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19  暑いのは嫌い!〈サマーパーティー前編〉

 ……暑い。

 暑いです。

 ついに本格的な夏がやってまいりました。


 じめじめした湿気の高い空気に、もわっとする熱気。夕方になってから少しは収まったけど、これは収まった内に入らない。

 数日前から怪しいとは思っていたんだけど、今日から突然気温が上がり、もう夏!

 大学生のときは、家にひとりだったから下着姿で過ごしていたんだけど、ここではそうもいかない。

 まず第一にわたしの部屋にはわたし以外の人がいるし、なぜだか人をコーディネートするのが生き甲斐な女の子もいる。可哀想に、別に可愛くも美人でもないわたしがマネキンだなんて面白くもないだろうに。…ってか自分がマネキンにされてることを先に嘆こう、うん。わたしってば人が良すぎるよー!

 ああいえ、何でもないですが? とにかくね、暑いのだよ!

 そ・れ・な・の・に!

 実は今日、サマーパーティーなのだ!

 ……あぁ、愛しきわたしの平穏な日々。嫌だよ、本当に行きたくないよ。暑いのにあんなに人がいっぱい集まってさ、何が楽しいの? 有り得ない有り得ない、あの人口密度の高さ。そして暑くても変わらない御令嬢たちのテンション。あぁ暑苦しい。想像しただけで反吐が出るわー。

 わたしは、開いたウォーキングクローゼットの扉の向こうにチラリと視線をやる。――戻す。

 溜息が零れる。おっと幸せが。

 ウォーキングクローゼットの中には、わたしをマネキンにするのが生き甲斐だという可哀想な女の子(年上&侍女)がきゃぴきゃぴと楽しそうに今日のドレスを選んでいる。しかも今日は、ひとりじゃない。

 汐音、美咲、優子。いつの日かと同じメンバーだ。

 嫌な予感しかしない。せいぜい涼しいドレスを選んでほしい。

 わたしは本を開いた。現実逃避とか言わないで。

 この蒸し蒸しした湿気のせいか、本も少しふにゃんとしてる気がしないでもないけど。


 わたしが半分くらいまで読んだ頃。

 ドレスとか靴とかアクセサリーとか化粧道具とかを抱えた侍女(×3)がウォーキングクローゼットから出てきた。お疲れ。

 いや、全然疲れてない。むしろ、入ったときよりぴんぴんきゃぴきゃぴしてる。若いっていいですね…わたしのほうが年下だけど。

 侍女(×3)が持っているものは、主にエメラルドグリーンのような色で統一されていた。

「うふふ、絶対流華様に似合いますから、楽しみにしててくださいね~」と汐音。

「今回も素敵な流華様の魅力を最大限引き出して、男共をメロメロにしちゃいますよ~」と美咲。

「わたくしたちの腕を信じて、流華様はお座りになっていてくださいな」と優子。

 う、うん。みんなしてイミワカンナイコト言うの止めようか。

 まず汐音、絶対と断言できる理由が分かんないし楽しみにできるかっ!

 次に美咲、素敵な魅力はないし男共をメロメロなんてできるわけないでしょうがっ!

 最後に優子、今更だけどわたしはマネキンじゃないから大人しくお座りとかできないからっ!

 ――というわたしの心の声が届くはずはなく。侍女(×3)は嬉々としてわたしの支度に取り掛かった。

 え、わたし? わたしはもう座っているだけで良いのですよ、ええ。

 ……あー、ちょっと意識飛ばしてもいいかな。


 正直なところ、意識は飛んでたに等しい。

 侍女(×3)に何言われたか何にも覚えてないし、勿論何と返したかも全く覚えていない。ただ暑いのと暇なのと侍女(×3)のテンションに着いていけないのとで、精神力はすり減らされたけど。

「流華様ー! 完成ですよ!」

 と言われて我に返った。

 どこからか、優子か大きな全身鏡を持ってきて映してくれる。うん、別にそんなことしてくれなくていいよ? 自分の平凡な容姿とかわざわざ鏡で見たくないしね?

 …でも一応見ておこう。

 エメラルドグリーンのドレスは、今回はショートラインの可愛らしい感じだった。前は膝丈、後ろはくるぶしまであるが、まぁ涼しそうだ。胸元と背中が開き過ぎてる気がするけど。髪の毛は一応考えてくれたのか偶然か、横でひとつに纏めて、大きな黒×ピンクの花が付いたカチューシャが付いている。ネックレスとブレスレットは、いろんな宝石がわりとじゃらじゃら付いてる奴だ。うぅ、重そう。

 侍女(×3)は当の本人であるわたしを置いてきゃぴきゃぴと盛り上がっている。…あ、うん、そうだよね。マネキンの飾り付けが終わった気分なんだよね。

「キャーー! 流華様すごい可愛い!」

「可愛いだけじゃないわ、すごくセクシーよ! ああんもう、15歳の少女とは思えないこの色香!」

「男共の視線はこれで釘付けよ!」

「この色合いなら、ブルーが多くなりがちなサマーパーティーでも人目を引くわね!」

「スプリングパーティーの五倍以上! 五倍以上素敵だわ!」

「わたくしが男だったら絶対嫁に呼ぶわ! 婿に行ってもいいし!」

 ………………どうしようか、この侍女たち。あれかな、ついに狂っちゃったのかな。

「この肌の露出具合にドキドキしますわ!」

「ああ分かる、分かる! 見えそうで見えない、とかね!」

「まずこの透明感溢れる美しい肌に目を奪われるわ! それだけで男共はイチコロ!」

「通りすがったときにふわっと香る、この甘いとも爽やかともいえない優しい香りにも殺られるわ!」

「流華様の近くを通ったものはもう終わりね!」

 ………………どうしようか、この侍女たち。狂ったどころじゃなく、何かヤバい感じな気が。突っ込みどころが多すぎて困るんだけど、どこから行こうか。

「あのー、ちょっ」

「しかも話してみたらこの聡明さよ?」

「下は10歳、上は制限なしってレベルね」

「どうしましょう、流華様が男たらしになってしまいますわ」

「いやだ、流華様に限ってそれは無いわよ」

「どっかの男が言い寄ってくる前に助けて下さる方もいることだしね!」

 ………………どうしようか、この侍女たち。人の話さえ聞けないレベルになってしまったらしい。ていうかわたし、主だよ一応。君たちの主ですよ。…まぁ、今更そんなこと言っても無駄なのは承知し――

「きゃっ、流華様、お時間が! 申し訳ございませんわたくしたちのおしゃべりが続いてしまったせいで!」

 言われて時計を見てみれば、おっともうすぐでパーティーも始まりますね。外はもうすぐ闇に落ちます。

「いいのよ、ゆっくりで。時間が決まっているわけじゃないしのんびり行かなくちゃ」

 言葉通り呑気に動き出すわたしを心配そうに見つめる合計6つの瞳。何だか緊張するんだけど?

 部屋を出ると、廊下をぱたぱたと駆け抜けている執事さんの格好の人がいた。そういえば今回も学者さんたちは準備に駆り出されてるんだよね。わたしは今回、貴族だということで免除されたけど。前回? あ、前回は貴族だと知らなかったそうで。別にいいんだけどね、メイド服さえ・・・・・・着なければ・・・・・使用人の仕事をしたって。でもまあそれは、王宮が許してくれないのでわざわざ掛け合ってまでやりはしないけど。


 正殿に向かうと、すでに人でごった返していた。あぁ、暑苦しそう。行きたくないなぁ。でも今更そんなこと言ったら侍女(×3)と桜子さんにどんな報復されるか分かんないしなぁ。

 実家に頼んで転送してもらった招待状を受付で見せ、会場に入る。思ったこと、暑い。

 待ち合わせていたところに行くと、すぐに家族を見つけた。今日は、お父様お母様お兄様梨菜と全員お揃いだ。軽く挨拶をすると、お父様が愉快そうに言ってきた。

「いやー、流華が自分からパーティーに行きたいなんて言うとは思わなかったよ」

「気になる殿方でもいらっしゃるの?」

 興味津々の表情のお母様。

「ううん、大学での友達の桜子さんに無理矢理来なさいって言われて」

 わたしは苦笑した。「なぁんだ」と唇を尖らせるお母様。すみませんねぇ。

「何よ、また祐樹様に会いたいとかじゃないの?」

 突然梨菜が耳元で囁いてきた。ビックリしてこけそうになる。

「梨菜!」

 体勢を立て直して文句を言うと、「まあまあ」とお兄様に宥められた。

「何を言われたか知らないけど、こけたのを他人のせいにするのは良くないな」

「お兄様まで!」

 憤慨するわたしの頭を、お兄様はぽんぽんと叩いてくる。

「そう怒るなって」

「……」

「そんなに驚くってことは、ホントはそうなんでしょー? 何も嘘つかなくったっていいじゃないのよー」

 またもや耳元で囁いてくる梨菜。ホントに止めろ、心臓に悪い。

侍女(×3)がどこぞのオヤジみたいな台詞を滔々と語ってしまいました…。

最近、おかしな方向に暴走しがちな侍女たち…w

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