2話 俺のクラスは結構マズい。
いまだぜぇぜぇと肩で息する小鳥に肩を貸しながら、何とか登校。
「ひぃ、ひぃ……。も……もうやだ……! やだやだやだあぁぁ~!」
「何癇癪起こしてんだよ」
「たかちゃんのせいでしょっっ! あんな電車の中でヤラれちゃうなんてぇぇ……」
せわしなく内ももをモジモジさせながら恥ずかしさに悶える小鳥。
いくらワザとじゃないとはいえ、さすがに悪いことしちまったな。ほんと、俺の能力にも困ったもんだぜ。
そんなこんなで教室に到着した。
すぐにクラスの中心的存在の生徒(♀)が挨拶してくる。
「あ、おはよ! 小日向さん!」
「うん、おはよぅ~」
「それと、鹿村く……ふぅぅぅぅんっ!」
「おはようさん」
そして、人懐っこい小動物系クラスメイト(♀)も。
「小日ちゃ~んっ。鹿村ちゃ~んっ。おっはよぉ~……ぉぉぉぁぁぁああんっ!」
「うっす。今日も元気だな」
席に向かう途中に、一つの席を囲む談笑する女子グループABC(♀♀♀)の脇を通る。
「あ、小日向さんに鹿村くん。今日も二人仲良く登校だったんだねぇ……ぃぃぃぃやぁぁぁんっ!」
「ええっ!? いや、これはただ……家が近くだからたまたまね……っ!」
Aの言葉を受けて、小鳥はいつもの弁解を始める。
ただ揃って登校するくらいでそこまで慌てる必要なくねぇか?
「まあまあ、仲良しってのは良いことだよ……おおおおおんっ!」
ボーイッシュなBもすかさず便乗してくる。どうやら小鳥をこのネタでイジる腹らしい。まあ、女子同士お決まりの戯れだ。俺からは何も言うまい。
「え、Aちゃんも、Bちゃんも……あんまり小日向さんからかっちゃ……ダメだよ……」
少し言葉足らずな大人しめ女子Cちゃんだけは小鳥をフォローしていた。
ただ、注意された張本人たちは既に床にひれ伏していたが。
おいおい。人の話はちゃんと聞いてやれよ?
まあ……仕方ない。
礼儀を知らない二人の女子に代わって俺が彼女に礼を言っといてやるか。
「Cちゃん、ありがとうな。小鳥のこと思ってくれて」
そして、軽くCちゃんの頭に手を乗せる。
それが照れくさかったのか、
「きゃきゃ……きゃいいいぃぃぃん……っ!」
Cちゃんは顔を赤らめ、そのまま机にダイブするのだった。
♂ ♂ ♂
俺は自分の席に腰を落ち着けて一呼吸。……ふう。どうしたもんか。
というのも、登校してからここに着くまで……どうしても女子の叫ぶ回数が二桁を切らないんだよな。
……ん? 嫌なら目隠ししろって? 前見えねぇだろうが。
ただ、おかしな話だ。
この学校の生徒ならみんな……少なくとも、同じクラスのヤツらなら全員、俺の能力については知っているはずだ。前の校内新聞の注意欄にも大きく載せられていたからな。
それが怖いなら俺をとことん避ければいいはず。
なのに、このクラスの女子たちと来たら、全くそんな素振りを見せない。むしろ能力を知られる以前よりも俺に構ってくる頻度が上がってる気さえする。
それが何でか……何となくわからなくもねぇんだけどさ。
そこを言っちゃうのは、さすがに野暮ってもんだろ? 少なくとも男のやることじゃねぇ。
まあ、いずれこの状況も慣れてくるだろう。現に今は能力発覚当時みたく驚くことはなくなってるしな。
習うより慣れろ。
案ずるより産ますが易しってヤツだな。
参ったぜ、まったく。
「はいは~い! 席についてね~。HR始めるわよ~」
いつのまにか、教師が黒板の前までやってきていた。
ん? よく聞けば、いつもの担任のよし子先生の声じゃないな……。
見れば、よし子先生よりも幾分若い、まだまだこれからって風貌の女性がそこにはいた。
「ええ。まず、あなたたちの担任だったよし子先生ですが……。急病のため入院することになりました」
その言葉に、クラス中にざわめきが走る。
「なので。今日からしばらくは、私が代理として担任をさせていただきます。みんな、どうぞよろしくね」
そしてそのまま黒板に自身の名前を書いた。後ろでくくったポニーテールが快活な印象だ。
『三好ひよ子』
……ううん、何か教師らしからぬ名だな。
でも、案外人の良さそうな先生だ。見た目からして若そうだし、明るそうだし、すぐクラスとも馴染めるだろうな。
「先生ー」
「ん? なぁに?」
「よし子先生は、何の病気なんですかぁ?」
ふいに小動物系女子が先生に無粋な質問をした。
おいおい、先生の病名なんてプライベートなこと教えられるわけねぇだろう――
「性依存症よ。それもわりと重度の」
――即答じゃねぇか! しかも結構知られたくねぇ部類のヤツだし!
そういえばよし子先生……最近はやたら息を荒げてたな。大人の社会って結構殺伐としてるんだろうか。
まぁ、俺にはどうすることもできねぇけどさ。
それにしてもこの新担任……結構酷い先生だな。
この人にはあまりプライベートを知られてはいけないかもしれない。
要注意だ。
俺は脳内に彼女の姿をインプットすることに決めた。……て、
「あっ!」
思わず俺は声をあげてしまった。
こ、この人……。
ポニーテールの茶髪に特徴的な広いオデコ。
今朝の第一登山者じゃねぇか……!
まさか、俺たちの新しい担任だったなんて。
「ん? そこの君? どうかしたの?」
ヤバイ見つかった。てか、それは時間の問題か……。
「あ……ああああ!? あ、あなたは今朝の……って、ひゃいいぃぃぃんっ!」
どうやら、これからまた面倒な日々が続くらしい。