな……」
「やっぱり、そう思うよな……」
以前から目をつけられていたのも事実かもしれないが、今の状況を作ったのは白崎本人のような気がする。そんな会話内容だった。
「やっぱさっきのはワザとって事じゃん~?」
「目がそんなだからさぁ、言い訳だけは聞いてやろうって思ったけどぉ~。ふざけんなってのマジでぇ~」
「きゃ……っ」
そんな事を言いながら金髪の一人が白崎の胸ぐらを掴み、揺する。
そのせいで白崎の黒髪が無造作に乱れる。
「それにあんたさぁ~、あたしらのいる学校で何目立ってくれちゃってるワケぇ~? ちょ~生意気なんですけどぉ~?」
「ぶっころぉ~、マジぶっころぉ~!」
「い、嫌でござる……っ。や、やめてっ……」
アイツら……俺のクラスメイトに乱暴な真似しやがって……!
「そのお目々のかわりに、アタシが一発痛い目見せてやるよぉぉ~!」
「あひゃひゃひゃ~! 目と目がかかってんじゃん~! まじウケルんですけどぉ~!」
ヤバい! アイツらのギャグセンスも大概ヤバいが、このままじゃ白崎の身がヤバい!
振り上げられる金髪の腕。そして、ビクッと身を縮こまらせる白崎。
「た、たかちゃんっ! 白崎さんが……!」
「わかってる! ……おい!! 待ちやがれ!!」
まだ距離は空いていたが、俺は堪らずに叫んだ。
声に反応して金髪の拳が止まる。
「あ~ん? 何あんたぁ~? ……あぁ!」
「ちょ、ちょっとさぁ~。アイツって、アレじゃね……? 目がヤバい系のヤツじゃね……?」
振り向いた途端少し身構える金髪ども。
あの様子じゃ、どうやら二人とも俺の事を知っているようだ。
……だがな。
俺のクラスメイトに手を出したらどうなるかまでは……
知らなかったようだなぁぁ!!
「お前らだけは、絶対許さねぇっ!」
――クワっ!!
「「ひゃっはあああぁぁぁぁ~~~んっ!!」」
そして俺は、ソイツらに思いっきりガンを飛ばしてやった。
仰け反ってふっとぶ金髪二人組。
「これは、Cちゃんの苦しみの分!」
――クワッ!
「「ぶっひぃぃぃぃん!!」」
「これは、白崎を殴ろうとした分!」
――クワァッ!
「「ぎゃいいいいんっ!!」」
「そしてこれが…………小鳥の分だぁぁあぁ!!」
――クワッ! クワッ! クワワッ!!
「「おたすけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」
「わたし何もされてないのにっ!?」
俺の怒濤の眼力を受け、金髪どもは散った。
「「あば……あばばばばば……」」
二人揃って地面でビチビチと跳ねている。
まるで陸に打ち上げられた魚みたいだな。汚ねぇ魚だぜ、まったく。
「まあ、これでコイツらも懲りただろう」
「最後の台詞は無理やりだったけどねぇ……。あ、それより白崎さんはっ?」
跳ねる不良どものすぐ向こう側で、白崎は力なく立ち尽くしていた。
衣服や髪は乱れ、ずれた眼帯の奥から見える瞳は涙で滲んでいる。
さっきの事が怖かったのか、未だ小刻みに震えながら俺たちの様子を見ていた。
「白崎さん!」
そんな白崎のところへ、小鳥がすぐさま駆け寄っていった。
「怖かったね、遅くなってゴメンね……。怪我はない?」
「だ……大丈夫でござる。あなたは、クラスメイト?」
「そうだよ。小日向小鳥っていうの……って、あれ? 白崎さん……目が」
「ありがと……ことりん」
小鳥に支えられながら、やんわりと笑みを浮かべる白崎。
ただ、小鳥の方は逆に驚いた様子で白崎をマジマジと見つめている。
……また、何かあったのか?
「あなたも……助けてくれてありがと……」
「ああ……いや、いいんだ……」
……ああ、そうか。
さっきからちょっと違和感があったんだが……そういう事か。
「お前……目、見えるんだな」
白崎のその涙で潤った双眸は、俺の姿をたしかに捉えていたのだった。