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破壊神レヴ

破壊神視点の話となります

 破壊神レヴ。彼女は期待の新星、破壊界のホープ、約束された成功者などと呼ばれ、天才として脚光を浴びていた。その実力に疑うところはない。彼女は破壊神になるや、次々に世界を破壊、有力破壊者を大量に獲得。同期の破壊神を圧倒的に凌ぐその手腕は、多くのベテラン破壊神を唸らせた。

 だがしかし、最年少での昇進も間近と噂される頃、彼女に悲劇が襲いかかる。

 彼女がちょっと箸休めにでもと、何の気なしに選んだ世界。それは何の変哲もない世界のはずだった。大した文明も持たず、強力な生物もいない、面白味の欠片もない。破壊難度は最低ランクのE、そんな世界。


 その日レヴは自分のオフィスに着くと、颯爽とコンピュータを起動させた。OS破壊ちん8の見慣れたロゴが表示され、ログイン画面に切り替わる。IDとパスワードを入力、ログインする。メールボックスを確認した後、WDSワールドデストラクションシステム.exeを実行した。

 レヴは自分の受け持っている世界の破壊進行状況を見る。どの世界もきわめて順調に進んでいるようだ。次に、昨晩新しく思い付いた高効率の破壊プランを試すのに最適な世界を検索する。条件に合致する世界が大量に表示された。その中から適当に選択すると、送り込む破壊者の数を設定し、破壊を開始した。

 

 レヴはプラン通りに進められるよう、的確に天啓を与えていく。思惑通り、特に何の問題もなく、破壊は進行された。破壊進行率が五十パーセントに達したところでレヴは確信する。この作戦は素晴らしい、間違い無く破壊界にビックウェーブを起こすだろう。もう後は自分の元につく破壊神見習いに任せよう、そう考えた矢先、異変が起きる。

 一人の破壊者がやられたのだ。レヴは何事かと視線を走らせる。どこの国の軍隊にやられたのか、分断は完璧だったはず、あのビギナー破壊者め油断したか──

 やられた破壊者の上空に視点を合わせると、そこには一人の人間がいた。その人間の男は血に濡れた拳を振り払い、森の中へと歩き去った。

 レヴは呆然とする。いくら成り立てほやほやの破壊者だったとはいえ、人間一人に後れを取ったと言うのか。破壊難度A以上ならまだ分かる。有り得るかもしれない。けれども、ここは破壊難度Eのはずだ。

 レヴは急いで、男の詳細を調べる。だが、出生、生い立ちに不自然なところはない。脅威度、カルマ値、共に低い値を示している。

 システムのバグだろうか。何にせよ、確かめる必要がある。レヴは近場の破壊者に天啓を与え、対象を件の男に設定する。ついでに警戒するようコメントを付けておいた。

 すぐに破壊者が男のいる森へと向かう。やがて、戦闘が始まり、一瞬で蹴りが付いた。男の圧勝だった。

 ふらり、とレヴは頭を抱える。何だこのイレギュラーは。

 レヴはうなだれたが、すぐに頭を切り替える。相手は所詮一人、何を慌てることがあるのか。落ちつくんだ、天才はこんなことで冷静さを欠いたりしない。

 プランは崩れるが仕方が無い。まだ試すチャンスはいくらでもある。レヴは世界に送り込んだ破壊者四十八人全てに天啓を与えた。

 ふう、と一息ついてレヴは席を立つ。風呂にでも入ってこよう。


 レヴが戻った時、破壊者の数は十に減っていた。

 おかしい。有り得ない。こんなことは。レヴは深刻な目眩で膝をつくが、すぐにはっとする。私は馬鹿か。同時に対象を叩かないでどうする。単騎でのこのこ行かせたらダメではないか。

 レヴは己の浅はかさを悔いる。この世界を壊したら、基礎から学び直すことで戒めとしよう、そう心に決めながら、天啓に対象を破壊する日付を追加した。かくして、十対一の戦闘が始まり、男が勝利した。


 レヴは地に崩れ落ちた。派手な音に、隣の同僚が様子を見に来る。それをレヴはシッシと手で追い払うと、震える足で立ち上がった。

 私は天才だ。こんなところで躓くはずがない。こんな男一人すぐけちょんけちょんにしてやる。栄光の出世街道はもう見えているんだ──

 レヴはそう自分を鼓舞すると思考を整理する。この男は強い。並みの破壊者では叩くことができない。ならばどうするか。

 男の情報を詳細に表示する。その中に興味深い情報があった。


・家族構成、妹一


 これだ、これを利用しない手はない。レヴはすぐさま新しい破壊者を百ほど見繕うと、天啓を与えた。まず、五十が男を引きつけ、その間に妹を人質にとる。それだけの作戦だ。


 彼女は知らない。この安易な作戦が最大の過ちだったということを。


 予定通り妹を人質にすることで男を無力化できた。破壊者たちが容赦なく男をなぶり、虫の息というところまで追い詰める。レヴはほくほく顔でそれを眺めなら、コーヒーを飲んでいた。

 

 ところが、ここで想定外が起きる。男の様子に余裕ができたのか、破壊者が笑いながら人質を殺したのだ。

 

 レヴは盛大にコーヒーをぶちまけた。

 

 ば、馬鹿な。なんてことしてくれるんだコイツは。天啓に注釈付けてまで殺すなと書いたのに、あっさり破られた。人選を誤った。もっと吟味して決めるべきだった。いやでも、もうヤツも死にかけ──

 

 風前の灯火だったはずの男が蘇った。ゆらりと立ち上がる男に破壊者は誰も近づけない。当たり前だ。ディスプレイ越しにすら男の怒りが伝わってくるのだから。

 そして虐殺が始まった。人ではない、災害の如き力が吹き荒れていた。破壊者の全滅に時間は掛らなかった。

 レヴは動けなかった。しばらくして、自分が男に恐怖しているのだということに気が付き愕然とした。破壊神である自分が一人の人間に恐れを成すなんてあってはならないことだ。

 

 レヴは自分の頬を叩く。覚悟を決めた。今ここで適当な理由を付けて破壊放棄し、あきらめることは簡単だ。だがここで逃げたら、もう自分はダメになってしまう気がする。

 なにより、この男。コイツの大切なものを私は壊した。嫌がらせのように個人に執着し、壊すだけ壊して逃げる? そんなのは破壊神のすることではない。壊すなら全て、この男を含めて全部壊し尽くすのだ。それこそが破壊神のあるべき姿なんだ──

 

 こうしてレヴとその男、ヘルク・ディザスターとの長い戦いが幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

  月日は流れ、破壊神レヴの評価は激変していた。落ちた天才、狂人、ギャンブルで絶対失敗するタイプ、等々かつての輝かしい呼び名はすでになく、周囲は彼女を憐れみ、馬鹿にしていた。

 

 ヘルクとの勝負が始まってから序盤、レヴは様々な策を弄した。従順な破壊者を厳選し、陣を組ませ、連携させる。時には森に火を放ち、時には現地の人間を味方に引き入れ、時には魔法の力に頼った。しかし、そのことごとくをヘルクは乗り切った。力だけではない、頭も使って、全力を持ってレヴの破壊者を打倒した。

 レヴはやがて悟った。これはもう、力と力の真っ向勝負。

 

 レヴは破壊者を送り込み続けた。最大可能出撃人数分きっちり送り込み、足りなくなれば補充し続けた。レヴの破壊者のストックが尽きるのが先か、ヘルクが倒れるのが先か。戦いは消耗戦の様相を呈していた。

 

 その日もレヴは破壊者を送り込んでいた。戦いは数だよ、などとブツブツ呟きながら画面を睨み続ける。周囲の目線が痛々しいのに気づくこともない。直属の見習いが持ってくるコーヒーを目も合わせず受け取る。飲みながらレヴは焦燥感で額に汗を浮かべていた。

 破壊者のストックが一割を切っていた。もう後がない。

 ヘルクの様子を見る。疲労の色は濃い。木に背を預け、光の宿らない目で地面を眺め続けている。肉体の衰えも見て取れる。最近の戦いでは手傷を貰うことも増えてきた。

 

 後もうひと押しのはずだ。レヴはそう感じていた。そして今日、レヴが温め続けた秘蔵の破壊者たちを投入することで、勝負が決するとみている。レヴが信頼を寄せる、破壊実績の飛びぬけて高い猛者たち。彼らを持ってしてなお倒せなければレヴの負けだろう。その時は大人しく破壊界から去る覚悟だ。

 

 レヴはごくりと生唾を飲む。エンターキーの上に置かれた指先が震える。

 大丈夫だ。信じろ。押せ……今、押すんだ──

 キーは押され、運命の戦いが始まった。

 

 

 死闘。三日三晩にも及ぶ死闘だった。破壊者は全滅していた。

 ヘルクはまだ立っている。

 ああ、終わった。とレヴが思い、そっと電源を落とそうとした時、ヘルクが、すとんと、枯れ木のように、倒れた。

 

 レヴは放心する。現実味がなかった。倒れるヘルクの姿から目が離せない。ヘルクは動かない。閉じた目は、開かない。

 ヘルクの状態を急ぎ表示、そこに映るのは死亡の二文字。

 

 レヴはイスから転げ落ちた。隣の同僚がすぐに駆けつけ、レヴに声を掛ける。

 レヴは動けない。体にまったく力が入らなかった。

 気付けば、涙が出ていた。達成感なのか何なのか、色んな感情がごちゃ混ぜになって出た涙だった。

 次いで笑い。笑いが込み上げる。馬鹿みたいに笑いながら、跳ねるように起き上がる。戸惑う同僚の横を通り抜け、オフィスを出た。

 行かなければ、あの男に会いに。何を話そう。話なんて聞いてくれるか分からないけど、とにかく会話したい。いきなりフランクなのもどうだろう。最初は神っぽく喋ってみようかな──

 

 

 そうして彼女はヘルクと邂逅する。そこで自分がどうなるのか、そんなことは露程も知らない彼女は無邪気に笑っていた。

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