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3話 俺の能力で得する時もままある。



 次の日以降。

 ひよ子先生は俺対策として、日食観測用の遮光レンズを装着して学校に来るようになった。おかげで俺の能力に対しても……


「じゃあ、次の問題を……。し、鹿村くぅぅん……ん、あっ……前に出てぇ……解いてぇぇ~……」


 ……と、山の中腹辺りで耐えられるようになっていた。

 逆にこっちの耳には毒なんだが。


 本来なら、この学校ではサングラスなどのファッション小物の着用は禁止されている。

 ただ、彼女は職員である事の強みを生かして、


「つ、次は理科で太陽観察だからね……! その予行練習ってわけなのよっ、おほほのほ!」


 と乗り切っているつもりらしい。

 ただ、うちは高校。『理科』なんて小学校科目は存在しない。その時点で、彼女が嘘を吐いていることは全生徒にはバレバレだった。


 ちなみに、その頃から彼女は『サイクロップス三好』と呼ばれるようになった。



 そんなこんなで。

 毎日、ありとあらゆる女性の悲鳴を鼓膜に焼き付けながら過ごす日々。

 おかげで就寝時でさえも、夢うつつで女性の嬌声が聞こえたりする。

 なのでいつも寝不足気味だ。参った参っただぜ、まったく。


 ただ、そんなはた迷惑な能力でも時には役立つ事もあるのだ。



 ♀ ♀ ♀



 ――例えば、昼休みの購買にて。


「「「やんややんやー! やんややんやー!」」」


 レジの前で押し合いへし合いを繰り広げる生徒たち。

 もちろん、そこには女子しかいない。

 この場ではもはや、エキストラ・モブたる男子どもに購買権はなかった。


 ……ただ、俺を除いてだが。


「ちょっとすまん」


 ごった返す生徒の波にひと声かける。

 するとたちまち、彼女たちの間……レジに通じる一筋の道が開くのだ。

 それはまるで「モーゼのなんとか」のごとしだ。


「やぁぁぁぁ~んっ!」

「きゃいぃぃぃん!」

「そこらめぇーーーー!」

「ばばばばばばばばぁぁん!」

「パンツが、ぱんつがぁぁぁぁーっ!」

「ンンっんひぃぃぃ~~!」

「!!」


 ……ついでに、俺が欲しかった「やきそばパン」を頭ごなしに注文してくれる女子たちなのだった。


「毎度あり、鹿村くん……って、どうしていつも目を閉じてるんだい?」

「い、いやぁ~。ちょっと諸事情で」


 さすがに購買のおばちゃん相手に能力を発揮するのは心が折れそうなので全力で回避している。



 ♀ ♀ ♀



 まあ、この能力も「良いとこ半分、ヤなとこ半分」……つまりは損得でいうと、他の人間とそう変わらないと思う。


 俺は、それなりに楽しく学生生活を過ごせているって事なのだ。



 ♂ ♂ ♂



 そんなある日の事だった。


「今日はこのクラスに新しいお友達が来るわよ~」


 けして俺の方を見ることなく、サイクロップス三好がHRを進める。

 どうやらこのクラスに転校生がやってくるらしい。


「先生~。それって男の子ですか? それとも……」

「ええ、その子は……とっても可愛い女の子なのよねぇ……」

「「「おおぉー!」」」


 小鳥の質問に引きつった笑顔で応じる先生。

 そして周囲の興味津々な歓声には、「あらら~」とか「また一人、大人の階段登っちゃうんだねぇ……」などと哀れみの声も混じっていた。


「では、白崎しらさきさん。どうぞ中に入って!」


 と、先生はなぜか扉の方まで小走りで向かい、その転校生を支えるような動きを取っていた。

 いったい何なんだろう……。


「あ……」


 その理由はすぐわかった。


 教室にまず入ってきたのは、ねずみ色のシンプルな……杖だった。

 トントンと、床を確認するようにして小刻みに揺れる。


 その次に、黒い髪を肩下まで流した華奢で色白な少女が姿を現す。


 教室中が、さっきとは別の色を帯びてざわめく。


 「キレイな子~」

 「でも、あの子……目が」


 そう。どうやら彼女は目が不自由らしく、その顔には、ガーゼのような白い眼帯がかけられていたのだ。

 ……しかも、両目ともに。

 おかげで、端正なはずの顔も半分ほど隠されている。



 やがて、白崎と呼ばれる少女は先生の支えを受けながら教卓の前に立つ。


「では、自己紹介をお願いしますね」

「白崎ほとりでござる。それなりにヨロシク……ぐっ」


 これまた、その可愛らしい容姿に似つかないしゃがれた声にて挨拶。

 そして杖を持たない方の手……親指をグッと突き立てた。


(へ、変なやつだな……)



 それが、両目眼帯少女――『白崎ほとり』との出会いだった。



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