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4話 俺の能力と同じくらい変なやつ。


 あの日のHRの後。それがまるで転校生の運命さだめであるかのように、彼女の周りにはクラスメイトたちがヤンヤヤンヤと群がっていた。

 何度も言うが、もちろんそこには女子しかいない。このクラスの男子どもは入学早々女子の影たる存在になってしまっていて、もはやあいつらは発言権・被描写権その他もろもろを失ってしまっているのだ。


「ねえ、白崎さんってどこから来たの……っひゃんっ!?」

「惑星べじーた……」

「好きな食べ物とかってあるぅ……ぅぅああっ!?」

「ヒキガエルのすい臓……」

「じゃあじゃあ~、名前は何て呼べばいいぃぃぃぃやん~っ!?」

「白崎でもほとりでもどっちでもいいよ……ほれほれ、ここか? ここがええのんか?」


 ……。


 本当におかしなやつだぜ。いや、自己紹介の段階から少しそうは思ってたんだが、それがさらに確信へと変わった。

 しかもどっちかっていうと、クラスメイトたちは「やんやん」とムラがっていた。文字通り異様な熱気に満ちあふれているって感じだ。


 ちなみに、俺は今誰とも目を合わせていない。

 クラスメイトの女子たちに悲鳴をあげさせている張本人……それはまさに、あの中心にいる両目眼帯少女、白崎ほとりだったからだ。


「な、何で……杖で女の子の身体突っついてるんだろ……」

「まさにツッコミどころ満載ってやつだな」


 いつのまにか、俺の隣にいた小鳥が引きつった笑みを浮かべていた。


 白崎はその片手に持つ杖によって、質問に答えながらも毎回クラスメイトたちの身体にちょっかいをかけているのだ。


「あいつ……やべぇな」

「いやぁ、たかちゃんがそれ言っちゃダメだよ……。でもあの子、女版たかちゃんって感じだよね~」

「あん? 何回も言ってるが俺はワザとしてるんじゃねぇんだぞ?」

「あっ、ウソウソっ……! そんなに睨まないでっ……ごめんって……ばっはあああああん!」


 ふっとぶ小鳥。


 いや、俺は誠実に反対意見を述べようとしただけなんだぜ?

 ただちゃんと向き合って、相手の目を見て話さないとって思っただけなんだぜ?


「わたし、最近ヤラレキャラになってるぅぅ~~……」


 床でクネクネ悶える小鳥を尻目に、俺はまた白崎ほとりの方を見た。


「……?」


 お? 俺の視線に気づいたのか。白崎は、半分眼帯に覆われたその顔をこっちに向けた。


「ぐっ」


 そして親指を突き立てた。


 わ、訳わからねぇ。

 あれは俺に向けて、なのか? まあ、俺の背後にも何人か生徒がいるんだけどな。


 でも、白崎はすぐに姿勢を元に戻して再びクラスメイトを鳴かしはじめた。

 というかあいつ、目が見えないくせにやたらピンポイントで攻めてやがるな(どこをかは野暮ってやつだ)。


 かくして。

 あの不思議な少女が転校してきてからの数日間というもの、クラスメイトの鳴き声が響く時間が今までの倍近くに増えたのだった。


 ……学校にいる間ずっと、とも言う。



 ♀ ♀ ♀



 ただ、そんなカオスな時間は長くは続かず、自然と、本当にいつのまにかという感じで終わりを迎えていた。

 ……まあ終わりというか、まだたまに、あの杖の加護(被害)を受ける女子もいるにはいる。プリントを配る時とか移動で手伝ってもらう時とか。


「お」


 そんなことを思ってると、ちょうど白崎がクラスメイトCちゃんに支えられる形で教室に入ってきた。後ろからCちゃんの肩に右手を乗せ、Cちゃんのお尻の下に左手()を忍ばせている。


「白崎、さん……この支え方で大丈……きゃん~!」

「うん、平気でござるよ。あなたの声もっと聞かせぃ聞かせぃ」


 あいつ、善意あるクラスメイトCちゃんにまで何してんだよ。毎度毎度キャンキャン言わせて……まるで立場の入れ替わった犬の散歩みたいな光景じゃねぇか。

 参ったぜ、まったく。


 でも、最近白崎の魔の手にかかっているのはCちゃんくらいのもんで、教室内は全盛期とは比べものにならないくらい落ち着いたものになっているのも事実だ。


 それはクラスが「転校生」という一時的な流行に慣れた結果か。

 それとも、白崎という変キャラと積極的にお近づきになろうとする女子(もさ)が少ないからか。



 ♂ ♂ ♂



 その理由は、数日後、思わぬ形で判明することとなる。


「大変ーーーっ! 大変たいへんたいへんたいぃぃぃ~っ!」


 うちのクラスに所属してる時点でテメェもな。

 と言いかけたが、何とか堪えて教室の入口を見る。

 案の定、ボーイッシュなクラスメイトBが駆け込んでくるところだった。


「どうしたのよ、B。そんなに慌てて……」


 いつもの連れAに胸を借りながら荒い息を整えるB。

 やけに焦った顔だ。

 ただ事じゃないってことはすぐに理解できた。


「はぁ、はぁ……! あ、アイツらが……」

「アイツら?」

「そ、そう……ア、アイツらが、ついにうちのクラスの子に目をつけてきたの……!」

「アイツらって……。! ま、まさか……!」


 ん? Bの話を聞いてか、Aの顔色も悪くなってきた。


 アイツら?

 目をつける?


 ……まさか、イジメ的なやつか?


「鹿村くん!」

「んあ?」


 気づけばすぐそこに、俺の胸元にすがるようにしてBが立っていた。


「そばにいた……ぁぁぁんっ! Cちゃんもすっかり腰抜けちゃって……っはぁぁぁん! あ、アイツらをぉぉぉぉ……、鹿村くっ……ふぅぅぅん!」

「ちょっと待て! 落ち着け!」


 ……て俺が見てるから無理なのか。

 だが、胸ぐら掴まれたまま半泣きでそんなことされたら、さすがの紳士で真摯な俺も危険だ。

 強いて言うなら、エベレストの頂までご案内してしまいそうだ。


「お、俺は目つぶってるから、もう一回話してくれ!」


 そして、ようやく落ち着いたBは俺に、


「アイツらを何とかできるのは、鹿村くんだけなの!」



 そう言ってきた。


 そうか……なるほど。




 ……。




 結局は行かなきゃわからねぇってことか。



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