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yuki*yuki

作者: 空柳夢巳

今日は昨夜から降り続いている雪で、辺り一面真っ白。

上原あゆむの住んでいる見慣れた町は白銀の世界になっていた。

「すっご〜い!!眠気なんてふっとんじゃう」

あゆむはベッドから起きだして叫んだ。

身震いしながらも窓を開け、外の空気を吸ってみる。

「うッ…」

冷たくてノドがキンキンした。

でもそれが、すがすがしく気持ちがいい。

だって今日は、ただ寒いだけじゃない。

今日は雪が積もっているんだから!!

世界の全てが太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

しばらくそれを見た後、あゆむは何か思いついた。

そうだ、涼を誘おうっと!

涼とはあゆむの幼馴染である。

あゆむは幼稚園の頃、両親の仕事の都合でこの町に越してきた。

まだ慣れない生活に馴染めず、他の子どもたちにいじめられていた。

そんな彼女をヒーローのごとく救ったのが、市川涼(いちかわりょう)だった。

それからは何をするにも二人一緒だった。

というのもあゆむが涼から離れようとしなかったわけで、涼はたいてい、いい迷惑をしていた。

「もしもし涼!」

「………」

「外見た?外!!」

「………」

「ちょっと、聞いてるの!?」

「…あのな。今日は久しぶりの休日なんだよ。それにこんな朝早く…」

あゆむの声とはうらはらに涼はおいかりのようだった。

涼はサッカー部に所属していて、しかも強豪チームということもあり、毎日が練習の日々だ。

でも今日は大雪のため、練習が休みになったのだ。

そんな、めったにない休日をゆっくりと過ごそうとしていて、あゆむにたたき起こされたとなっては怒らないわけがない。

「いいから、外見てよ!」

「…知ってるよ。雪だろ」

「知ってるのに寝てたの!?」

「雪がどうしたっていうんだよ」

「あのね…」



今日は大雪のため部活は休みだと、連絡網で回ってきたはずなのに

学校の校庭にはサッカー部員の影が。

それは涼だった。

かたわらにはあゆむがいるのが見える。

二人はあゆむの思いつきにより、ココにいた。

話は数十分前にさかのぼる。

『涼、これから学校行かない?校庭は雪がすごいと思うの!!』

涼はこの電話が来た時、連絡網が回った後だったから、今日はもう少し寝ようと決めていた。

それなのに、こうしてあゆむに呼ばれ、寒い校庭に立っている。

なんだかんだ言ってもあゆむの無理な誘いにも最後には折れてしまう。

「分かったよ…じゃぁ少し待ってろ、今から支度するから」

「うん!!」


あゆむは涼のことが好き。

しかし助けてもらった時から好きってわけじゃなかった。

はじめはお兄ちゃんのような存在だった。

それが中学に入ってサッカーをしている涼を見てから、少しずつ涼の存在は変わっていった。

涼は私のことをどう思っているのかは分からない。

でも傍にいられるならそれでいい。

今は一緒にいて、笑ってるだけで幸せなんだ──…

「うわーすごい!!!涼見てる!?」

校庭の雪の真っ白さに感激して、はしゃいでいる。

「…………う゛ん」

「どうしたの?元気ないよ?」

「…ここまで来たものの、なんでこんな雪の日に……今日は部活だってないのに。寒い」

雪を見て、いつもより更に元気なあゆむとは対照的に、涼はふてくされていた。

「私だって寒いよ?」

マフラーを片手で掴んで言う。

「じゃ何で来たんだよ」

「分かってないなぁ、涼は。まだ誰も足を踏み入れていない雪に、足跡をつける楽しさはこの寒さをも上回るんだよ!」

人差し指を立てて、得意げな顔で言う。

そう言って涼の腕を掴むと、走り出した。

「おわっ」

「早く早く!!」

寒い中でもあゆむはいつもとかわらず、元気。

「…ぷっ」

「なに?」

「いやなんでも」

涼は寒がっている自分がおかしくなった。

いつもだ。

いつも、あゆむのペースに巻き込まれてしまう。

幼稚園のころから、ずっと。

でもそれも、もう慣れた。今は心地よいと感じる時さえあるのだから―――…


足跡をつけるのにちょうど良い場所を見つけた。

走っていた足をとめる。

しばらくあゆむはじっと雪を見つめていた。そしてやっと口を開いた。

「今度の試合で涼が思いっきり、プレーできますように…」

ドキン…

「…えっ」

「いくよ?いっせーので!」

「ちょっ…」

チカラの限りをこめて、思いっきり遠くへ跳んだ。

ずぼぼっ。

二人の足が雪に埋まる。

でも涼はワンテンポ遅れた。

突然、あゆむがあんなこと言うからだ。

「う、つめた!!綿のようでもやっぱり雪だね〜」

さっきのはなんだったのか。

一瞬胸が高鳴った、あれは…

「…ったく。ほら」

涼があゆむにマフラーをもう一枚かけてあげた。

「真ん中までいくぞ!!」

「うわぁ涼!?」

今度は涼があゆむの手を取り、雪いっぱいの校庭を真ん中目指して走り出した。

歩くのも困難な雪の校庭を。

ずぼっと、一歩踏み出すたびにバランスを失いそうになる。

でもそれがなんだか楽しくて…ずっとこの時間が続けばいいと思った。

あゆむも涼も寒さを忘れて、一直線に真ん中に向かってつき進む。

涼はあゆむをちらっと見る。

こんな休日もいっか―――…

やっと校庭の真ん中あたりになった。

二人は顔を見合わせるとベッドに飛び込むかのように雪めがけて飛び込んだ。

「わっ冷たっ!」

「雪だからな」

「でも一度やってみたかったんだ。雪に飛び込むの」

「叶って良かったな」

「うん!」

仰向けになり空を仰ぎ見る。

積もった雪が多くて、身体が埋もれる。

周りを雪に囲まれた空。

真っ白い枠で切り取ったかのような空を二人でしばらく見つめた。

空気が澄みきっていていつもより綺麗な空に見えた。

突然、あゆむは雪の中で涼の手を繋いだ。

「あゆむ?」

「涼ごめんね。いつもわがまま聞いてもらって」

「…どういたしまして」

「私、ときどき思うんだ。もし涼に会えてなかったら、どうなってたんだろうって。

でも想像できないんだ。私の日常は涼の存在でいっぱいだから。涼は…どう思う?」

少し震えた。

もし否定されてしまったら、私の存在を否定されたことになるから……

「俺はお前が来てから散々だったよ。全くいつもわがままに付き合わされてさ。」

「……っ」

それは否定できない。

私のせいで涼には大変な目に合わせたことが何度もある。

涙が出そうになった。

泣いても今は雪が邪魔して涼には見えないはず。

でも涙が目から零れ落ちる前に、涼は続けた。

「そのおかげで決して忘れられない思い出がたくさんできたよ。…サンキュ」

照れてるのが声からも感じとれた。

涼はあまり自分の気持ちを口に出さない。

それなのに今、ありがとうっていってくれた。

勇気を出して言ってくれたんだ…

繋いだ手から、涼の温かさを感じる。

「…涼、………」

「今何か言った?」

「ううん、内緒!」

そういって笑ったあゆむの顔に涙が零れた。

でもそれはキラキラと輝いてとても素敵な涙だった。

涼に出会えて良かった…!

涼、大好きだよ……!!

空を見上げたままあゆむが再び呟いた。涼に聞こえないようにそっと。

雪が降った後は空気が澄み渡り、清々しい空になっている。

青がとても美しい冬の空。

もしかすると今の二人の気持ちもこの空のようだったかもしれない。

「そろそろ帰ろっか」

涼が口を開いた。

「そうだね」


帰り道、雪のせいで人気のない道を歩く二人。本当に二人だけの白い白い世界。

「くしゅっ!!背中が冷たい」

あゆむが体を丸めていう。

「あれだけ雪の上に寝転んでいたら、服も濡れるさ」

「………」

「けど久しぶりに子どもに戻ったみたいで楽しかったよ」

「涼……じゃぁ、また二人でどこか行こうね!」

「えっ…でもほどほどにな…」

「分かってるよ〜」

「あゆむの分かったは当てにならないからな。いつだって口だけ」

「そんなことないもん」

つん、とあゆむはふくれた。

「ははは。なんだその顔!」

涼が笑う。

「……」

笑われるような顔をした覚えはなかったので、あゆむは恥ずかしくなった。

「黙ってれば可愛いのに」

「……!?」

…え…!??

「今何ていったの!?」

「へ!?」

涼も自分が言ったことの重大さに気付いた。

「な、な…何も言ってない」

「うそぉ。言った。今言った」

「…だ、黙ってれば…」

「黙ってれば、何?」

息をのみ、静かに待つ。

「…もういい!うるさい」

涼は走りだした。

ちらっと頬を赤く染めているのが見えた。

それって、少し期待してもいいってことかな。

いつかきっと大声で、涼に好きって言ってやる!!

「待って!」

急いでその後を追う。

やっとの思いで腕を捕まえた。さすがサッカー部、足が速い。

でもあゆむも負けてはいられない。

何があってもほどけないように力いっぱい握り締め、雪の残る道を走る。

まだ明日からも冬休みは続く。

クリスマスには、手編みのマフラーでも送ろうっかな───…

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