俺の代わりに生きて
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病院に入院している恋人の拓。余命一週間だそうだ。彼も私も知ったのは半年前。でも、彼は私が知っていることを知らない。
そして、とうとう彼が息を引き取る日。
ちゃんと笑えてた? 私。彼を不安にさせないように、ちゃんとできてた? 唯一ついた私の嘘。
「大丈夫、ちゃんと治るよ。だって、約束したじゃない。またあの場所へ行くって」
「うん、そうだね」
ふふ、と笑いながらそう答える彼に、私も笑みを返す。でも、その嘘はその会話のことではなく。
彼が亡くなって数日後に手紙が届いた。
一人、部屋に篭っていた私のところに、郵便受けから流れ落ちてきた一通。開けてみると、そこには彼のもう、力のあまり入らなくてたどたどしくなっている字。
『君が俺の余命知らないフリしてたの、知ってたよ。ありがとう。全部笑顔で隠してくれて。君の愛情がとても嬉しかった。俺は君に本当の笑顔をあげることはできた? できてたなら嬉しいんだけど。でも、いいよ。俺のことは心の片隅にでも、ただ、忘れないでいてくれたなら、君はどこか、俺ではない誰かと幸せになって』
そんな内容だった。
でも、その裏側に消しゴムで消しきれなかった文。
『ううん、嘘。君はもう幸せになれない。だってもう俺、居ないんだ。俺がいないと、君、幸せになんてなれないよ。俺だってそうだから。―――言っていい? 俺、死にたくない。死にたくないんだ。これから先の未来、俺の知らない誰かと君が笑っている情景が浮かぶ。正直そんなのが頭によぎっただけで耐えられなくて、点滴引き抜いたりしてた。でも、君わからなかったでしょ。俺、必死だったもの。看護婦さんにしつこくお願いして黙ってもらってた。こんな俺、見せたくなかったんだ。だから、最後まで君の笑顔だけ持っていけて本当に良かったと思ってる。なんでわかるかって? そりゃわかるよ。だって君のことだもの。これから死ぬまで俺、更に頑張るし』
そんな内容だった。
そして、その裏側の紙の一番下。
『最後に。本当に有難う。雪。君は長生きしてね。ずっと、笑っていてね。有難う。愛してた。ばいばい』
そう書かれてた。
でも、駄目だよ。今の私、赤ペン先生ね。
『愛してた≠愛してる』でしょ。駄目ね、拓。
でも、本音曝しても気遣ってくれる拓が好き。その優しい愛に包まれて私は今も幸せだよ。
だから涙なんて出ない。出さない。だからこれは、涙じゃない。
でもね、いいの。だってね、私のついてた唯一の嘘。それじゃないもの。
ごめんなさい。私ね、本当は私もなの。私も、余命一ヵ月なんだって。末期がん。私の名前と一緒で、春になったら溶けて消えちゃう。
本当は私、同じ病棟で階違いで入院してたの。そこから、毎回、お化粧して、綺麗な服を着て、拓に会いに行ってた。それはさすがに知らなかったでしょ。ふふ、私も頑張ってたんだよ。
理由、拓ならわかるでしょう。だからあえて言わない。
「好き、好き。愛してる」
一ヶ月後、私は医師の宣告どおり、息を引き取った。もちろん拓からの手紙を胸にかかえて。
びっくりするかなあ。
空で逢えたらいいね。おやすみ。
二人でおはようって、言いたかったな。
ここまで読んでくださった方、本当に有難うございました。