1話 俺の能力は非常に困る。
タイトルを見て苦手だと思った方は、ご注意下さい!
私の短編(4001~40000字)第九作目です。
高校一年生の俺――鹿村鷹司には生まれつきある能力が備わっている。
ひとたびその能力を発揮すると俺の周りの人間……というか女性たちは大騒ぎ。
おかげで俺は大変困っている。色んな意味でな。
その能力はどんなかって?
そりゃあ……
『どんな女性でも目力ひとつで快楽の頂へと導いてしまう力』
……というヤツだ。
♂ ♂ ♂
春も終わり、そろそろ梅雨入りしそうかという頃。学校生活もようやく慣れてはきていた……一応な。
通学途中の電車の中、登校時間なのに今日は案外空いていた。俺は長いすの一番端に腰を下ろしている。
ガタゴトと音を鳴らす電車は少しずつスピードを落とし、学園前駅の一つ前の小さな駅に停車。
扉が開くと同時に次々と入ってくる乗客。
その中に大荷物を抱えたスーツ姿の女性がいた。快活なポニーテールが目を引いた。
おそらく二十代前半、まだまだ社会の波に揉まれている最中の雰囲気が滲み出ていた。
彼女は俺が座るちょうど真正面に荷物を置く。
いかにも涼しげにつり革を握っているが、実はかなりへばっているのか、何度もその広めなオデコをハンカチで拭っている。
ううん……仕方ない。
ここは男の見せ所ってヤツか。
席を譲ってあげよう。
「あの、お姉さん」
「え?」
「ちょっとお疲れのようですし、よかったらここ座って下さいよ」
「あ、ああ……どうもありがと――」
俺が立ち彼女が礼を言いかけたところで、互いの視線が交錯。その途端――
「――はっひぃぃぃんっっ!」
彼女は艶っぽい声をあげた。ついでにヘナヘナと俺が座っていたスペースに崩れ落ちる。
しまった……。またヤッちまったぜ……。
また一人、女性が俺の目力の前に登頂してしまった。
周りからは奇異の目。でもそれはすぐに収まる。
ただ、さっきまで俺の隣に座っていた一人の少女だけはそのジト目を解除していなかった。
「もお~、たかちゃん! またやっちゃったんだ~!」
「い、いやぁ……ワザとじゃないんだけどな?」
「でも、もっと気をつけなきゃダメだよぉぉ~」
ジト目……でも微妙に視線を逸らしながら地団駄を踏むのは、俺の幼なじみでクラスメイトの小日向小鳥。
ショートカットで揃えた黒髪を存分に揺らして、丸い顔をさらに丸く膨らませている。でも、黒目がちで円らな瞳は見ない。
もちろん彼女にも例外なく能力を発揮してしまうからだ。
……そういえば、俺がこの能力を初めて自覚したのもこいつがキッカケだったな。
♀ ♀ ♀
あれはたしか中学二年の時。
俺の両親が揃って出張に出かけた日、小鳥が夕食を作りに家に来てくれた。
なぜかウキウキな様子で手料理をテーブルに並べ、俺が一口目を食べる時には頬杖を突きながらジッと眺めてきていた。ちなみに肉じゃがだった。
そんな小鳥の表情を不思議に思いつつ、ほくほく湯気を立てるジャガイモを口に含む俺。
「あ……美味い!」
「そそそ、そう? やたっ」
俺たちは笑顔で視線を交わす。
だがその直後に小鳥の様子が一変したのだった。
「あ……あれ……? あぅ……あ……」
「ん? どうした?」
俺は慌てて席を立ち、小鳥の顔をのぞき込んだ。
小鳥の顔は真っ赤になっていて……しかも目も潤んでいた。しかも、やけにトロっと蕩けていて……俺は焦った。
「い、いや……何だかね……あ、ごめん……っ。見ない……で……」
必死で声を押し殺す小鳥だったが、やがて――
「あっああああああ~~んっ!」
……それが、俺が初めて目にした女の子の登山だったのだ。
当時何も知らない俺は混乱。
とりあえず下山途中の小鳥を家まで運び、出張から帰ってきた親父にその事を相談。
すると、
「お前も、とうとう目覚めたんだな…………。ふぁ~いとっ」
とアホな応援を受けた後、自分の能力についての説明を受けるのだった。
♀ ♀ ♀
「あの時はさいあくだったんだからね~~! いつか絶対責任取ってもらうんだからぁ!」
「あれは知らなかったんだよ……。それに、責任ったってどうすればいいんだ?」
「そ、それはその……」
そのまま顔を赤く染めて俯く小鳥。そしてちらちらとこっちの様子を伺ってきた。
いったい何想像しやがったんだ……
「「あ」」
つい、互いの視線が合わさってしまった。そして案の定。
「きゃひぃぃぃ~んっ!!」
小鳥は叫びながら、未だ寝そべるスーツ姿の女性の上にしなだれかかるのだった。
まったく……朝からハードなもんだぜ。
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