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24  里帰り

世界観が滅茶苦茶ですが、スルーしてくれると嬉しいです。

 何だか鬱々とした気分だった。

 祐樹様のこともいろいろあってゴチャゴチャしてるし、桜子さんの疑惑もますます濃くなっていくばかり。

 わたしが慕っていた人たちの別の顔が次々と出てきて絶賛混乱中だ。

 朝起きてからぼーっとし、のそのそ着替えるときも意識を半分飛ばし、朝食を食べているときには気づいたら手が止まっている。

 夏休みで仕事が無いのをいいことに、何にもせずにひたすらぼんやり。汐音に声を掛けられても生返事で、美味しそうなおやつを見ても何の反応も示さなくなったわたしにたまりかねたのか、汐音が実家に帰ることを提案してきた。

「ご実家に帰られて、ご家族の皆さんとゆっくり静養してくるのがよろしいかと思いますが」

 特に断る理由も無かったので、わたしはそうすることにした。


 必要最低限のものだけを纏め、わたしはシャネリア伯爵家の領地カスカードへと向かうことにした。汐音が王宮のほうで馬車を用意すると言ってくれたが、王宮のあんなにお洒落で豪華なもので帰省したら、家族がビックリするに違いない。それは皆の心臓に申し訳ないから、王宮を出て少し歩いたところで手持ち無沙汰にしていた馬車に乗った。

 いいと言ったのにわざわざ着いてきてくれた汐音に手を振り、わたしを乗せた馬車は動き出した。


 だが、これでも贅沢だと思う。

 6人くらいは座れそうな馬車をひとりで占領しているなんて。おかげで話す相手がいなくて少し寂しい。

 しかも、王宮の馬車と比べては雲泥の差だが、民間の人が旅行に使ったりする馬車と比べたら、これはとっても豪華である。何しろ、座席は程よくふかふかしてるし、ランタンも付いているし、毛布も付いているし、派手ではないけど慎ましやかな装飾もされている。

 それらを眺めながら、わたしは三人は座れる、片側の席に横になった。これからは長い。宿に着くまで、景色を見るのも悪くはないけど良くはない。軽く、仮眠を取ろう。

 そう思って、毛布を掛け、わたしは目を閉じた。

 馬車の心地良い揺れが、規則正しく伝わってくる。


 ふと目を覚ますと、外は薄暗くなっていた。とっくに王都は出て、カスカードへ近づいているのだろう。王都からカスカードまでは丸一日とちょっとかかるので、そろそろ宿に泊まるかな。

 体を起こし、とりあえずランタンで明かりを灯す。ほわっとした暖かな橙色の光が点いた。

 毛布を外すと、少し肌寒かった。この国の夏は、昼は蒸し暑いが、夜には気温が下がって涼しいくらいになる。

 もう一度毛布を掛け直して、馬車の窓の外を見た。田畑が広がり、所々に明かりの点いた民家が点在している。

 と、馬車がスピードを落とした。

 そろそろ宿に着くのだろうか。

 窓から顔を覗かせると、すぐそこに民家にしては大きくて賑わっている建物がある。

 わたしは息を吐いた。そろそろ疲れてきたところだ。

 馬車が停まる。

 御者さんが降りてきて扉を恭しく開けてくれた。それにお礼を言って馬車を下りる。

 そのまま宿に入る。確か、汐音が部屋を取っておいてくれたはずだ。その通り、名前を言うとすぐに通してくれた。

 

 そこは五階建ての五階。一番いいトコの部屋なんだろうなぁ。

 簡素だが、しっかり掃除してあって細やかな気遣いを感じる部屋だった。

 柔らかなベッドに、ワンセットのテーブルと椅子。シャワーとトイレも付いている。

 荷物を置いて食堂に行き、夕食を取る。豪華ではないけど、体に良さそうで美味しいし、お腹いっぱいになった。

 食堂にいた他の旅人達と、少し他愛無い話をしながら紅茶を飲む。皆ワイン飲んでるけど、わたしはまだ未成年なんだよな。18歳にならないと。

「へえ、流華ちゃんて王宮直属学者団に入ってるの? すごいじゃん」

「そんなそんな…。大したもんじゃないです」

「いやいや、俺なんかよりめちゃくちゃ頭いいだろ? 羨ましいなー」

「おい、お前なんかと比べたら彼女が可哀想だろうが」

「そりゃ失礼だなー。でも事実か、否定できねぇのが悔しいや。ハハハハ」

「そうですかねー?」

 そういう彼らは、ワインをがばがば飲みながらわたしとも気楽に話してくれる。

「ねぇ、流華ちゃんすごい可愛いじゃない。こんな美人さんが一人旅なんて、大丈夫?」

「いえ…そんな、美人なんて……」

「ちょっと、見てよ! 肌がすごい綺麗よ。なんてきめ細かくて艶があるのかしら」

「あの……」

「このプラチナブロンド、すっごいサラサラできれーい……。枝毛一つ無いし、纏まりがあるし、この微妙なうねり具合が素敵よ」

「いえ、そんなこと…ないです」

 そういう彼女たちは、旅する男たちの連れの奥様たち。わたしを人形か何かと間違えていないでしょうね。

 でも何だか、こういう騒がしい空間は楽しい。

 軽快な音楽に合わせて体を揺らし、楽しそうに踊る人。歌いだす人。トランプで盛り上がる人。

 ただ、今楽しいだけ。何かが残るわけでもない。でもやっぱり、こういうのは楽しい。宿とか酒場とか、そういうところでしか味わえない空っぽな楽しさ。

 ダメだ、今夜は夜更かしになりそうだ。ゆっくり休まないといけないのになぁ。

 結局、部屋に戻ったのは日付を回るか回らないかぐらいのときだった。まだ騒いでいる人もいるけれど、わたしはまだ大人と子供の間ヤングアダルトだから、あんまり睡眠時間を減らすと成長とお肌に関わる。もうちょっと身長も伸びたいし、出るとこ出てほしいんだよなぁ。

 そう思いながらシャワーを浴び、ベッドに潜り込んだ。

 疲れていたのだろう、わたしはすぐに眠りに落ちた。


 翌朝。

 外が明るくなっていることに気づき、わたしはベッドから起き上がった。

 顔を洗い髪を梳かし、着替える。食堂に降りて軽い朝食をいただいた。わたしには理解できないことだが、昨夜わたしが部屋に戻ってからも随分騒いでいただろう人たちも、けろりとした顔で朝食を採っている。二日酔いとか無いのかな。お酒にすごい強いんだろうな。

 昨日たくさん話した人たちに挨拶をして回って、わたしは早々に宿を出た。今から出れば夕方頃には着けるだろう。暗くなる前には着きたい。きっと汐音が、実家にわたしが帰ることを連絡してくれているだろうけど、夜遅くなってから着くんじゃ使用人も可哀想だ。

 また昨日と同じ馬車に乗り、カスカードへ向かう。

 今日は景色を見ながら行くことにした。

 農村の風景が前から後ろへ流れていく。あまり変わりのない風景が続く。やっぱり飽きるな。

 わたしは座席にもたれて上を見上げた。繊細な装飾がなされている。風景よりも見応えがある。

 時間がゆるゆると過ぎていた。

 日が真上に昇った頃、わたしは宿でもらったサンドイッチを食べた。何の変哲もないけど、美味しい。

 でも本格的に暇になったので、わたしは目を閉じて意識を手放した。


「……! ……! …リアさん!」

 はっとわたしは目を開けた。

 視線をやると、御者さんがわたしの肩をゆすっていた。あー、すみません。なかなかぐっすり寝てましたねー。

 空の色は、オレンジに変わりかけている。夕方までに着けたみたいだ、良かった。

 御者さんに謝罪とお礼を言い、荷物を持って馬車を降りる。代金とチップを渡すと恐縮されてしまった。

 わたしは大きく伸びをした。

 玄関の扉から、馬車の音を聞きつけたのか梨菜が顔を出した。満面の笑みで手を振ってくる。手を振りかえすと、その上からお母様の顔も出てきた。

 久しぶりの我が家に、久しぶりの家族。

 とりあえず、ゆっくり過ごそう。

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